The Brave Little Sister

Part10 雛子 いさましいちびのシスター

2003/06/09

 雛子は、どうにもやりづらい相手だ。ちっこくてうるさい身内という具合の性格であり、ギャルゲーのヒロインとしてはあまりにも特異すぎる。おかげで前作では恋愛シミュレーションというよりは、子供の面倒見シミュレーションとでも呼ぶべきプレイを強いられたわけだが、今作はどうなりますやら。再び面倒見をさせられるのだろうな。
 あと、今回雛子は超電磁スピンのごとき勢いで僕に突っ込むという特技を会得したらしい。両手を広げたあの立ち絵は、今まさに両手から超電磁タツマキを発射しようとしているところを表わしているのだろうな。

 明日ママが出かけるので留守番ついでに遊びに来てください、というメールを受け取った。ふむ。雛子のようなかわいい女の子であれば、いつ幼女殺しが趣味の殺人鬼に狙われるとも限らない。というわけで行ってみる。
 おにいたまが来るということで、雛子は今朝ものすごく早起きしたのだという。遠足の前の晩にはドキドキして眠れない性質なのだろうな。いっぱい遊ぼう、と気合を入れたのはいいが、本を読んで聞かせているうちに雛子は船をこぎ始めた。なんというわかりやすい奴。雛子が目を覚ます頃には結構な時間となっていたので、帰らざるを得なかった。雛子には悪いことをしたかもしれない。雛子の鼻先にキンカンを押し付けて強制的に目を覚まさせてやったほうが良かっただろうか。アレは効く。

 雛子の大事にしている人形、ココの服の材料につきあってくれというメール。読んだ途端、春先の記憶が蘇る。雛子が学芸会でピーターパンの役を務めることになり、ピーターパンの服を作ることになったのだが、雛子が途中で飽きたので僕が全部作る羽目になったんだっけ。今回の「ココのワンピースを作ってあげる」という決意も前回同様雲散霧消する可能性は大であり、僕としては待ち受ける運命を悟らざるを得なかった。しかしおにいたまとして、避けて通るわけには行かない。暗い気分のまま、雛子にくっついてベティーズに向かった。
 ところが道中、雛子が猫に気を取られるというイベントが起きた。見知らぬ人間に迫られて逃げる猫、そしてそれを追いかける雛子。気がついたら雛子は僕の視界から消えていた。まっずーいッ。幼女趣味の殺人鬼にさらわれたらどうするんだ! というわけで僕は町中を駆け回った。だが雛子の姿はどこにもみつからない。幼女連続殺人事件の三十人目の犠牲者になってしまったのか、と絶望的な気分になって雛子の家に戻ってみると、雛子はそこでけろりとしていた。足腰立たなくなるまで折檻したろかこのガキ、とも思ったが本人はいたく反省しているようなので、やめておいた。なによりも、人形の服を縫うという事態を回避できたのは慶賀のきわみ。雛子を落ち着かせるべく頭を撫でてやる手にも、思わず真心がこもるというものだ。
 しかし、その日の晩に送られてきたメールには、「次はきっとココちゃんのお洋服、作ってあげないとね!」と書いてあった。忘れてねえーッ。おのれ。一時的な記憶が失われるまで折檻しておくべきだったのだろうか。

2003/06/12

 公園で一人滑り台をすべりまくる雛子を発見。君はどうして一人で遊んでばかりいるのだ。春の学芸会、ピーターパン宇宙飛翔編での舞台上、公衆の面前で同級生にストンピングをかまして以来、みんなから恐れられているのかもしれない。
 それはともかく、雛子はものすごく楽しそうにすべりっこに興じていた。たしかに僕も子供の頃はアホみたいに滑ったものだ。河川敷にあるY字型の滑り台を途中まで降りて反対側の降り口に登るとか……いや、僕の経験はどうでもいいんだ。見れば雛子、お尻のところが真っ黒になっている。こりゃ汚いや、と雛子を家に連れ帰り、風呂に沈めることにした。いや、この言い方は語弊があるな。

 さて、雛子を風呂に入らせたはいいが、すごい勢いであがってきた。しかも、ろくすっぽ体も拭かないまま、あられもない格好で家中を駆け回る。
「おにいたまがヒナのこと捕まえられたら、おにいたまのおよめさんになってあげるーう!」
 俺は今まで……十二人の妹の中で一番妄想が激しいのは春歌だと思っていた……だが雛子はさらに悪化している! この俺がこいつに好き放題させたら……こいつは暴走するッ! というか僕の妹はどいつもこいつもセッコ並みかよ! 耳元でタイヤをパンクさせ鼓膜を破ってやろうかとも思ったが、そうもいかないのでとっ捕まえて髪と体を拭いて服を着せてやる。他の妹には絶対見られたくない一幕だった。

