第十二話
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 ギャング共は、足を撃ち抜かれたハッピートリガーに体勢の建て直しをするチャンスを与える間もなく、店舗兼作業場のドリィのテリトリィへとなだれ込んだ。ハッピートリガーは残り少ない重アサルトライフルの弾丸を全て吐き出させて更に二人のギャングの命を奪ったが、残りはまだ4人も残っていた。マガジンの交換をする間もなく飛び込んできたギャングの一人が彼の頭を銃杷で殴りつけ、昏倒させる。
 ドリィは作業台の陰に身を潜めたまま口汚く罵り始めた。
 店の中に招き入れてしまうなんて、どうかしている。挙句、このザマだ。
 自分らの優位を確信したギャング共は、姿は見えねど耳には聞こえる女の声に下卑た笑みを浮かべながら、作業台の陰に隠れたドリィに向かっていやらしい猫撫で声で声を掛けた。
「バラされたかぁねぇだろ? 大人しくしてりゃ、たっぷりいい思いさせてやるよ、俺達全員でなぁ?」
 下卑た笑いが部屋中に響き、ドリィはこれ以上無い嫌悪の表情を密かに浮かべてから、急に媚びるような表情を取り繕い、作業台の陰からゆっくりと立ち上がった。煽情的なドリィの姿に、男共の好色そうな目が釘付けになる。
「……『いい思い』? 本当に?」
 ドリィはポルノ雑誌の表紙を飾る女のように、引っ掛けていた白衣をするりと床に落として作業台の上に手をついた。男達の舐めまわすような視線を一身に引き付けたことを確かめ、彼女は上目遣いに男達の顔を見回す。強い者に媚びるその目付きと、男の支配欲と肉欲を刺激する肉体を誇示するそのポーズは、計算され尽くしたものだ。
 男達の表情が一様に緩み、これから起きることへの期待に胸を躍らせているのがありありと見て取れる。次の瞬間、ドリィは今までの痴態をかなぐり捨てて怒鳴り声を上げた。
「死にやがれ、このブタ野郎ども!!」
 その罵声が響き渡るや、部屋の四隅に堆く積まれたガラクタがやかましい音を立てて崩れ落ちた。一体何が起きたのか、ドリィを除いたその場の全員が反応する前に、耳を聾せんばかりの激しい銃撃音が部屋中に響き渡った。ギャング達は、何が起きたのか把握するまえに、全身を銃弾に引き裂かれ、それこそボロ雑巾のようになって息絶えた。血の生臭い匂いが部屋中に立ち込める。
「ストップ」
 血まみれの肉塊になって床に横たわる連中を、嫌悪の表情で見下しながらドリィがそう呟くと、部屋中に吹き荒れていた銃弾の嵐はぴたりと止んだ。部屋の四隅、ガラクタに隠れるように設置されていたマシンガンの薬莢が澄んだ音を立てて床を転がっていき、静寂が再び舞い戻ってきた。
「……生きてる、ハッピー?」
 ドリィは冷たい口調で、鉛のインゴットの陰で硬直しているハッピートリガーに声を掛けながら、部屋の中に血と肉をぶちまけている死骸を探ろうとして諦めた。身元を推測できるような何かを持っていたとしても、挽肉に変わっている男達と一緒に細切れになっているに違いない。
「……俺まで殺す気か? え?」
 ハッピートリガーは咽の奥に何かが詰まったような声で言い、恐る恐る身体を起こした。部屋の四隅に隠されていたまだ熱いマシンガンの銃口に目をやり、思い出したように身を震わせ、彼は傷付いた足を引きずりながら立ち上がった。
「動かなければ、撃たれやしないわ。大丈夫だったでしょ」
 ドリィは肩を竦めて、何でもないことの様にそう言った。
「結果的には、な。……動体センサーに識別ビーコンか。おっそろしい女だな、おめぇは」
 ドリィの仕掛けを見抜きながら、ハッピートリガーは呟いた。動く物を感知して作動するようにマシンガンを仕掛け、自分は間違っても撃たれないように、万一射線を塞いだ時は射撃を一端停止するよう信号を発するビーコンを持っているに違いない。その呟きを聞きとがめ、ドリィは振り返った。物言いたげな彼女の顔を見るまでもなく、彼は言った。
「俺が殴り込んだとき、殺ろうと思えば殺れたワケだ」
「……伊達に、『女手ひとつで商売してるだけのことは』ないわ。そう言ったのはアナタでしょ」
 ドリィは澄ました顔でそう言い、今度は部屋の外でハッピートリガーが仕留めた男達を漁るべく、扉を押し開けた。



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