銘なき勇士


天地開闢より此方まで
語り継がれる数多の闘いと
語られざりし無数の闘いあり
世人が知ろうと 知らずとも
そは戦いに身を投じし勇士には
与り知らぬところなり
これより 妾が語りしも
斯くの如き闘いのひとかけら

鈍色に重く垂れ込める空の元
そよりもなお 深き色を纏いて立つ影あり
手に携えるは 漆黒に彩られし槍
そが閃く様は まさに闇を喰らう牙
故に人 彼を称せり
−「影なる牙」と

対峙せるは一人の少女
無手でありながら 猫の如き俊敏さで
敵の獲物をかいくぐり
揺るがざる意志で 世界の基たる力を汲み上げ
紡がれる真言 その疾きこと 正しく疾風
故に人 彼女を称せり
−「速き猫」と

天を覆いし黒風の中
影牙は速猫を捉えんと
烈風の如き突きを繰りださん
されど速猫はその槍技
さながら影牙を相手に
タンゴを舞うが如きの
軽やかな足取りでかわすなり

返礼とばかりに速猫も
次々に真言を紡ぐなり
或いは力を減せしめ
或いは炎や雷を呼び
その速きこと 絶えざること
熟達した弓兵の 速射弓にも喩えられよう

されど影なる牙の異称は
即ち虚栄に在らざれば
彼 その悉くを堪え忍ばん
撃に揺らがざること まさしく影
転じて咬み破る一撃 まさしく牙
魔術の力と槍技の粋を以て
速猫を地に打ち据えんとするなり

しかし速猫も異数の魔術師
そは即ち世界の理を深く識りたる者
故に魔力の泉は尽きることはなく
影牙がその槍技を以て
不治なる傷を負わすとも
速猫は世界より汲み上げたる力に因りて
その傷すらも癒すなり

武の天稟 智の天稟
何れ劣らぬ才の持ち主
されど 永劫に続く闘いは無し
途絶えなく放たれる魔術
遂に 影を捉えるなり
影の牙と呼ばれし者
その身を己が影と一にせん

勝利せし者が天に上げた声は何故か
地に倒れし者が何を思うか
今に於いては 全ては荒涼たる風の中……