Devil Take the Thief Cat

Part4 咲耶 悪魔に食われろ泥棒猫

2003/03/26

 夏休みということで、前作において醜い戦いを繰り広げた佐々木さんの姿も見えず(正確には咲耶が一方的に喧嘩を売っていただけなのだが)、苛烈な性格の部分はおとなしく引っ込んでいる模様である。少なくとも夏の間は、他者に対する妹の無茶苦茶な言動で胃を痛める羽目には陥らずにすみそうだ。永遠に夏休みが続けばいいのになあ、と神に祈らずにおれましょうか。

 昼間、ぼーっと住宅街を歩いていると何処からともなく咲耶の悲鳴が。駆けつけてみると、咲耶が家の庭で芝生モンスターに襲われていた。キャプテンジャックゾディアック!? どうもスプリンクラーで水をやりすぎたのとオゾン層破壊とイラクの油田炎上による大気汚染との相乗効果で、芝生が知性を持つモンスターに突然変異したらしい。激闘の末なんとか芝生を焼き殺すことに成功したが、当然庭はボロボロになってしまった。咲耶は「お兄様ったらたくましくてステキ」と言ってくれたが、きっと芝生の埋め直しも僕に申し付けられるのだろうなあ、と思って鬱になった。あーイラクめ許せねえ。

 河原ででかい荷物を担いでいる咲耶を発見。母に頼まれて家に持ち帰っているのだという。腕の太い咲耶など見たくもないので、荷物持ちを自ら申し出た。かわいい妹のためだから仕方がないんだよ。というわけで荷物を担いでみたらクソタレ重い。一体中になにが入っているのか気になったが、咲耶は頑として教えてくれなかった。猛烈に気になる……

 可憐から、髪を切ったものかどうか迷っているんです、と相談を受けた。夏だしばっさり切ってみたら、と僕はアドバイスしたのだが、結局可憐は決心がつかず、このまま伸ばしたままにしておこうという話になった。というか髪、切れるんだろうか。可憐の二本の三つ編みの動きを見ていると、まるでラブ・デラックスで操られているように見えるのだが。なんつうか、可憐って言葉や物腰は柔らかいけど、一皮向けば山岸由花子に似てるよな。

 8月1日は登校日。用事をさっさと済ませて、咲耶の家に行ってみる。僕が学校に行ってると思っているだろうから、驚かせようとこっそり忍びこんだまではよかったのだが。居間のソファに座っていた咲耶は僕の写真を取り出すと、すごい勢いでキスし始めた。あわ、あわわ。ここで僕が顔を出すのはお互いの為によくないぞ、と思い来た時同様こっそり帰ろうとした。ところが帰りのルートに目をやると芝生がうねうねと波打っているじゃないか。また芝生モンスターかよ! 今度は僕が悲鳴を上げる番だった。死闘を繰り広げた挙句なんとか倒すことに成功したが、こっそりやって来たことが咲耶にばれて非常に気まずい雰囲気に陥った。おのれフセイン許せねえ!

2003/03/29

 公園であてもなく咲耶と散歩。夏の日差しは女の子のスキンケアの大敵だ、という話になる。その流れで、
「今日の私、いつもと違うんだけど……。気づいていた?」
 と聞いてきた。さて、これは正確に答えないと「お兄様ったら一体なにを見てるのよ」とかクソミソにけなされかねない。僕は熟考ののち、答えをある程度絞った。

1:マフラーの色が違う
2:目つきが悪い
3:ツインテールのカツラを被っているだけで実はデスアーミー

 ……わからない。降参すると、咲耶は正解を発表した。
「正解はね、洗顔クリームを変えてみたのよ」
 わかるかよ! 腹いせに服の肩紐をほどいてやろうかと思ったが、さすがに公衆の面前でそういうことをするのは気が引けるので止めた。さすがに咲耶も笑って許してはくれまい。

