無慈悲のこころ 篇

2002/03/07

 このゲーム、主人公の行動次第によって実の妹になったり義理の妹になったりするというシュレディンガー的に謎めいたシステムになっているのだが、そんなことはまったく関係なく咲耶は異常なまでにお兄様にラブっている。どう考えても、結婚までのルートを既定のものとして考えているようだ。彼女であれば、兄と妹は法律で結婚できないことになっているんだ、といってみたところで「じゃあ法律が間違っているのよ!」というだろう。いや近親婚は遺伝病が発現しやすいから禁止されているんだ、と説得すれば「じゃあメンデルが間違ってるのよ!」と切り返すだろう。自分の欲望に対してなんら恥じるところのないそのまっすぐ過ぎる性格は、ある意味尊敬できなくもない。間違った方向にまっすぐ突っ走っているとしか思えないが。

 そして、自分とお兄様のなかに割って入ろうとする者には情無用。クラスメイトの佐々木さんとちょっと口を利いただけで異常な嫉妬心を燃やすあたりは怖すぎる。だから、わからないんですよ。その嫉妬心が、むしろ最大のライバルであるといえる妹たちには決して向かないというのが。鞠絵エンドなんか迎えた日には後日談として「死の記憶」(註1)みたいなひどいことになるような気がするのだが。お兄様は咲耶鞠絵とあとその場に居合わせた妹数人を射殺してメキシコに逃亡、運良く生き残った四葉が20年後真実を探り出すべく調査を開始する、とか。咲耶はかなり性格に問題がある。だが、性格に問題のある妹のほうが面白いので、これはこれでいいことにする。

 バレンタインデー恒例の、日記流出イベント。他の妹たちの日記がたいてい口語体であるのに対し、咲耶の日記は一番文語的だった。さすが最年長の妹、と思ったが、読みすすめていくうちに異常なまでの兄への愛を綴ったかなり頭の悪い文章であることが明らかになっていった。「お兄様が照れてる! わたしのお兄様が照れている!」って、雛子よりはるかにたちが悪いぞ……

 登校時、「夕方かしのき公園で会いましょう」と一方的に約束をとりつけられた。まあ特に用事があるわけでもないので、行ってみる。喜ぶ咲耶に「一応約束したからね」と言うと、「あんなに固く手を取って約束を誓い合ったじゃないの」と言い返された。すごい勢いで思い出を美化するね、君。

 喫茶店近くで咲耶の同級生と出くわし、「お兄様」と呼ばれた。咲耶があまりにお兄様お兄様とうるさいので、彼女らもなんとなく僕のことを「お兄様」と呼ぶらしい。うれしいやら恥ずかしいやら恥ずかしいやら。そこに怒り狂った咲耶が乱入、同級生たちはおびえながら逃げていった。いやそんなに怒るなよ。愛と友情の二択を迫られて少しもためらわず愛を取る咲耶は、ちょっと怖い。あとブラコンという言葉を知らないというのはちょっとどうかと思う。

 謎のドラマさわやか男爵の話をされた。さわやか男爵が毎週カッパに会うという話がなぜラブストーリーなのか……。というかそのタイトルは明らかにコメディードラマであるからして、単に咲耶だけがそれをラブストーリーと思いこんでいるだけかもしれない。まあ、本人が面白いと思っているのなら、わざわざ指摘して水を差すまでもない。僕は君のさわやか男爵になれるかな、咲耶?

(註1)「死の記憶」:トマス・クック、文春文庫。なにがどう鞠絵と咲耶に関係するのかは、是非読んで確かめていただきたい。
2002/03/10

 咲耶といっしょに登下校するようにしてからはや一週間、油断したためか少々出迎えに行くのが遅れてしまった。で、顔を合わせた途端「私以外の誰かと会ってたんじゃねぇだろうなオラ」とか疑いの眼差しを向けられた。あなたはそんなことにも浮気を疑いますか? 異常な眼光に気おされ、しどろもどろに単に寝坊しただけだ、と言い訳すると、咲耶は「だったら、信じるわ。ほかならぬお兄様の言う事だもの」とぬかした。全然信じてねェだろォが! 毎朝マラソンの誘いに衛がやってきていることを知ったらどんな顔をするだろう。とても言えない。むしろ、咲耶姉さんに気をつけるよう衛に言っておくか……

 いつぞや、喫茶店の前で咲耶に追われていた級友たちが咲耶と話しこんでいた。咲耶のブラコンを押しとどめるべく説得しているらしい。「絶対ノーマルになるべきだ」とか言って。失礼な! 僕の妹はアブノーマルだと言いたいのカネ君は、と一瞬思ったが咲耶のブラコンっぷりは兄の目から見てもアブノーマルなので何も言えなかった。
「わたしはいたってノーマルよ!」
 と主張する咲耶に対し、「そう思ってんのは、咲耶だけだと思うけど?」と情け無用の突っ込みが入る。さすがの咲耶も反論に詰まってしまった。まあブラコンという言葉も知らないようではなあ。