 登校日。久しぶりに会うクラスメートたちと仲良く遊んでいるのカシラとか思ってこっそり雛子のところに行ってみると、聞こえてくるのは雛子の声ばかり。何事かと思ったら、雛子は人形のココに一方的に語りかけていた。う、うああーッ。そんなことしてるからますます友達いなくなっちゃうんだよ! 助けてグリブル……

 一人で髪が結べるようになったので見に来てください、というメール。野郎はそのようなことこれっぽっちも興味ないものであるが、妹の召還命令にはさからえないので雛子の家に行く。なるほど雛子は一人で髪を結んでいたが、しかしリボンはかなりぐちゃぐちゃだった。
 昔グラナダテレビ版のポアロが、指先の正確さは脳の正確さに通じると言っていた。まあ、なんというか、ポアロの言ってることは正しいんだなあと思った。

 プールに行こうという話になる。雛子は僕に、浮き輪を使えと突きつけてきた。やめてくれ雛子、僕は浮き輪を持つとつい犬神家の一族ごっこをやりたくなってしまうんだ。水面に浮かぶ二本の足ごっこを。あのショッキングシーンを君のような幼子に見せるのは忍びない……とか適当な言い訳をしても雛子は聞いてくれなかった。クソッ! 俺たちのうちどっちがボスでどっちが子分だかわからせてやる! ということで僕はプールで犬神毛ごっこを敢行した。浮き輪の下に頭、上に足を出し倒立する、溺死の危険性を伴った決死のパフォーマンス。なぜ命をかけるかといえば、そこに浮き輪があるからだ。
 だが、それを見せられた雛子はむしろ喜んでいた。しまった。真似をしないように念入りに注意する羽目になった。自業自得。

2003/06/28

 雛子の水着を選びについていく。雛子ははじめ「バナナ色の水着がいい」と主張していたのだが、いざ売り場に着てみると「イチゴ色」の水着もいいと目移りしだした。というか雛子よ、おまえの色の識別方法は全部果物と紐づいてるのか。このいやしんぼ! というわけで雛子には水色の水着を選んでやった。世の中には、果物の色だけでは表現できない色が存在するのだということを思い知るがいい。

 海水浴前日、雛子は「準備はだいじょぶですか?」というメールをよこしてきた。雛子は既に荷物の準備をたった一人で済ませたらしい。その上で、「ヒナ、もうりっぱなレディかな?」と聞いてきた。雛子、いいことを教えてやろう。りっぱなレディは普通海水浴にシャベルとかバケツとかは持っていかないものだよ。
 当日、雛子はアヒルさんの浮き輪を装備していた。それがレディのやることか。

 昼飯を作ってやるから食いに来い、というメール。ふふっ……花穂の手料理で鍛えられているから、雛子がどんなまずいものをつくろうと怖くないぞ。今の僕だったらクレヨンや蚊取り線香だって食べられるさ。
 雛子宅に行き、雛子が台所で奮闘する様子を星明子姉さんよろしく陰から見守っていたのだが、ニンともカンとも、今日の昼飯は激闘になるぞという思いを募らせるような調子だった。見るに見かねて、手伝おうか、と申し出てもみたのだが、雛子は自力で作ると言い張って聞かない。妹に逆らうことのできない僕は、ただ黙って覚悟を決めるしかなかった。
 出てきたパンケーキは、絶望的に甘かったものの、食えないことはない代物だった。おいしいよ、とお世辞を言うと雛子はそれを真に受け、「ひとりでごはん作れるからおにいたまのおよめさんになれるよね」とか言い出した。そして僕に毎日このパンケーキを作ってくれるんだって。雛子、僕を糖尿で殺す気か。とりあえず、「雛子がフライパンを扱えるようになったらおよめさんにしてあげる」と適当なことを言ってその場を収めておいた。いつか「フライパンを扱えるようになった」と雛子が主張したら、「今度は中華鍋を扱えるようになったら」「圧力釜を扱えるようになったら」と次々料理器具の名前を出して問題を先延ばしにすればいい。

