最終話
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戦意を失った『レイザー』の面々と、真藤率いる『アルファ・ボム』を追い返した後、慎二は浩介を叩き落した辺りを振り返って長い溜息をついた。
今の一件で完全にビビッた『レイザー』が馬鹿を仕出かすことはもうないだろうし、『アルファ・ボム』は今までと変わらないだろう。
「慎二」
城谷の声だ。
振り返ると、城谷が独りで公園の入り口に立っていた。
「なんだ? 浩介ンとこに行かなくていいのかよ、リーダー?」
「茶化すな」
城谷は苦い表情を作って、慎二を睨み付けた。
「……どういうつもりだ?」
「何のことだよ」
「何で、真藤に本当のことを言わなかった。お前は『レイザー』に殴り込んじゃいねぇだろ」
慎二は城谷の追及に、微かに怯んだような表情を浮かべた。
「……そうだったっけ? 忘れてた」
「それに『レギオン』で浩介に殴り倒されたのは、わざとだな?」
「え? いやあれはマジだって。ちょっとあの世が見えたっての」
「茶化すな! お前があの程度で倒れるタマか。恩でも売ったつもりか?」
掴み掛かる勢いで城谷は問い詰めた。
「いや……、普通は死ぬだろ? お前、人を何だと思って……」
慎二はぶつぶつと口の中で呟いたが、ごまかしきれないことを悟って、諦めた。確かに、自分がクリスタルの灰皿で3発殴られて無事で済んでいることは、紛れも無い事実だ。無論、殴られるにもコツがあると言えばあるのだが、今はそんなことを言っても仕方が無い。
「……あん時、騒ぎが続きゃ、連中はぶっ放してた。そうなったら、お前ら完全に巻き込まれちまうだろ」
渋々白状した慎二の言葉を理解するのに、城谷は数秒を要した。
確かに、発砲事件の現場に居合わせれば、状況と理由、背後関係は洗い出され、マフィアの楊と『レイザー』の関係は明るみに出てしまう。そうなれば、その関係を切ろうと思っても、断ち切ることは難しくなるだろう。
「お前……、あの状況で、そんなこと考えてたのか?」
自分を騙した相手を気遣う、そんなお人よしがどこにいるというのだ。
半ば呆れたような城谷の声に、慎二は半分むくれたような表情でそっぽを向いた。
「城谷。お前、引っ込みつかなかっただろ。俺に言われて、はいそうですか、って引っ込めるわけにはいかねぇもんな。……そんなら、引っ込まざるを得ない状況まで追い込むしかねぇだろ?」
「……呆れた……ヤツだ」
「うるせ。……いい加減に目を覚ませよ。あの楊とかいうヤツの言ってた頼まれ事は失敗したんだ。もうお前らンとこには来ねぇだろうよ。お前らがあいつらに踊らされてたことは、まだ公のことじゃねぇし、今ンとこ、俺と『レイザー』が喧嘩しでかしたことになってるだけだ。今なら、何の問題もねぇだ
ろ?」
城谷は顔をそらした慎二の横顔を見つめて、大きく息を吸い込み、そのまま溜息をついた。
一体何を言えばいいのだろう。この男、紛れもなく、大馬鹿だ。下手をすれば、マフィアを相手にまわすことになるというのに、何の義理があってそこまで身体を張るのか、理解できない。
理解できないが、裏を返せばそれは、自分にはそこまで踏み込む度胸はなく、この男にはある、ということなのだろうか。
分からない。分からないのだが……。
オーバーアクションで肩をすくめ、吹っ切れたような明るい声で城谷は言った。
「負けだ、負け! ……どっちにしろ、ウチの連中はもうビビっちまってる。これ以上続けてお前を相手にするなんて言ったら、全員出てっちまうだろうよ!」
慎二は城谷の顔に目をやった。今までくすぶっていた、不穏な雰囲気は消え失せている。安堵の溜息をついて、慎二は伸びをひとつした。
もう、大丈夫だろう。
「やれやれだ。……それじゃ、俺は帰るわ」
「今度、連絡する。……今度は何にもナシで、飲みに行こう」
「そう願いたいね」
「お前が店を決めればいいさ」
「……めんどくせぇよ。城谷に任すわ」
慎二は苦笑いを浮かべて右手を上げ、別れの挨拶に代えると歩き出した。
すれ違いざま城谷は言った。
「……済まなかった」
「気にすんな。些細なコトだ」
城谷の脇を通り過ぎ公園から出たところで、慎二は立ち止まり振り返った。
「それより、もっと重大なモンダイがあるんだよ、俺にゃ」
「……なんだ?」
同じように振り返った城谷の目の前で、慎二は真面目くさった顔で口を開いた。
「……友達と飲みに行って、腕怪我した言い訳って、どうしたらいいと思う? そっちの方がよっぽど大変なんだけど。城谷、お前責任持って、考えてくんない?」
終
あとがき
完読ありがとうございます。
この物語は『幽霊屋敷』と同様に、オリジナルRPG『ARRS』のサプリメント『MYSTIC PUNK』を題材に書かれています。
『幽霊屋敷』をご覧になった方は、魔法や怪奇現象の発生しないこの作品に物足りなさを感じてしまうかもしれませんね(笑)。
もう、諦めてくださったかもしれませんが、やっぱり緋ヶ崎慎二はこのTRPGにおける私のキャラでございます(笑)。
『緋ヶ崎』などという妙ちきりんな苗字は、相棒に「兄弟のキャラを作ってみよう!」と言われた際にそいつが付けた名前なので、「ンな変な苗字があるか!」などというツッコミはご勘弁ください(笑)。
作中で述べた、『鉄塔大巨人』なる恥ずかしい通り名や、武勇の数々は、実際にプレイ中にあった事であり、私の責任じゃあ、ありません♪ ふふ。
この作品は、サークル会報に載せたものを加筆修正して転載したものです。
許可は取っていませんが、その会報には『無断転載も面白いかもしんない』と注意書きされていたので、おそらく構わないのでしょう(笑)。
ご意見ご感想などは、意見交換ノートへよろしくお願いいたします。
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