第二話
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 近付いてきた誠一と慎二の二人連れに気付いたろくでなしの集団は、騒ぎ立てるのを一時中断し、 無作法な闖入者をじろりと睨んだ。
 せっかく無理矢理引っ掛けてきたガイジンの美女と、これから楽しくやろうとしているときに邪魔をすんな、 という視線だが、誠一の棘のある冷ややかな視線と、慎二の姿(と言うよりもむしろ体格)を見て、その 敵意は一瞬にして萎えていく。
「……おい。馬鹿やるのもいい加減にしろ。無為矢理連れ込まなきゃ女と遊べないぐらい、自分の顔に 自信がねぇってわけでもねぇだろ」
 慎二が低い声でそう言いながらろくでなし集団を睨みまわすと、あっと言う間に連中が怖気づくのが 手に取るように判った。女の腕を掴んでいた手を離し、逃げるタイミングを計っているのが露骨に見える。
「おいおい慎二。自信だけあったって、女は寄っちゃ来ねぇよ。もうちっと、素材をなんとかしないとなァ?」
 突き刺さるような挑発の言葉を誠一が吐き出したが、彼らの怒りを買うことはできなかった。よほど 意気地無しの集団なのだろう。誠一は、それが余り面白くないようだった。
 が、その中に一人だけ、憑かれたような目をして睨み返している男が混じっていた。
 その男がまるで雲の上を歩いているような頼りない歩き方でふらりと前へ出てくると、薄ら笑いを 浮かべて二人を見下すようなポーズを取った。周りの連中の表情がやめろと言っていたが、最初か ら目に入っていない。
「へへ、正義の騎士サマ気取りかい? カッコいいぜ、あんたら……」
「クスリやってやがんな、コイツ」
 誠一はその男の尋常ではない目つきを見ながら、いたって平静に呟いた。
「そうみたいだな。……情けねぇ」
 うんざりしたような表情を浮かべて慎二は応えた。目の前のラリったジャンキーを眺め回し、 どうにも話が通じなさそうな雰囲気を感じ取ると、彼は面倒臭くなったのか、いきなりその顔面を 殴り飛ばした。
 予期していなかった為か、ラリっていた為か、そのジャンキーは呆気なく殴り飛ばされ、地面に 倒れ込んだ。ただの一発で白目を剥いてダウンしたのは、クスリの影響であろうか、慎二の馬鹿力の せいであろうか。
 震え上がった他の連中を一瞥し、ブッ倒れたジャンキーを顎で指して、慎二はわざと苛ついた ような声と表情を作り、一言だけ言った。
「失せろ」
 ろくでなしの連中は更に震え上がり、媚びへつらうような卑屈な笑みを浮かべて、倒れた男を 助け起こすと、引き摺るような勢いで逃げていった。呆れるほど速い身のこなしだった。
 後には誰も残っていない。
「ち。……あの娘、さっさと逃げ出しちまったみたいだな」
 誠一がつまらなそうな口調であちこちを見回しながらそう言った。確かに、さっきの金髪の女は 影も形も見えない。
「残念だったなぁ、慎二?」
「それはこっちのセリフだろ? 俺は何も期待しちゃいねぇよ」
 揶揄するような誠一の台詞に、慎二は苦笑いを浮かべて言い返した。だが、誠一は尚も言い募った。
「でも、美人だっただろ?」
「うん」
 そう即答した慎二の頭をすかさずぶん殴り、誠一はまるで勝ち誇ったような笑みを浮かべて言った。
「……しっかりチェック入れてんじゃねぇか、バーカ!」



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