| 2003/05/25 実は白雪サン、いまだに僕のために弁当を作り続けてくれているのだ。むう。弁当届けるために四時間目をサボっていたとか白雪自身が疲労困憊とか、春先に問題になっていたというのに。これを強迫観念といわずしてなんというのか。兄としては、毅然とした態度で白雪の弁当の受け取り拒否をしなければならないのだろう。白雪は僕のメイドでも奴隷でもないのだから、自分の時間を費やしてまでわざわざ料理を作ってくれる必要はない、と。でも春先は説得しようとして失敗、「にいさまなんか即身仏になってしまえばいいですの!」とかすごい勢いでブチ切れられたからなあ。慎重に、白雪の気持ちを傷つけないようにうまいこと言いくるめねば、とか思っているとちょうどそこに夜食を持って白雪がやってきた。わざわざ持ってきたものを無碍に断るわけには行かないし、というかものすごくうまそうなので気が付いたらものの見事に料理をすべて平らげていた。うああッ。これではアカンというのにッ。本当にどうすりゃいいんだ。あの日、俺が白雪の泥団子を食わなんだら、こんなことにはならなかったものを……
白雪は、夏休みの間もにいさまが食うに困ってやせ細りやしないかと心配らしい。このままでは白雪に毎日押しかけられかねない。僕は説得に説得を重ね、白雪の料理をいただくのは週一回という線で合意を見た。というわけで毎週水曜日はデリシャスデー(命名:白雪)となった。デリーシャース! ちょっとMrBIGを思い出した。
エプロンを新調したいので、ものを見繕うのににいさまにも来てほしいとのメールを受け取る。エプロンなんか白けりゃなんでも一緒じゃねえかと思うのだが、それはそれ、料理人にしかわからない機微があるのだろう。
翌日ベティーズに向かう。白雪はあれやこれやとエプロンを見定めていたが、とうとう決心しかねてか、僕にどれがいいか選んでほしいといってきた。ム。他の妹の水着選択システムに対し、白雪は一人だけ特殊なエプロン選択システムか。やるな。
テニスに行こう、と誘われた。炎天下の元運動すんのはかったりいなあ、とも思ったのだが、白雪が特製ランチを作ってきてくれるという話は看過できなかった。なんだかんだ言って、一人暮らしをしているとうまい料理からは縁が遠くなるもので。どっちの料理ショーとか見てるとあまりのひもじさに死にたくなるしな。というわけで招待を受けた。
集合は午後からだった。じゃあさっそく昼飯を食ってからテニスと行こうか、と提案してみたのだが、白雪は「運動してからお食事ですの」と強固に主張してきかない。クソッ。ランチ食いたさに今日は朝から何にも食ってないというのに、こんな状態でプレイしたら倒れるだろうが! と訴えてみても白雪は首を縦に振らない。頭にきたので、テニスでさんざん白雪をもてあそんでやることにした。コートの右端へ左端へボールを打ち分け、白雪をコレでもかというくらい走らせる。そーれ踊れ踊れい! 白雪はテニス初心者らしく、翻弄されまくりだった。そういえば今年春の球技大会のときには鈴凛メカ鈴凛ペアに負けてたもんな。白雪の体力を消耗させダウンさせることにより、僕は思ったより早くランチにありつくことに成功したのだった。頭脳の勝利だな。
2003/05/27
枕を買いに行きたいので付き合ってほしい、とのメールをいただく。確かに僕も最近朝起きると肩が凝って仕方がないから、枕変えてみたいんだよね。
適当に寝具コーナーを渡り歩いた後、枕売り場にたどり着いた。白雪はアレも素敵コレも素敵と次から次へと枕を手に取っていたが、とうとうどれを買ったものかしぼりきれず「にいさまに決めてほしいですの」と言ってきた。エプロン選択システムの次は枕選択システムかよ!? テメェの枕なんて知ったこっちゃねえし自分で決めとけ、と内心で叫んではみたものの、もちろん僕には心のうちを口に出して吐露するなんて真似は不可能だ。ソレなんかいいんじゃないんですか、と適当に選んで差し上げた。
白雪は、僕が選んだ枕を二つ買った。あれれ。二つ買ってどうするつもりなの、と聞いてみたが白雪は口ごもって何も答えない。……白雪、まさか首が二つあるとか?
