第三部
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 翌日、ミケがいなくなっていた。
 朝、学校に行くとき、ミケがあの『幽霊屋敷』の入り口から中をうかがっていたのを見た。
 帰ってきたら、いつもの場所にいなかった。
 きっと、あの黒ずくめの男が連れてっちゃったに違いない。
『幽霊屋敷』の黒ずくめの男。
 あのとき、ミケが唸ったりしたから。感付かれたと思って、さらって行ったんだ。
 やっぱり、あの男は悪いことをしてるんだ。
 かわいそうなミケ。
 ボクは密かに決意した。
 ミケを助けなくっちゃ。大丈夫、ボクにはあの十字架がある。あの男の呪いが、効かなかったのは、あの十字架のおかげなんだから。
 ボクは宝物入れのチョコレートの缶を開けると、銀色の十字架を取り出して、鎖を首に掛けた。
 それから、ミケがケガしていたときのために、バンソーコーを何枚かポケットに突っ込む。
 そうだ、ミケだってお腹が空いてるかもしれない。台所の戸棚を探して、にぼしを見つけジャンパーのポケットに入れた。
 台所のテーブルの上には、晩ご飯のしたくと母さんの書き置きがあった。何をどうやって温めるかが書いてあった。そう言えば、今日は母さんはおばさんが病気だとかで、帰って こないんだったっけ。
 ちょっと不安になったけど、よく考えたらちょうどよかった。どれぐらい時間がかかるかもわからない。遅くなったら、きっと母さんは怒るだろう。
 ボクは、そう自分に言い聞かせて、家を出た。

 今日の『幽霊屋敷』は、なんだかいつもと違って見えた。
 いつもよりしんと静まり返っている。まるで息を詰めて、こっちの様子を見ているみたいだった。
 ボクは門のカゲに隠れて、中の様子をうかがった。
 耳を澄ませてみたけど、何の物音も聞こえない。ミケの声も聞こえない。
 ボクはどきどきしながら、半分開いたまんまの門の中に足を踏み入れた。そのとたんに 空き缶を蹴ッ飛ばして、ボクは飛び上がるほど驚いた。
 空き缶は派手にすっ飛んで、屋敷の玄関まで転がって行き、大きな音を立てて止まった。
 ボクは息を止めて、そのまんま動けなかった。
 でも、誰も出てこなかった。あの黒ずくめの男は留守なんだろうか?
 念のために一分ぐらいじっとしていたけれど、誰も出てこなかった。
 よかった。
 ボクは長いため息をついた。
 それでもとりあえず、抜き足差し足で玄関まで辿りつくと、ボクはゆっくりとドアを引いた。
 ぎいぃぃぃ……。
 イヤな音だった。まるでホラー映画に出てくるみたいな音だ。
 ボクは首に下げた十字架を左手で握り締め、勇気を振り絞って屋敷の中に入り込んだ。
 耳を澄ませてみたけど、やっぱり誰もいないみたいだった。ボクはぎぃぎぃ言うドアを閉め た。
 中はずいぶんホコリだらけだった。歩くと、床に足跡が残るほどだ。
 屋敷の中には大きな足跡がいっぱいあった。きっと、あの男の足跡だろう。よく行き来す るんだろう。ホコリが踏み散らされてなくなっているところもあった。
 ボクは、部屋の隅に小さな点々を見つけて走り寄った。
 ネコの足跡だ。
 間違いない、やっぱりミケはここにいるんだ。
 ボクはミケの足跡を追うことにした。ミケの足跡は気まぐれにあちらこちらをぐるぐる回り、 階段をのぼり、寝ッ転がり、そのうち、また元の場所に戻ったり、手すりに登ったりしてい た。
 ボクはミケの足跡が、どれがどれだかわかんなくなってしまった。今、目の前にあるミケ の足跡は、さっきボクが追いかけたものかもしれない。その証拠に、ボクの足跡が横を歩 いている。
 ボクは途方にくれて、そばのドアを開けてミケを探すことにした。
「ミケ!」
 ミケがいた!
 ボクはその部屋の真中で長々と寝そべる三毛猫を見て、小さく叫んだ。
 でもミケは動かなかった。
 とってもイヤな予感がした。
「ミケ」
 ボクは近づいて、ミケの背中に触った。
 ボクはびっくりして、思わず手を引っ込めた。
 ミケは冷たかった。
 抱き上げようとすると、首がぐにゃりと変なふうに垂れた。
「ミケ……」
 ミケは死んでいた。



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