蒼の戦姫


人 踏み入らぬ 深山幽谷の尚深く
畏怖によりて その名 呼ばれたる存在あり
その巨躯は見る全てのものを圧し
柱の如き足は 歩む度に大地を砕く
その腕を振るえば 千年の古木も枯れ枝の如し
そびえ立つその姿 当に巨人をも慄かせるなり
猛き顎門あぎとは冥府の門
煉獄より招かれたる業火 大地を溶かし 天を焦がさん
その身 荒ぶる姿にそぐわぬ英明を併せ持ち
魔術の熟達たるや 伝説の導師に勝るとも劣らん
我ら 大いなる畏れを込めて呼ばわらん
古代竜−遥か古代より幾星霜もの永きを生きたる 偉大なりし竜王!

我の如き非才の者なれば 彼の者の前に立たば
ただ伏して慈悲を請うのみ
されど今ここに かの暴虐なる王に挑みし 一人の勇者あり
澄んだ空の色たる蒼をその身に纏い
携えたるは名匠の鍛えし無銘の弧刀
花すら恥らう美しさを持ちながら
双眸そうぼうに湛えた光の強さは
星を千を数千重ねたとて尚敵わず
されど 面に浮かべたる表情は月の如く静謐せいひつなり
彼の者の名 アレクシア・エーデルハイド
その意志は鋼の如く 戦う姿は舞うが如く
故に人 彼女を称えて呼ばわらん
「蒼の戦姫」−美しく 強く 気高き姫神なりと

しじまの内に対峙せる竜王と姫
抜き放たれたる弧刀 月光を蒼く照り返す
竜王は不遜なる輩をこの地より消さんと
その口より紅蓮の業火を放ちたり
されど姫は舞うが如き足取りで
軽やかに赤き死神の抱擁をかわしたる
刹那 姫は蒼き風となり
竜王の身体に弧刀を以って一撃を加えん
竜王の強靭なる鱗はそを阻めども
そは竜王の誇りを切り裂いた
怒れる竜王は 呪によって炎と雷とを招き寄せ
そを姫へと向けて解き放たん
炎と雷 共に姫の身体を打ち据えども
その瞳の光を消す事も
ただ膝をつかせることすらあたわざるなり
姫は徳守護せるものに呼ばわって その身の上に癒しを招かん
斯くの如きを以って 竜王と姫 何十合と打ち合いたり
されど遂に 戦いの終わりは至らん
姫を弑さんと振るわれた竜王の腕
されど姫は それすら足掛りに竜王の背へと移らん
そに在りしは逆鱗 強大なりし竜族の只一つの弱点
戦いの最中 そを見出せし姫は
機を待ちて遂にそを捉えるなり
今こそと 竜王を唯一の敵と想いに定め
荒ぶる御神の憤りをその身に宿し
掌中の弧刀に聖なる力を纏わせ
全霊を以って 逆鱗を突きたるなり
されば竜王 苦悶の咆哮を天に響かせ
その骸 大地に横たえるなり

かくて 死力を尽くせし戦いは終わり
ここに 新たなる竜殺しの英雄が誕生せり
されどその名誉 果たして姫にとっては如何ほどの物
彼女にとりては恐らくは 竜王すらもただの里程
彼女にとりて貴き物とは
竜殺しの名誉よりささやかで
されどそよりも輝けるものであろうから……