第十六話
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ダンスクラブ『ミラード』の中が静かになったその一瞬に、ハッピートリガーは『ミラード』の向かい側に停めてあるNCPDの車に近付いた。いらぬ警戒を呼び起こさぬように、両手は見える位置に置き、彼は車の中で現場を監視しているC-SWAT隊員に能天気を装って声を掛ける。
「HELLO?」
中にいたサイコ部隊の黒人隊員は、サイコめいた虚ろな目で彼を一瞥し、短く言った。
「邪魔だ。失せろ」
ハッピートリガーはいかにも心外そうな表情を浮かべて後ずさり、おどけたように両手を上げた。
「おいおい、俺は手伝ってやろうって言ってんのさ」
「入隊希望なら、署の受け付けに言え」
隊員の対応は素っ気無かった。ハッピートリガーが愛想笑いを浮かべて尚も言い募ろうとしたその時、サイコ部隊の男の手がいきなり助手席に置いてあったショットガンを掴み取った。彼が咄嗟に反応する間もなく、サイコ部隊の男はショットガンを大きく振り、ハッピートリガーとは反対側の窓の外へ向けてぶっ放した。
ウィンドウが真っ白にひび割れ、砕け散り、その外遠く10メートルほど離れた所にいた男達が慌てふためいたように右往左往した。しかし、その人並みの間に、サブマシンガンや拳銃の類で武装した人間が混じっていることに、ハッピートリガーは気が付いた。身にまとうカラーから察するに、『ミラード』のメンバーだ。
それを見てとるや、彼は咄嗟にアスファルトを蹴ってその場から建物の陰へと飛びこんだ。振り返った彼の目の前で、サイコ部隊の車に弾痕が穿たれ、撃ち返す隊員の左肩から血が迸り、顔が朱に染まったのが見えた。頭の半分を吹き飛ばされながら、その隊員はショットガンの弾倉が空になるまで撃ち尽くし、全身に銃弾を撃ち込まれて痙攣しつつ仰向けに倒れて見えなくなった。
ハッピートリガーは地面に這いつくばり、建物の縁からそっと目を出して通りの様子を伺った。武装した男達の向こう
に、見覚えのある女の姿があった。
「ティア……ァッ!」
ハッピートリガーは一言吐き捨てると歯軋りをして顔を歪め、ザックの中から廃品寸前のサブマシンガンを引きずり出した。
大通りでの激しい銃声を耳にするのと、彼がスタッフルームの扉のノブを掴むのとは、殆ど同時だった。
「隊長、ワニンが殺られました。容疑者らしき女を発見」
2階を制圧した隊員から報告が届き、ルナティックは任務中にしては珍しく舌打ちして苛立った声で返信した。
「表を制圧しろ。私は内部の制圧を続行する」
そして彼はスタッフルームの扉を力任せに開いた。
ハッピートリガーはサブマシンガンを両手で構えて立ち上がり、大きく息を吸い込むや通りに飛び出し、『ミラード』の男達に守られながら通りを走るティアめがけてトリガーを引いた。通りを横切るように大股で走りながら、弾丸をばら撒くと、幾人かの『ミラード』の男が苦痛の呻きと共に転倒するのが見えた。
ダンスクラブ『ゴールライン』の脇に転がり込んで身を守りそっと表を伺うと、彼の標的であったドラッグディーラーのティアは左足首の辺りから血を流して転倒していた。
ハッピートリガーが躍り上がって思わずガッツポーツを決めようとしたとき、『ゴールライン』の中で低い破裂音が轟いた。それが何の音なのか思い至るその前に、今度は『ゴールライン』の上の方で爆音が響き、コンクリートの破片と共にC-SWAT隊員が一人落ちてきた。
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