第二部
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 その日の、学校からの帰り道、『幽霊屋敷』の前で、ボクは立ち止まってみた。
 屋敷には誰もいないみたいだった。サトミとヒロシが見たという男なんて、影も形もない。
 ボクは少しがっかりした。
 幽霊屋敷に住んでいる黒ずくめの男と、その呪いの話。
(『呪い』をかけられて風邪で寝込んでいるサトミとヒロシには悪いけど)マンガみたいで面白い話だと思ったのに。
 ボクは足元のゴミを蹴っ飛ばして幽霊屋敷の中に放り込み、ちょっとだけうさ晴らしをすると、歩き出した。
『幽霊屋敷』のすぐ隣、ボクの住んでいるアパートの入り口には、いつも、三毛猫がひなたぼっこをしている。名前はミケ。見たまんまだ。
「ミケ、黒い男なんているのかな?」
 なんとなく諦めきれなくて、ボクがそうミケに尋ねると、ミケはあくびをしてそっぽを向いた。
「シカトすんなよ、ミケ」
 ボクはしゃがみ込んでミケの頭を掻いた。
「なぁあ〜ご」
 ミケは一声鳴いて、もう一度あくびをした。
 と、そのミケがぴくりと動いて、ボクの手をわずらわしそうに避けた。真顔(猫の真顔ってよくわからないけど、そんな風にボクは感じた)で、じっとボクの後ろの方を見ている。
 何を見ているんだろう?
 ボクは気になって、しゃがんだまま振り向いた。
「あっ」
 ボクは思わず、小さく叫んでいた。
『幽霊屋敷』の前に、黒い長いコートを着た、長い髪の男が立っていた。
 コートの裾が風にはためいて、まるで黒いマントを羽織っているみたいだ。
「ふーっ」
 ボクの手元で、ミケが背中の毛を逆立てて唸った。
 すると、男がこっちを見た。
 まるで、ミケの唸り声が聞こえたみたいだった。でも、ふつう、あんなところまで聞こえるワケがない。
 ボクは、そのまま動けなかった。
 男の目とボクの目が、ぴったり合った。
 どうしよう。
 ボクは目をそらせなかった。
 なんだかすごく色が白くて、痩せていて、ずいぶんキレイな男の人だった。最近テレビとかで見かける歌手みたいだった。
 男はしばらくボクのことを見ていたが、急に、にっと笑った。まるで、何でもないよ、とでも言いたそうな笑い方だった。裂けたみたいな大きな口に見えた。
 ボクは、戸惑いながらつられたように、笑った。
 ごまかさなくちゃ。
 急に頭の隅で、風邪で学校を休んだサトミとヒロシのことが気になりはじめた。
 本当に風邪なんだろうか。もしかして、本当に呪われちゃったんだろうか?
 あの男を見たから?
 そうだとしたら、ボクも、もしかして……。
 ボクの見ている目の前で、黒い服の男はそのまま、『幽霊屋敷』の中に吸い込まれるように姿を消した。

 ボクは走って家に帰ると、ランドセルを放り捨てて、銀の十字架を探した。それはボクの宝物入れのチョコレートの缶の中にあるはずだった。
 ……あった。
 その十字架を握り締め、ボクは窓の方を向いて神様にお祈りをした。
 少しだけ、気が楽になった。
 頭やお腹が痛くなってもいないし、気持ち悪くもない。
 あの男の呪いは、まだ効果を出していないようだった。それとも、この十字架が効いたんだろうか?
 ボクはまじまじと十字架を見つめた。
 きっと、そうなんだろう。夏に『幽霊屋敷』を探検したときに、幽霊が出てこなかったのも、これのおかげなんだ。だから、きっと今も、あの男のかけた呪いをはねかえしてくれたに違いない。
 ボクは十字架を握り締めて、考えた。
 あの黒い服の男は、なんだかヘンだ。ミケは唸るし、とにかくヘンだ。
 学校でケータの言ってたことは、間違いじゃないのかもしれない。
 本当に、あの幽霊屋敷でなにかをやっているのかもしれない。サトミとヒロシは、きっとそれを見て、あの男に呪いを掛けられたんだ。
 でも、一体、あのひとはあの幽霊屋敷で何をやっているんだろう?
 見られただけで、呪いをかけちゃうぐらいなんだから、きっと悪いことだ。
 昔から、いたのかな?
 今年の秋に首吊りをした女の人は、イケニエか何かなのかもしれない。
 でも、一体、あのひとはあの幽霊屋敷で何をやっているんだろう?



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