I Will Fear No Ryuzaki

Part3 花穂 竜崎なんかこわくない

2003/03/23

 場所を選ばずコケまくり、かつコケるたびに記憶を失うという基本性能に変わりはないようだ。億泰……人は成長してこそ価値があるって言ったよなァーッ。

 夏休み中にもチア部に安息の日はなく、毎週月曜日には練習があるのだという。とはいえ花穂のことであるからして人並みの練習量で振付け等々をマスターできるはずもなく居残りやら別の日に練習やらたっぷり行う羽目になるのだろう。想像しただけで涙が出てきそうになったので、花穂の「毎週月曜日は迎えに来て欲しい」という頼みを二つ返事でOKしてしまった。ま、かわいい妹のためなら仕方ないけどね。

 毎日日記をつけることにしたそうな。それは非常に素晴らしいことだ。データのバックアップさえしておけば、どれだけコケて記憶が抜けても深刻なクラッシュは回避できるだろう。それで、日記帳を買うのに付き合ったのだが、花穂は途中で見つけた麦藁帽子にすっかり心を奪われ、日記帳を買うという目標を完全に忘れてしまっていた。言ったそばからこれだ。コケなくても記憶が抜けることがあるらしい。難儀だな……

 花穂の練習光景をこっそり見にいった。チア部の練習をじっとり眺める変態野郎と思われてはならないので、あくまでも遠巻きに、だが。予想通り、というかなんというか練習しているチアガール集団の中にあって花穂の姿は明かに和を乱していた。見かねて指導役の先輩が花穂を一旦はじき出すと、美しく機能し出す始末。春のときは竜崎とかいう先輩が指導に当たっていたのだが、今はどうなんだろう。ちょっと遠すぎて固体識別ができない。とりあえず、正体が確定できるまではマクラスキー竜崎と呼ぶことにしよう。僕は、名前のわからない相手はとりあえずマクラスキーと呼ぶことにしているんだ。

 公園で可憐にばったり出会ったので一緒に散歩してみる。目の前を飛ぶ蝶を見て「なんちゅうでかいチョウチョウや! ワシはあんなチョウチョウはじめて見たぞ!」と喜んでおられた。ははは……大変な蝶マニアですね。

 突然花穂がでっかいカサブランカを鉢ごと持ってきた。自分で育てた花が大きく咲いたから見せに来たのだという。事前連絡もなしに持って来るところが花穂らしいが、まあその点を責めるのは酷というものであろ。園芸は、花穂が人並みかそれ以上にできる数少ない技能の一つだからな。ところが色々きいている内に、「花穂はお花とお話が出きるの」とか言い出した。亞里亞に引き続きおまえもか! このアホをどうしてくれよう、なあグリブル?

2003/03/24

 月曜日は花穂のチア部の練習日。というわけで今日も練習風景をこっそり見に行った。いつ空からタライが降ってくるとも知れぬ、八時だよ全員集合の志村を見ているような気分だったが、花穂は全体練習をうまいことやってのけた。それどころか先輩に誉められている。ま、果てしなく要領が悪いだけであって運動能力が劣るわけではないからな。
 約束通り帰りに迎えに行くと、花穂は妙にはっちゃけており、その点を同級生にからかわれていた。お兄ちゃまが迎えに来るんでしょう、と見事に見抜かれている。どうしてわかったの、と問い返すと、「だって花穂ちゃん、とってもウキウキしたお顔してるもん。おいしいものを食べてるか、お兄ちゃましかないよ」。「おいしいものを食べてるか」……。おまえの食い意地はチア部にも轟いてるのか! このいやしんぼッ!
 あと、やはり遠すぎたので「先輩」とやらの固体識別ができなかった。ま、永遠にマクラスキーと呼びつづけても僕に不都合はないけどね。

 みんなで海に行くから水着選びを手伝って、という花穂からのメール。二つ返事でOKしておいたが、他の妹からのメールをチェックすると……全員「水着を選ぶの手伝って」というメールをよこしてきてやがる。兄のハートをゲットすべく全員で抜け駆けしようとしてんのかよ! この泥棒猫どもが。君ら紳士協定って知らんのか? 紳士協定は別に紳士だけの特権じゃあない。
 そして、ただ一人鞠絵だけがメールをよこしてないのに気づいて涙した。彼女が一体何をしたというのだ。

