Too Old a Cat

Part11 四葉 四葉の探偵物語

2003/07/06

 春先から少々人格に変化の見られる妹が散見される中、四葉は相変わらずホームズ萌え萌えのようだ。すばらしい。ディ・モールト(非常に)いい。しかしプロフィールの紹介で「お兄ちゃんマニア」と書かれるのはいかがなものだろう。まあ、いい。四葉、君に兄チャマと呼ばれて以来、僕の命は君を真のシャーロキアンにするために、ある。
 しかしながら、「夏休みは兄チャマを徹底してチェキするデス」という宣言は、意訳すると「夏休み中キサマを徹底ストーキングしてやる」ということである。つきまとわれるのは仕方ないとして、常に尾行という形でつけまわすのはやめてくれないものだろうか。一方的に見られているのかと思うとものすごく神経がささくれる。

 ある日一緒に歩いていると、四葉が木の上にいる子猫を発見した。高いところに登りすぎて降りられなくなったんだ、と判断した四葉は自ら木に登り、救出に向かった。さすがは、春先三階にある僕の教室に、窓から侵入してきた娘、高所はお手の物か、と思っていたら、四葉自身も高すぎて降りられないとか言い出した。ああ〜ん!? ンなことでライヘンバッハの滝を登れると思ってんのか! 加えてモラン大佐が上から岩投げて来るんだぞ、と思ったものの仕方がないので僕自ら救出に向かった。真のシャーロキアンへの道はまだ遠いようだな四葉。

 おばけ屋敷に行こう、と四葉からメール。遊園地で現地集合してみると、いまから恐怖の館へ向かうというのに四葉は妙にハイテンションだった。咲耶みたくコレを利用して兄チャマといっぱいべたべたしてやるぜー、と考えているのだろうか、と思ったが、屋敷に入った途端四葉はすごい勢いで怖がり始めた。絶叫するし泣くしひっつくし。バスカヴィルの魔犬の正体は燐を塗ったでっかい犬なんだよ、とやや的外れな言葉で慰めてみても泣き止もうとしなかった。やれやれ。

 登校日。四葉の様子を見に行ってみると、四葉は数学の補修を受けていた。しかし四葉よ、数学の問題を解くのに指折りで数を数えるのはいかがなものかと思うぞ。ホームズさんだったら、一定距離で配置されている電柱が何秒おきで車窓に現れるかを計って列車の速度を割り出すくらい軽く暗算ではじき出しますよ? まあさすがにいきなりそんな曲芸をしろと言っても無駄であろうので、僕は窓の外からこっそり電波を送って四葉を応援した。なんか、四葉も無意識のうちに電波を受信できていたみたいだった。

2003/08/23

 四葉のおうちにおやつをいただきにあがる。四葉が台所でどたばたやっている間に、僕は一冊のノートを発見した。その名も「四葉のヒミツ日記」。内容は、ただひたすらに僕のことが書いてあった。「兄チャマはドーナツが好き」「お化け屋敷でも平気」「時々鼻くそをほじり壁に擦り付ける癖がある」等々。これは四葉、兄妹愛の範疇を超えて単なる変態ストーカー行為だぞ! さすがにこれはないだろう、と戻ってきた四葉におずおずとこのノートを差し出すと、「兄チャマをチェキするために、四葉はいっつもガンバってるんデス」と誇らしげに胸を張った。ガツンと言ってやらねばわからないようだが、しかし妹に対する隷属遺伝子を組み込まれた僕にどうしてガツンと言うことができる。「あはは……」と笑うしかなかった。
 あと、「このノートに書いてあることは四葉と兄チャマのヒミツですよ」と念を押された。こんなもの誰にも言えねえだよ。誰が自分の妹の変態ぶりを晒したがるか。むしろこっちから四葉に「このノートのことは誰にもしゃべるな」と言いたいくらいだ。

 四葉に請われ、四葉の学校の先生と面談することになった。なんでも四葉が学校で兄チャマやチェキのことばかり考えているから授業に集中できていない、とのこと。おめーは学校でも兄チャマとかチェキとか言いふらしてるのか! イヤまあいまさらイタいとかなんとか言う気はないけど、それはいくらなんでもないんじゃないのか四葉。友達も引くだろ。その辺、僕がごく婉曲的に言い含めてやると、四葉はピキーンとひらめいた。最終的に、「先生は四葉に兄チャマがいるのがうらやましいんだ」という結論に落ち着いたらしい。なんか、四葉の僕に対する依存心は末期的ですね。

 デパートで、店頭に陳列された「変装スパイセット」をかじりつくように見ている四葉を発見。どうやら、スパイという職業にあこがれている模様。なんだかなあ。つい最近読んだ小説のスパイ志願の登場人物を思い出した。こいつはスパイ任務が与えられると思ったが早いか、まず「スパイはおまんこし放題って本当ですか」と質問しやがったのだ。007の見すぎだ。まあ四葉がそんなことを言い出すはずはないが、スパイという職業を自分の中で偶像化しているという点では似たり寄ったりだ。ここはいっちょ「女スパイはベッドテクニックもうまくなくちゃいけないよ」と教えてあげようか、という邪心が一瞬心をよぎったが、やめておいた。

2003/09/07

 四葉を市民プールに連れて行く。あっちのプールに漬かり、こっちのウォータースライダーを滑り、と四葉はご満悦。兄チャマとしても喜ばしい限りであるが、一点だけ気になることがあった。四葉サン、なぜかプールに虫眼鏡を持ち込んでいるのだ。しかも水着一枚しか着用していないはずなのに、どこからともなく出したり消したり。一体どこにしまってるんだ四葉。そもそも何の目的で虫眼鏡を持ち込むのか。体の白い部分を局地的に焼いてみるとか、実験精神あふれるようなマネをしようとしているに違いないので取り上げておいた。油断ならん奴。