 読書感想文を書くために図書館に向かう途中の雛子に遭遇した。特に用事もないので付き添いで行ってみる。読書感想文のお題は特に決まってないらしいので、僕が選んであげることにした。一瞬僕の中の邪悪な心が動いて「ダーティーホワイトボーイズ」「隣の家の少女」「ポップ1280」あたりに手が伸びかけたがなんとか寸前で止め、ごんぎつねあたりで妥協してみる。しかしこれもまた失策だった。悲劇的な結末に雛子が号泣し始めたので、追われるように図書館から出ていかねばならなかったのだ。ごんぎつねでここまで泣くんだったら、「アルジャーノンに花束を」なんか読ませた日には脱水症状起こして死ぬかもな、と思った。

 紅茶でも飲みにいらして、と咲耶の家に誘われた。あそこはかつて芝生モンスターとの死闘を繰り広げたイヤな思い出のある場所なのでできれば遠慮したかったのだが、咲耶の目が「お兄様が私の誘いを断るはずがないわよね?」と無言の内に主張していたので行かざるを得なかった。
 家に着き、居間に通された。僕が妙に身構えてるのを咲耶は不思議に思っていたようだが、とにかく紅茶を準備しに咲耶は台所へ行った。一人取り残された僕は、マントルピースの上に僕の写真を見つけた。この間、咲耶が凄まじい勢いでキスをしていた……いや、あれは「唇をこすりつけていた」と表現するのが正確だろうな。今僕がこれにキスすれば咲耶と間接キスができるぞ、というスケベ心が動いたが、しかしだからといって自分の写真にキスするってのはどんなもんじゃろ? 悩んでいるうちに咲耶が戻ってきてしまったので、結局なにもできなかった。変態行為に走らずにすんだ、と思っておくべきかな……。
 あと、この日は芝生モンスターは姿を現さなかった。しかしいずれ奴とは決着をつけねばなるまい。

 海に行く水着を選びにベティーズへ行った。どの水着にしたものか咲耶は迷っていたが、評価軸はただ一つ、「お兄様のハートをゲットできるかどうか」だそうで。じゃあ咲耶、僕が「実は僕はスクール水着しか興味ないんだ」と言ったらどうするかな? と思ったがさすがに口にするのはためらわれた。愛を試すような真似はすべきではない。ま、咲耶のことだからスクール水着も華麗に着こなすとは思うけどね。

 夜遊びにつきあって、と咲耶からメール。ものすごくドキドキすることを二人でしよう、とのこと。咲耶のことだから、百物語を開催するとかしょーもないオチが待っているのかしら、と思いつつ翌晩合流してみると、咲耶は僕を遊園地のおばけ屋敷に連れていった。当たらずと言えど遠からず、というところかな。
 怖がりのふりをしてベタベタしまくるという咲耶の狙いはあまりにも露骨で、おばけ屋敷に入る以前から悲鳴を上げる始末である。それはおばけ屋敷に対する冒涜だろうが! これはいっちょ漏らすほどビビらせてお灸を据えたらなアカンなあ、と思っていた矢先、咲耶がすごい絶叫を上げた。屋敷内の仕掛けにマジでビビったらしい。次から次へと繰り出されるギミックに咲耶はことごとく悲鳴を上げ、屋敷を出たころにはさながらメンドーサ戦15ラウンドを終えた矢吹丈のように真っ白な灰になっていた。咲耶が落ちつくまで二人でベンチに座り、「僕がついているよ」と言ってあげたが、内心はざまーみさらせとばかりゲラゲラ笑っていたのだった。これほどわかりやすい自業自得も滅多にあるまい。