 明日の午後、いちばーん暑い時におにいたまと散歩したい、と雛子が言ってきた。「きっと気持ちがぽわぽわして、楽しいんだよ!」ってそれは日射病だ。なんとまたダルいことを、とは思ったが、断れば雛子は一人で散歩に行き脱水症状を起こしてダウン、幼女連続殺人犯に拾われる、というシナリオが待っているような気がしたので、ついていくことにした。
 幸い、雛子は元気が有り余っていたので、特にどうというアクシデントもなかった。途中アイスキャンデーをなめさせたのが勝利の鍵だったか。しかしアイスキャンデーミルク味を「おにいたまの味」と表現されたのは少々ショッキングだった。ぼくはそんなに乳臭いのか雛子よ。

2003/06/29

 夏祭り当日。予想通り、雛子はアレが食いたいコレが食いたいと次から次から次へ要求を突きつけてきた。リンゴ飴か? わたあめか? このいやしんぼ! 「レディはそんなに次から次へと口卑しいマネはしないものだよ」とでも言えば雛子を掣肘できたかもしれないが、反射的に「よーしおにいたま全部買っちゃうぞ〜」と反射的に約束してしまうのが悲しいところだ。はあ……
 その後盆踊りを踊る。両手を広げる雛子のポーズは「さあ皆様お手を拝借」と呼びかけているかのように見えた。

 道で見かけた子犬のかわいらしさに、雛子が「ヒナも子犬飼いたい。臓物丸って名前をつけていっぱい遊ぶんだ」と言い出した。そんなことママさんに頼めよ。しかしママさんの手を煩わせるのもなんなので、「僕が子犬のかわりに雛子といっぱい遊んであげるよ」と説得してみる。雛子はしばらく悩んだ末、「ヒナ、おにいたまのほうがダーイ好き!」と言った。様子を見ると、僕の勝利は僅差のようだ。しかし犬に勝ったのは事実、もう誰にも僕のことを「フランダースの犬奴隷」とは呼ばせないぞ。

 雛子の家に遊びに行く。ママがいないので、郵便物を受け取るために留守番しているのだという。というわけで留守番に付き合うことになったのだが、折からの猛暑で、雛子がプールに行きたいとダダをこね、ついには泣き出した。いうに事欠いてこのガキャア! 鳩尾に膝蹴りをかましてやろうかとも思ったがすんでの所で止め、たしか雛子のに空気で膨らませるプールがあったよな、と探してみる。幸い発見できたのでプールを仕立て、妥協案として雛子をプールに放り込んでやる。雛子はおおはしゃぎで、こんどはおにいたまもプールに入ろうと言い出した。こんな小さなプールには二人も入れないし、そもそも郵便物を待つと言う当初の目的はどうなったんだ。僕に海パン姿で郵便物を受け取れというのか。なんだかんだと言い訳しているうちに、とうとう雛子は僕に水をぶっ掛けてきた。この場で溺死させたったろっかいと思ったがすんでのところで止め、僕も水遊びに付き合うことにした。郵便局員の方、自宅にいながら着衣ぐしょぬれの僕を見てどう思っただろう。

 二人で旅行。別荘に着くと、雛子は動物園に行こうと言い出した。なんでも近くにパンダがいる動物園があるのだとか。というわけで、連れて行く。
 動物園の人出は多く、パンダの檻の前は激戦区になるであろうことが予測されたため、パンダを見に行くのは後回しにしようか、と控えめに主張してみたのだが、雛子はパンダに会わせろの一点張りであり聞く耳を持たない。仕方がないので連れて行くと、案の定パンダの檻の前は死ぬほど人がおり、僕ですら何も見えない。当然雛子は「足しか見えない〜」と駄々をこねだした。殴るぞこのガキ、と思ったが、すんでのところで気持ちを抑えて、雛子を肩車してやる。なんとか機嫌を取ることに成功した。
 次に熊を見に行く。当然この炎天下、熊はぐったりとしていた。するとそれを見た雛子は「おにいたまと二人でげんきのうたを歌ってくまさんを元気付けてあげよう」と言い出した。マジですか雛子さん! た……助けて衛ー! しかし心の叫びが誰に届くはずも無く、僕は動物園で雛子とげんきのうたを歌うという羞恥プレイを強いられたのだった。死にたくなってきた。
 恐ろしいことに、この歌を聞いた熊はなんと動き出した。クソタレこっぱずかしい歌詞を聞いていられなくなったのだろう。あるいは、僕の哀れな姿を見ていたたまれなくなったのか。嗚呼。

 クリア。やっぱり子守シミュレーションだった。どうも雛子は苦手だ。相手してるとマジでむかついてくるのはなぜなのだろう。

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