青空に浮かぶ星

・9年9月まで管理官。

またこの東京で殺人事件が起こった。特捜本部が設置され、所轄に向かう。次々に入る情報。その情報を頭の中で
組み立てながらまた新たな指示を出す。被疑者を追い詰めていく中、携帯が鳴り、別の本部へ向かう。移動中の車の
中で、ふと思い立ちウィンドウを少し下げた。・・・風が顔を弄る。深く息を吸い込みながら、流れる景色の中で動かない
空を見た。蒼天の雲の合間に、白珠の天体が浮かんでいた。

『そういえば、あの時もこんな感じだったな・・・』

私は2月のある日の事を思い出していた・・・。
今日のように、また新たに特捜本部が設置された。あの時の私は、他に3つの捜査本部を担当していた。4つめの
担当である湾岸署で、いつものように指揮をとっていた。しかし、目撃情報は乏しく、凶器も市場に出回っている物で
有力な手がかりとなる物は無かった。連日、捜査員に檄を飛ばしながら何度も資料を検討した。その間に他の本部の
捜査も手掛けたが、いずれも目新しい情報もなく、膠着状態に陥っていた。上からは「いつになったらめどがつくんだ!」
と急かされ、マスコミも警察の無力さを書きたてはじめていた。疲れをみせる捜査員をまえに、『どこか見落としたのでは』
『捜査方法に手落ちがあったのか』と自問自答を繰り返した。まるで、闇の中を手探りでさ迷っているようだった。

そんな時だった。
所轄の青島巡査部長が声を掛けてきた。所轄・・・と言っても彼とはいろいろあったので、まったく知らない仲ではなかった。
喫茶室までついて行くと、急に振り返って彼は言った。
「何やってんスか!室井さん!!」
「・・・・・」
捜査状況が停滞している事は所轄にも伝わっているのだろう。その事に関する抗議・・・・・・
「何て顔色してんスか!!上に立ってる人が先に参ってどうするんです!」
!? ・・・抗議ではなかった。青島は私のことを心配していたのだ。信じられなかった。四面楚歌な状況の中、私にこんな
言葉を掛けてくる人などいなかった。呆然としたままの私の腕を掴んで、青島は歩き出した。


「青島、どこへ・・・・」
「気分転換しなくちゃダメです!とっておきの場所があるんですよ♪あ、こっちです」
前から思っていたが、彼には人の話は聞こえないようだ・・・。私の腕を掴んだまま、階段を登り始める。
「ここなら人もいませんし、落ち着けますよ」
ようやく私の手を離し、青島は屋上へのドアを開けた。途端に明るい日差しに包まれる。冬とはいえ、ずっと日中は車内か
屋内で過ごしていた為、その日差しはかなり眩しく感じられた。青島が閉まらないように押さえてくれている。目を細めながら、
屋上へのドアをくぐった。
「ちょーーっと寒いですけど、ずっと部屋の中にいるよりマシでしょ?」
あの邪気の無い笑顔で言いながらドアを閉め、まっすぐに歩き始めた。私も少し後からついていく。そうして端まで行き、??に
肘をつき、景色を眺めはじめた。私も隣に立ち、彼に倣う。


「室井さん、あれなにか知ってます?」
そう言って青島は、青空にただ一つだけある白い天体を指差した。
「月だろ?」
「あ、やっぱり知ってたんですね」
「?」
何が言いたいのかよくわからない。自分の右側に立つ青島を見ると、なんだかくすぐったそうに
笑っている。私はなにか変なことでも言ったのだろうか?
「なにがおかしい」
「室井さんの事で笑ってるんじゃありません。いや、ちょっと思い出したんですよ」
ポケットに両手をつっこめながら、肩をすくめる。そのまま、やっぱりくすぐったそうに青島は言った。
「俺、小学生の時あれを”地球”だと思ってたんですよねー」
「・・・・・(そこまでバカだったのか!)」
「あ。今、バカだとか思ったでしょ」
「・・・・」
「思ったんですね」
「・・・・」
青島が苦虫を噛み潰したような顔をしてのぞき込んでくる。バツの悪さもあって思わず睨みかえして
しまった。金星だとかならともかく、普通”地球”だとは思わないだろう!そのままお互いじっと見つめ
あってしまった。
が、ふいに青島が肩の力を抜いてまた視線を”月”に戻した。妙に緊張していたのか、私もまた力を
抜いて青空の”月”を眺めた。
「でも室井さん。よく見てください。なんだか模様とか地球に似てませんか?」
・・・・確かに夜の月と比べると似ているかもしれない。月といえば「黄色」、そして「夜」の絶対的なイメージが
あるが、今見ているのは「青空」に「白」という普通なら思いうかばない光景だ。「青」に「白」といえば”月”よりは
ずっと”地球”のイメージに近い。

『これも”月”なんだな』

「ああ、少し似ているな・・・」
「でしょう!」
私に振り向いて嬉しそうに青島が相槌を打つ。
「俺だって最初は『地球が見えるハズない』って思ってたんですよ?でも、どうしても”地球”にしか見えなくて・・・。
 もしかしてなにかに反射するかなんかして”地球”が見えてるんじゃないかってそう思ったんです」
そう言って屈託なく笑う。すると、ふいに突風が吹いた。笑ったまま気持ち良さ気に風に吹かれている。
・・・・・・・・・青島は私にこんな風に話し掛け、笑いかけてくれる。

青島だけだ・・・

私も青島のように風に吹かれてみる。だが、上着が邪魔だった。少し冷えるが上着を脱ぐと、ベストを着ていても気持ちの
良い風を感じることができた。そのまま目を閉じて、深く息を吸う。ゆっくりと息を吐くと、なんだか体が軽くなった気がした。
何度か深呼吸を繰り返してから、目を開けた。すると青島が伸びをしようとしていたのか、両手を上に挙げたまま
『鳩が豆鉄砲をくらった』ような顔をして固まっていた。
「?どうした」
「あ、い、いや。なんでもないっス!そろそろ戻りましょうか!!」



「青島!」



「今日は・・・ありがとう」
この日差しより眩しい笑顔
青島に出会わなければ青空に浮かぶ星も、そよ吹く風さえ気付けないまま私は過ごしていただろう。
それがどんなに淋しいことかが、今の私にはわかる。



初書きです!ベリーショートショートです!(爆)
「青空にある天体?太陽は?」「普通、金星とも思わないだろう!」「月って星か!?」等のツッコミはご勘弁下さい・・・・。
このお話は私のHP作りを気長ぁーーーに待ってくれたまちゃみんに捧げます♪