第十一話
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襲撃は唐突だった。
しかし、反撃も素早かった。ドリィとハッピートリガーの二人には、襲撃があることぐらいとっくに予測済みだったのだ。
彼らはあの後、あの『青いアンプル』を複製し、更に廉価でストリートへとばら撒いたのだ。しかも、コンバットドラッグとスマッシュ、この二つの区別も付けずに、だ。報復が無い方がおかしい。
そもそも、その報復を彼らは待っていたのだ。自分らの身を釣り餌にした彼らの竿に、標的は見事引っ掛かった。後は、その魚に引きずり込まれる前に、引き上げるだけだ。
「ほうら、引っ掛かった」
ドリィは冷笑を浮かべ、ハッピートリガーを振り返った。彼は、怒りの混じったような嘲るような笑みを口元に張り付かせて、ドリィの指す監視モニターに目を遣った。そこには、彼女の敷地の外を、不穏な空気をまとってうろつく男達の一団が映し出されていた。この界隈で見かける顔ではない。よく目を凝らせば、懐に忍ばせた銃器に気付くことができるだろう。いくらこの辺りの治安が悪いからと言って、無意味に騒動が起きる訳ではない。心当たりはただひとつ。
「Welcome」
彼は口元を大きく歪めて笑い、彼らを待ち受けるために持ち込んでいた重アサルトライフルを引っ掴んで、店のドアを蹴り開けた。
「It's a Show Time!」
彼は嘲るように一言吠えて、ギャングの一団に向かってトリガーを引き絞った。鉛弾の雨がギャングの5人に襲いかかり、苦痛を与える間もなくあっと言う間に彼らを肉の屑へと変える。思わぬ先制攻撃に、慌ててめいめいの身を隠した残りのギャング達は、それぞれの獲物を引っ張り出して闇雲に撃ち返すが、そんな無様なへっぴり腰で当たる訳がない。
扉枠の鋼鉄に火花が散り、無骨なコンクリートの壁の破片が散った。
「No、No、No!」
ハッピートリガーは笑い声を上げてドアを閉め、撃ち尽くして空になったマガジンを引き抜き、新しいものと取り替えながらドアの脇に身を寄せて身を低くした。近付いてくるギャング達の足音が聞こえる。彼は銃口をドアのど真ん中に定め、まるで鮫のような笑みを浮かべながら、彼らが扉を開ける瞬間を待ち受けた。
「最低」
ドリィは彼の動作を見て吐き捨てるように呟くと、作業台の陰に身を投げ込んだ。ハッピートリガーは、入ってくるギャングを待とうとしている。つまり、この店の中まで戦場にするつもりなのだ。
彼女は、事が済んだらハッピートリガーに浴びせる為の罵声を幾つか思いつくと、忘れないように頭の片隅に留め、外の様子を映し出している監視モニターに目をやった。
モニターの中のギャングが一人、ドアを開けようとしている。残る六人がそれぞれの獲物を構えて目配せをし合っている。ドリィは耳を塞ぎ、身を縮こまらせた。
鋼鉄のドアが勢いよく開かれ、銃弾の嵐がドリィの頭の上を通り過ぎる。正面の壁にあった額縁が弾け飛び、古い新聞記事のスクラップが紙吹雪になった。きちんと積み重ねていたアルミ材が飛び跳ね、ひん曲がり、散乱する。
その嵐が小止みになった隙をついて、ハッピートリガーはぽっかりと開いたドアに向かい、たっぷりと鉛弾をくれてやった。弾を撃ち尽くしたサブマシンガンを構えていたギャングが一人、顔面に血の花を咲かせてひっくり返った。報復とばかりに、ドアの向こうから突き出された手がハッピ−トリガーに向かって拳銃を乱射する。
ハッピートリガーは驚くべき身のこなしで、背後にあった鉛のインゴットの陰に飛び込んだが、一発の小さな9mmの弾丸が、その足を撃ち抜いていた。彼は突如の足の痛みに苛立ちの声を上げた。
「Shit!」
ハッピートリガーの苦痛の混じった罵声に、ドアの外のギャング共が色めき立った。
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