さて、最初のデリシャスデーがやってきた。白雪の家に行って晩飯の相伴に預かった。メニューは、材料が尋常ではなかった。うなぎにすっぽんに朝鮮人参に霊芝にウコンにアガリスクに冬虫夏草。鼻血が出そうだ。何が問題かというと、白雪の料理はおいしいので、このような鼻血必死のメニューでもあっという間に大量に平らげることができてしまう、ということだ。食べ終わる頃には僕は少々アレでナニな気分になってきたので、そうそうに白雪宅を辞去させていただいた。僕はデリーシャース! デリーシャース! と大声で叫びつつ走って帰宅したのだった。
それにしても。いまさらな疑問ではあるが、なぜに白雪はここまで弁当に執着するのだろう。山にハイキングに行っては弁当、プールに泳ぎに行っては弁当、公園に散歩に行っては弁当。僕と君とをつなぐものは弁当しかないのか!? 弁当がまずかったり奇抜な作品だったりすれば突っ込みようもあるというものだが、白雪は普通にうまいものを作るのでそれ以上突っ込めない。第一白雪がまずいものを作ったら、ただでさえ心もとない彼女のアイデンティティが崩壊しちゃうよね。なんらかの別の趣味を身に着けることをお勧めしたい。ベティーズで売っている「変装スパイセット」をかじりつくように眺めている四葉を見て、そう思った。
2003/05/28
夏バテにやられましたの、と白雪からメール。しかしメールの内容はといえば、「姫が動けなかったらにいさまが痩せ細ってしまう」という主張の一点張りであり、これは献身という言葉を超えてもはや強迫観念と呼ぶべきであろう。寝とけよ。というわけで僕は白雪に引導を渡しに……じゃなくて白雪のお見舞いに行くことにした。
プリンを買って白雪宅に持っていく。ベッドで寝込んでいた白雪は、僕の姿を見ると跳ね起きてお茶を入れようとした。だから寝とけっつってんだろォがァァ――ッ! 僕は容赦なく白雪に当身を食らわせ、ベッドから動けないようにしてやった。本当に、白雪の身を滅ぼす勢いの強迫症をどうしてやればいいのだろう? いっそ彼女のために料理を取り上げてやるべきなのかもしれない、とすら思えてきた。白雪の舌を焼いて味覚をなくすとか。心配だ。
道端で出会った春歌の「かんざしを見繕いたいのですか付き合っていただけませんか」という頼みを断った。白雪のことが心配でそんな気分ではなかったのだ。一瞬春歌の目がギラリと光ったような気がしてものすごくビビらされた。実際、春歌であればかんざしで人を刺し殺すくらい朝飯前だろうからな。次に会う機会があったら、つきあってご機嫌を取っておこうっと。
夏祭りの日。いい気分転換になるだろう、と出店の列を白雪と一緒に歩いたのだが、白雪ときたら焼きそばやたこ焼きを食っては「次のレシピの参考にする」といい、打ち上げ花火を見ては「新しい料理のインスピレーションが沸いた」と宣言。料理から離れろォォ――ッ! そろそろ、真剣に白雪をセラピーに連れて行くことを検討しなければならないかもしれない。
喫茶店にて白雪とケーキを食らう。で、夏休みの宿題の進捗状況を聞くと「ヒミツですの」と来た。もしかしてまだなのかい、と聞き返すと、白雪は「にいさまは、姫のことは何でもお見通しですねの」と頬を赤らめた。ちゃうわい。そんなわかりやすい態度を取られたら丸わかりだろうが。勉強に時間を割くと新メニューの研究ができない、と白雪は嘆く。このままほっとけば、白雪は料理のほかには何もできない駄目っ子になってしまう。それは火を見るより明らかだが、しかし兄として僕はどうすればいいのだろう。途方にくれるしかない。
2003/06/01