2003/03/30

 公園を歩いていると、突然背後でドボンと音がした。見れば、四葉が噴水にはまっているではないか。おのれいつの間に! 噴水から引っ張りあげながら聞いてみると、僕が家を出た時点から尾行していたのだという。全然きづかなんだわ。どうやら四葉は徐々に尾行の腕前を上げているらしくそれはまことに喜ばしいことであるが、同時にぞっとした。もし背後にいたのが四葉でなく例の芝生モンスターだったら間違いなく食べられ、僕自身も芝生の一部と化しているところだった。気を引き締め直さねば。芝生モンスターに気配があるのかどうかわからないが……

 ものすごく巨大なスイカが届いたんであにぃも一緒に食べない? と衛の家に誘われた。で、ここは一発庭でスイカ割りでもやってみよう、という話になる。フフフ……日本スイカ割り協会員のこの僕と勝負しようと言うんだな! というわけで僕が先攻でスイカ割りスタート。ここか、と思って棒を振り下ろしたものの、失敗。あきらかにスイカとは違う妙な感触があるだけだった。サテ一体なにを叩いたのカシラと思って目隠しをはずしてみたら、僕の足元で芝生がうねっていた。芝生モンスターだッ! 幸い今日は既に武器を手にしていたので、さして時間もかけずにうまいこと芝生モンスターを撲殺することに成功した。刻一刻とすすむ環境破壊が、芝生モンスターを次々生み出しているのだ。明かにイラク戦争が始まってから頻発しているので、戦争を引き起こしたブッシュは許せねえと思った。

 ポゴルフィットの試合に出るから見に来て頂戴、という咲耶からのメール。つうかそもそもポゴルフィットとはなんぞや? 文面から察するになんかのスポーツであると思われるのだが、聞いたためしのない名前だ。まあ世界にはカバディとかセパタクローとか、その国の中ではメジャーだが外国に出るとさっぱりなじみのないスポーツというやつはたくさんあるので、そういうやつの一つなんだろう。

 翌日、屋外グラウンドに行ってみると、そのポゴルフィットとやらの試合の準備がなされていた。コートの中央には直径15センチほどの棘つき鉄球が鎮座し、すぐそばには明らかに中世の戦士が持つような幅広の剣が三本つきたてられていた。ちょっとまて今からなにが始まるんだ!? と混乱する僕のもとに、今から試合に臨もうとする咲耶がやってきた。小脇に、象でも殴り殺せそうなごっつい六尺棒を抱えていた。なんなんだよこのスゲエ棒は! と聞いてみたが、咲耶は「これ? 今日の試合はオーストラリアンルールだからこれでいいのよ」とわけのわからない答えを返してきた。謎だ……

 とにかく、黙って観戦することにした。六尺棒を空高くブン投げて相手の脳天にぶつけたり、直接殴りに行って相手を地面の中に埋めたり、と見た目にはダイナミックだったがルールはさっぱりわからなかった。試合後に「あの埋められた選手どうなっちゃったの?」と聞いてみたが、咲耶の返答は「あの人? 魔界の地下迷宮の入り口に行ったんじゃないかしら」とやっぱり意味不明だった。わからない。本気でわからない。
 その後二人でデートに行ったのだが、咲耶からは血の匂いがしていた。

 夏祭りの日、僕は少し早めに行って咲耶と合流した。浴衣に身を包んだ咲耶はまたしても、「今日のメイクはいつもとは違うんだけど、わかる?」と聞いてきた。これは正確に答えないと「お兄様ったら一体なにを見てるのよ」とかクソミソにけなされかねない。のだがさっぱりわからなかったので、覚悟を決めて「普段と変わらないように見える」と正直に言った。正解は、「今日の私はナチュラルメイク」だった。つまりメイクしてねえのかよ! メイクがないのがメイク、それが咲耶レクイエム。ということか。
 あと、花火を見ている最中、咲耶と春歌にすごい勢いで迫られた。この二大妄想妹タッグは2000万パワーズなみに危険だ……