 学校に辞書を忘れてしまった、という咲耶につきあって学校に行った。無人の教室にいる内に、咲耶は「エルハザードごっこをやりましょ」とか言い出した。えるはざーど? ラブクラフトに出てくるのはアルハザード……とか言っているうちに咲耶は設定を語り始めた。ある日学校の地下からアラビア風の遺跡が発掘される。遺跡のカプセルからぽこっと美女が出てきて、ちょうどその場に居合せた男子学生に抱き着いて愛の告白をする……とかなんとか。ハッハッハッそんな都合のいい話ありまっかいな、と内心思ったがよもや僕が咲耶の意向に歯向かうなどできるはずもないので適当に話を合わせておいた。咲耶は「ここが……学校……」とか呟いて悦に浸っていた。

 つり竿を担いだ衛に出くわした。年頃の娘さんにしてはなかなか渋い趣味だな……。「ボウズ」という単語がするりと出てくるあたり貴様やりこんでいるな!

 見せたいものがあるので海に来てくれないか、という千影の召喚を受けた。ヤシの木の生えた砂浜で待っていると、気がついたら千影がすぐそばに立っていた。あたりに足跡が一つもないのに関わらず、だ。引き潮の魔女……? どこから来たの、と聞いたら「私は……兄くんと会うために……ここへと……やってきた。それだけでいいとは……思わないかな?」と切り返された。なんか、ギアナで死んだと思っていたら、いつのまにかガンダムファイト決勝大会会場にやってきていた東方先生みたいだな。些細なことは気にするな、とも言われた。そんなこと言ったらJ・D・カーが自殺するぞ。
 見せたいものとは、断崖の下部にできた洞窟だった。奥にいいものがある、と千影は言ったのだが、妙な寒気に耐え切れず、途中で引き返した。なんだか伝奇モノめいてきた。なんか海底神殿とか防空壕とか変な記憶がフラッシュバックしてきた……。水に映る月のごとく、僕の記憶は不確かだ……えーと、千影、まさか漏らしてないよね?

 みんなで海に行った時花穂は泳ぐことができなかった。というわけで本日、日を改めて花穂の泳ぎの練習をするためにプールへ行った。本人はメールで「泳ぎ方を忘れちゃった」と書いていたが、実際に実地に出てみたら、顔に水をつけることも一苦労だった。とはいえ「本当に昔泳げたのか?」と聞くのも不毛な行為なので、とりあえず言いたいことを我慢して訓練を続けた。目を放した隙に溺れかねない、という心配が念頭にあったので実にスリリングな水遊びだった。嗚呼。

2003/03/25

 ママから遠くの店へのお使いを頼まれた、という花穂からのメールを受け取った。なに考えてんスか奥さん! 花穂にお使いなどできるはずが……いや、そんなことを言っていたら花穂が成長できないな。とはいえ花穂を一人で遠くにやったらなにが起きるかわかったものではないので、お兄ちゃまもついていくよ、と返信しておいた。翌朝花穂はさも自信ありげに「地図と一杯にらめっこしたから大丈夫」と言いきったが、その地図とやらが僕の目の前に出されることはなかった。どうやら、家に忘れてきたみたいだ。いきなり先制パンチか……。これは予想通りの大冒険になるぞ、と僕は覚悟を決めたのだった。

 そもそもなにを買いに行くのか知らないので、店に向かう途中聞いてみた。なんでも母親が、部屋の模様替えのためのカーテンを欲しがっていうのだという。花穂の細腕でカーテン担いで持って帰れるわけねえだろうが! 奥さん、そりゃ花穂の性格とかじゃなく物理的に無理ってもんですぜ。どうやら僕がついてきたのは正解だったらしいぞ。
 話しこんでいるうちに道に迷った。実のところ花穂は地図を持っていたので、取り出して確認したところ道を一本間違えた模様。地図を持っていても読めなきゃなあ。とはいえ致命的な過ちでもなかったので、予定より少し遅れはしたが目的地に到着した。ところが目的のものを購入する段になって花穂がおろおろし始めた。どうも、財布をなくしたらしい。今度はそっちかよ! すぐに財布を落とした場所を思い出したので事無きを得たが、なんとも神経を使うお使いだった。いつか花穂も一人でお使いをこなせるようになるんだろうか。未来に帰らねばならなくなったドラえもんがのび太を心配する気持ちってこんなんだったのかなあ、と思った。花穂、いつか一人でジャイアンと喧嘩しても負けないようになるんだよ……