駅前で、春歌が途方にくれていた。草履の鼻緒が切れてどうしようかと困っているのだという。プププ。旧時代の遺物でアスファルトの上を歩こうとするからこうなるんだ、という内心の笑みを押し隠しつつ、「おぶってあげるよ」と僕の背中を差し出した。この前のかんざしの件があるだけに、これ以上春歌に冷たい態度をとったら、彼女の殺人拳が僕の脳天に降ってこないとも限らない。それに春歌も、言外に「何とかしろやオラァ」と僕に視線ビームを送っていたからね。
僕は春歌を背負って帰途に着いた。だが途中であることに気がついた。僕が、うなじを春歌にモロにさらしているという事実だ。なんというか、かんざしで僕を刺し殺すにはうってつけのポジションなんじゃあないのか? これはまずい、殺されると肝が急激に冷えたが、いまさら春歌を下ろすわけにもいかない。こりゃ春歌が決心を固める前に春歌の家にたどり着かねばならない、と僕は全速力で歩き続けたのだった。イメージ的には六神合体ゴッドマーズのOPの二番の歌詞だ。幸い、命あるうちに春歌の家にたどり着くことができたので万々歳。背中に当たる二つの弾力をじっくりと楽しむことができなかったのが心残りだが、命には代えられない。
白雪の宿題を手伝いにいく。幸い、宿題の残り分量は大したことがないようだ。わからない問題が多々あるそうだが、そのへんは教えてやれば済むことだろう、とたかをくくって仕事に臨んだ。ところが、作業の最中突然レンジの音やらタイマーの音やらが鳴り始めた。白雪ははじかれたように席を立つと、両手にいっぱい創作デザートを抱えて戻ってきた。今日は宿題の日だろうが、とやんわりとたしなめてみたが、「にいさまをお迎えするのになーんにも用意してないなんて問題でしょ?」と白雪は言い切った。おかげでテーブル上はデザートの皿だらけでノートを広げる余地もない。明らかにこっちのほうが問題だろうが!
しかし作ったものは仕方がない。物食って気分をリフレッシュするというのは、悪いアイデアではないからな。というわけで二人でデザートを平らげ、それから宿題再開。すると、おなかがいっぱいになったせいで白雪は舟をこぎ始めた。おまえなあ! 五時間目の授業で眠気を追い払うのがいかに難しいかは、わかる。だがこの展開はあんまりじゃねえのか白雪。気がついたら結構な時間になっていたが、進捗状況が悪く宿題はまだ山とある。おかげでもう一度宿題の手伝いをしなければならなくなった。すでに、白雪の料理趣味は彼女の勉学を圧迫しているのだ、と実感した。
恒例の小旅行。この旅行を、白雪は「新婚旅行の予行演習」と言い切った。マジかよ! 夏休みの間、折を見つけてはおそろいのグッズを買い続けてきたのも、すべてはこの日のためだったのだという。俺は今まで……十二人の妹の中で一番妄想が激しいのは咲耶だと思っていた……だが白雪はさらに悪化している! この俺がこいつに好き放題させたら……こいつは暴走するッ! いやすいませんいきなりそんな告白されても! と思ったが、罠の口はすでに閉ざされていたも同然であり逃げることあたわず。仕方がない。これからは覚悟を決めて、白雪の強迫症を少しでも和らげることに尽力するとしよう。ねえ白雪、二人三脚で頑張ればもう少し気持ちも楽になると思うんだ。
義妹エンド。料理に対する強い執着と兄に対する結婚を前提としたエロ妄想ばかりが目立って困った。なるほどさすがは咲耶の妹なだけある、と納得させられるものがあった。しかしてこ入れが一定の効果を挙げている鈴凛に比べると、どうにも力不足であることは否めない。つうか料理にこだわりすぎなんだよ。なんか潰しのきく趣味を取り入れることで性格に新たな一面を付与する必要があるかと思われます。
次は春歌。
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