2003/04/01

 いずれ来るべき芝生モンスターとの対決の日に備えて、体を鍛えることにした。おかげで咲耶には「お兄様、逞しくなったみたい」と感心された。一石二鳥だ。ウッハウハである。そんなある日、街の中をジョギングしていると遠くから花穂の叫び声が聞こえた。今度は花穂が襲われたのか! と駆けつけてみると、坂の上から花穂が凄まじい勢いで向かってくる。手から取り落としたオレンジが坂を転がるのを、追いかけているだけだった。ええいまぎらわしい! むかついたのでカウンターパンチを決めてやろうと思ったが、花穂がはるか手前でこけたのでなにもできなかった。あーあー。
 花穂のオレンジを拾ってやりながら、芝生モンスターって柑橘系の汁を嫌がるとかいう弱点はないものカシラ、とか考えた。いや、それは猫か。しかし色々試してみる価値はあるかもしれない。

 困っている、という咲耶からのメール。とある男子から交際を申し込まれて困っているらしい。「私にはお兄様がいるからって、交際を申し込まれてもキッパリ断ったのに。信じないというか、そんなコトあるはずないって!」ってそれは明かに断り方を間違えてるだろ。通常、兄を心底愛してるだなんて、そんなコトあるはずない。とにかく、明日一日付き合ってほしいというのだ。僕が彼氏のふりをして街中を練り歩けば、相手も納得するはずだ、と。咲耶に頼まれれば僕に断るなどという選択肢はありえない。まあ、場合によっては「僕の妹になにをするだァーッ!」といちゃもんをつけ、ここ数日の鍛練の成果を試すこともできるかもしれない。相手がごつい野郎でないことを祈ろう。
 で、翌日は咲耶と一日中街を練り歩いた。残念ながら、咲耶を悩ませているという男子に出会うことはなかった。ちッ。せっかく見よう見真似のゲルマン殺人空手の威力を試せると思ったのに。

 結局、芝生モンスターを退治するために町全体に薬が散布されることとなった。かなり強烈な奴らしく、これでモンスターは殲滅できるらしい。ただし人体にも少々有害であるらしく、当日の散布時間帯はできるだけ外出しないように、との通達が出た。幸いというかなんというか、その日は僕と咲耶でかねてから計画していた旅行の日だった。旅行から帰ってくれば、もはや芝生モンスターに悩ませられることはない、というわけだ。素晴らしい。
 僕たちは海沿いのリゾートホテルにやってきた。僕たちは楽しい一日を過ごしたが、晩になって問題が持ちあがった。きっかけは、シャワーを浴びている時に咲耶が悲鳴を上げたことだ。扉越しに話を聞くと、なにか緑色の化け物が窓から覗いていたらしい。おのれ芝生モンスターか! 許せん……咲耶の裸を覗くとはなんてうらやましい……ではなくて、咲耶をおびえさせるとは許せねえ! 僕は狂ったように芝生モンスターを追いかけ、砂浜でそいつを補足した。おそらく、大規模散布から逃げ出した最後の芝生モンスターなのだろう。奴は生きるために必死に僕に立ち向かってきた。まさに、種の生存本能という奴を背負っていた。だが僕も咲耶を守らなければならないのだ! あちょーッ!
 足元を波に取られながら、僕たちは延々と殴り合った。永劫とも思える殴り合いの果て、最後まで二本の足で立っていたのは僕のほうだった。しぶきを上げて大の字に倒れた芝生モンスターの体は、やがて波に攫われ沖のほうへと流れていった。奴のためのレクイエムとして、僕は砂浜に立ち尽くして「椰子の実」を歌いつづけた。それが最後まで生きることを諦めなかった奴へのせめてもの手向けだ。なーがーれおっつっいきょおのなーみーだー♪

 義妹エンド。佐々木さんとか、兄との仲を冷やかすクラスメートとかが出てこないから、従って咲耶の人間として問題のある部分が出てこない。ちょっとつまらんなー。
 次は鈴凛。かなりのテコ入れがなされているらしいが、どうなりますやら。

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