 公園を歩いていると背後でドボンと人が噴水に落ちる音。振り向くと、四葉が噴水に漬かっていた。僕のことを家から尾行していたものの、つい僕の顔に見とれてこけたらしい。アホかーッ。目標に気を取られて足元確認を怠るなど尾行術として下の下! 「緋色の研究」でホームズが老婆を尾行してまかれるシーンを百篇読み直せ、と注意してみたものの、「兄チャマの顔に見とれるのは仕方のないことデス」と開き直っていた。まじめにやれよ。

 町で出くわした四葉に「宿題はやってるの」と聞いてみたところ、「ああ、そんなモノもありましたネ!」と朗らかに返された。妹が夏休みの宿題もこなせないアホ、という事実を認めるのはあまりにも悲しいので、宿題を見るために四葉の家に乗り込んだ。
 まず見せてもらったのは読書感想文。赤毛組合を読書感想文に選ぶというなかなか冒険的なマネをしていた。内容はというと、
「ジョン・クレイは地下室で掘った穴から出てくる土をどこに捨てていたのか」
「人が通られるだけのトンネルを掘るのであれば、ズボンの膝に土がつく程度の汚れではすまないはずだ」
「歩道を叩いた程度で地下トンネルの存在がわかるということは、トンネルは浅い位置に掘られているであろうので、陥没の危険があったはずだ」
 細かい突っ込みに終始していた。話によると赤毛組合には矛盾点が40くらいあるらしいからな。しかしそれはシャーロッキアンにとっては自明のことでありいちいち突っ込むのは大人気ないなあと思った。そういう年頃なんだろう。

 四葉が残していた宿題はあまりにも多かったので、泊り込みの作業となった。翌朝からも宿題の始末は続いた。小休止の折、四葉はイギリスにいた頃の話を語り始めた。四葉は、自分に兄がいることを知って、手紙を書き始めたのだという。しかし日本語がわからなかった四葉は、仕方がないのでホームズ物語に出てくるやり方で僕に封筒を送ったという――すなわち、封筒の中に五粒のオレンジの種を入れたのだ。キサマだったのか以前から僕にオレンジの種五つを送り続けていたのは! いつ僕のところにKKKの手の者が来るかビビりまくりだったんだぞクソッタレ! あとで匿名でオレンジの種を送り返してやろうと心に誓った。四葉、おまえもKKKの影におびえるがいい。

2003/09/08

 夏祭りに行く。当然四葉にとっては初めての祭りであり、たこ焼きを見て「コレ何デスか?」と聞いてきた。そりゃまあさすがにイギリスにたこ焼きはないだろうしなあ。買って食わせてやった。もし可憐が同じ台詞を抜かしたら殴ってやるところだが。しかしカキ氷を知らなかった可憐のことだ、マジでたこ焼きを知らないとしても不思議ではない。これだからブルジョワは……
 その後盆踊りに参加する。当然何も知らぬ四葉に、文字通り手取り足取りでボンダンスを教え込む。フフフ立派な理由があるから四葉の体触り放題だぜ、などと考えてしまった僕はおっさんくさいなあと自省。
 締めは花火。どうやら四葉は打ち上げ花火もあまりよく知らないようだった。
「コレが花火デスか? いや、花火はもっとパーっと広がりますモンね!」
 いやコレが花火だ。決して空中でモビルスーツが爆発しているわけではない。

 喫茶店で一服してから帰宅してみると、なぜか四葉がベッドで寝ていた。鍵かけたはずなのに一体どうやって侵入しやがった! 目的は一体なんなんだ、この部屋にはボヘミア王ととったツーショット写真はないぞ、等々問い詰めてみたところ、四葉に特に他意はなく単に遊びにきただけの模様。さすがホームズを目指すだけあって不法侵入はお手の物だな。しかし四葉が人のベッドに小便をひっかけるような変態でなくて本当に良かった。家に帰った途端咲耶に発見され、「お兄様、夜尿症は病気であって大人にもあることなのよ」と変な誤解を招いていたことだろう。

 四葉との小旅行。海で散々遊んで晩飯たらふく食らって、という楽しい一日を過ごしたのだが、夜中にふと気づくと四葉が泣いている。どうしたの、と話を聞くと、
1:兄チャマの秘密ノートに書くことが全然増えない
2:だからこれでは兄チャマのそばにいられない
 とのこと。なんですかそのストーカー理論は。というかこれ以上ストーカー日記の内容が増えてもらっては困る。そんなものなくても僕たちは強い絆で結ばれているよ、と言いくるめることによってなんとか四葉をなだめることに成功した。将来的には、四葉の手からノートを取り上げ廃棄することを考えねばなるまい。アレがたとえばアイリーン・アドラーのような人物の手に渡ったら僕は破滅だ。変態めいた仮面をつけてホームズのもとに行かねばならなくなる。

 義妹エンド。四葉さんはとっても可愛いですね。今作は兄に対してかなり無防備なところを見せておりまさしくウッハウハというやつですよ。日記のほうも、前作ほどではににせよそこそこホームズネタを取り込めたので満足。ちょっとヴードゥー・キャデラックネタも混じったけどね。
 次は鞠絵。すさまじい勢いでハミ子にされている彼女の明日はどっちでごわチュかね?

←BACK INDEX NEXT→