 8月15日は雛子にとって大事な日らしい。「おにいたま、なんの日か覚えてる?」と問われたが、終戦記念日であるということくらいしか思い出せない。しかし僕が答えにためらってると雛子が泣き出しそうになったので、「ああ! アレね!? アレ」と代名詞を駆使することによってその場を切り抜けざるを得なかった。なんとか雛子を泣かせずにすんだが、嘘をついてしまった。すまない雛子、僕はどうも何者かに記憶DISCを奪われてしまっているらしいんだ……

 盆踊りの日、一緒に花穂と出店を回った。金魚すくいもやりたいが射的もやりたい。けれど時間があまりない。お兄ちゃまに決めてほしい、と花穂は言ってきた。正直どちらにせよ花穂ではたいした結果を得られぬであろうことが予想されたが祭りってのは楽しめりゃいいんだ。というわけで射的に連れていった。銃身は骨で支えるんだ、とボブ・リー・スワガーの言葉を思い出して適当なことを教えたら、花穂は見事にぬいぐるみを撃ちぬいた。ひょっとしたら、今ならばソララトフにも勝てるかもしれない。やはり、決して運動能力が劣るわけではないのだ。そのくせチアのバトンは落としまくる。何故なのだろう。盆踊りの輪に入ったら早速こけてるし、まったくもって謎だ。

 というわけで花穂のバトン特訓に付き合う。当然僕はバトンなんて振ったためしがないので、できることといえば花穂の練習を見て適当なアドバイスを送ることくらいだ。あとエンジェルラビィの歌を覚えて歌うとか。まじかーるーとわらあー♪ 実はこの歌を聞いてはじめてバトンを振る人のことをトワラーと呼ぶということを知ったのだが、まあそれは余談だ。とにかく花穂は練習を重ねた結果、いままでうまくできなかった振り方もできるようになってきた。とにかく、僕が応援してくれていると信じているときは何事もうまいことこなせるようだ。

 毎週月曜日は花穂のチア部の練習の日だ。だがこのあいだの個人特訓も空しく、花穂はほとんど実力を発揮できずにいた。なんでも、マクラスキーの前に出ると緊張して頭が真っ白になってしまうのだという。それは花穂がマクラスキーに恋してるからだよ、という言葉が喉まで出かけたのを押さえこみ、僕は以前千影から教えてもらったおまじないをかけてあげた。あらゆるものがジャガイモに見えるおまじないだ。おまじないはうまいこといったらしく、花穂は「あらゆるものがスイートポテトに見える」とおっしゃられた。食い意地の張った人間にふさわしい結果だが、とりあえずこれで緊張の問題はクリアできるだろう。
 あと残念ながら、どうやらマクラスキーは竜崎先輩ではないようだ。竜崎先輩はどうしたんだろう? チア部を引退したのか単純に進学したのか、それとも想像もつかないことが彼女の身に起きたのか。別に知り合いというわけでもないが、気になるな……

2003/03/26

 おまじないが効いたのか、花穂はチア部のテストを一発合格した。お兄ちゃまとしても鼻が高いよ、と思っているところに花穂からメール。合格祝いに明日ピクニックに行こう、というのだ。お兄ちゃまへのお礼の意味で弁当を作ってくる、とやる気満々だ。
 花穂の弁当……。春のころ、花穂の作った料理を食べた記憶が蘇る。具体的になにを食べたのかは覚えていない。ただ、石鹸のような蚊取り線香のような味がしたことだけ覚えている。外見がとても食い物には見えなかった事も。神よ、どうしてあなたは兄妹愛を試すような真似ばかりするのです。どんなにまずいものを食っても気取られないよう無表情を保ち続ける訓練を今晩中にやっておこう。
 あと、胃薬をこっそり持参しておこう……

 ピクニック当日。花穂の持ってきた弁当はサンドイッチだった。少なくとも、見た目はサンドイッチに見える。この時点で一種の奇跡なのだが、それを口にした瞬間あまりの驚きに言葉を失ってしまった。サンドイッチが、普通に食える味をしているのだ。それどころかおいしくさえ感じる。ヤバい薬入れてるんじゃないだろうな花穂! と一瞬思ったが結局全部食べ尽くしてしまった。どうやら、昨日の心配はすべて杞憂だったようだ。神様ありがとうございます。ええ僕は花穂のことを信じていましたとも!

 義妹エンド。前作に比べれば、やや性能がアップしているようだ。以前ならば登場シーン中2/3はこけていたところを、今作は1/2以下。相変わらずこけすぎではあるが、成長の跡は見られる。しかし亞里亞に花穂と二人連続のダメ妹はなかなか厳しい戦いだった。というわけで次は咲耶で行く。まあ咲耶は咲耶で困った娘だが。

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