 さすがに可哀想だったので咲耶を迎えに出ていったら、級友たちは今度は僕のほうにも矛先を向けてきた。
「お兄様が彼女を作らないのも問題だと思うんですけどォ」
 余計なお世話だアホンダラ。一瞬蹴り殺してやろうと思ったがそんなことをしたら咲耶がますますクラス内で孤立を深めるであろうので我慢した。

 二人で街を歩いていたら、アルドワとかいうファッション雑誌のカメラマンに呼びとめられた。街を行くオシャレなカップルの写真を撮っているので一枚どうか、と声をかけられ、僕たちは承諾した。なんでも咲耶に聞くと、アルドワとはかなり有力なファッション雑誌であるらしい。日本でもっとも有名なアルドワに載るってことは、日本中が私たちを認めたことだ。すなわちお兄様の相手には私が日本で一番ふさわしい、と咲耶は言いきった。すごい論法だなオイ。

「いいことを思いついた」というメールが届く。だがそのいいこととやらが具体的にはなんなのか、翌朝直接会って話してみても、咲耶は教えてくれなかった。一体何をたくらんでいるのやら、と思いつつ昼休み。白雪が弁当を持ってきたのだが、目を離している隙に級友が弁当を食ってしまうというイベントが起きてしまった。おまえなんかが食べる資格はないんだぁ! 謝れ!! 白雪に謝れェェ――――ッ!!

 空腹を抱えつつ教室に戻ると、「二人の思い出を作りに来たの」と言いつつ咲耶が登場。手作り弁当を持ってきた。ナイスタイミングだ咲耶! 感謝しつつ僕は弁当を食べた。味のほうは奇抜だったが、満腹になったのでよしとする。しかしそれにしても、白雪の弁当が食べられるというアクシデントがなかったらどんなことになっていただろうか。「お兄様が私の心のこもったお弁当を食べないわけがないわよね?」とか言って僕が完食するかゲロ吐くまで監視されたに違いない。すでに満腹なところに、奇抜な味の弁当を食べねばならなかっただろう。無言の圧力にさらされながら。
 ……今回ばかりは弁当を食った級友に感謝かな……
 帰り道、弁当の味を聞かれたので、僕はまずかったと言った。咲耶の目を見て、「まずかった」って言ってやったともさ!

 商店街で千影と遭遇、薬草を摘みにいかないかと誘われた。ついていった先は植物園。勝手に摘んじゃまずいよ、と言ったら「知らない人間には……マンドラゴラは……ただの雑草さ……」と返された。というかこの街の植物園はマンドラゴラ栽培してんのかい! そしてこの間僕に食わせたのはそれかーッ!! もっとも、平気でダチョウの卵を売っているような街だ、その程度不自然じゃないけどね。

 咲耶の家に泊まりにいく。咲耶が作った手料理は、この間の弁当の奇抜さが信じられないほどうまかった。僕にまずいといわれてから、訓練に訓練を重ねたらしい。さすがハイスペック妹。これが情けは人のためならず(註1)というやつか。
 翌朝、咲耶は妙に慌てていた。風呂に入ったあとの記憶がまったくない、とか。いや天地神明にかけて僕は何もしてないって! しまいにはこのまま全てを忘れていって、お兄様のことまで忘れてしまったら私は、私は……! と大騒ぎし出した。それは……秋桜の呪い……!? 

(註1)情けは人のためならず:用法思いきり間違ってます。
2002/03/12

 ひな祭りの日の晩、「誰の水着が一番似合ってた?」と咲耶からメールが来た。「春歌? 千影? 可憐? それとも雛子? ああもうお兄様、雛子はお子様じゃないの!」と責められた。だから勝手な妄想で人をロリコン呼ばわりするの止めろや! 本当に僕がロリコンかどうかはさておいてだな。
 あと、なんとなく咲耶と千影は仲が悪いような気がする。

 朝の登校中に、四葉と咲耶が争奪戦を起こした。ギャアアァァ――――ッッ!! お願いだッ! やめてくれそれだけはッ! 刺されるッ! 咲耶に刺される……ッ! と思ったが咲耶は意外に妹に対しては弱腰な模様。気まずい雰囲気にはならずに済みましたとさ。ああ……本当によかった……。咲耶の嫉妬フルネスなところは原先輩に通じるものがあるような気がする。

 卒業式のブロムに出てくれと頼まれた。ブロムとはまた西洋式だなあ。謝恩会という言葉を使ってはなりませんか? しかし謝恩会と違ってブロムは保護者同伴で行くものではないと思うぞ。その日はひいおじいちゃんの命日で、と言い逃れようとしたが、無駄だった。というか身内を何人殺そうと身内は騙せないよなあ、と思った。きっとみんな私たちに目が釘付けよ、と咲耶は既に妄想モードに入っている。そりゃ兄妹で出たらみんなの注目の的であろうな……。例の咲耶のクラスメイトたちの噂を裏づけする形になる。シスコン呼ばわりされるのは、もはや不可避なのか。その日に備えて、心を無にする訓練をせねばなるまい。僕はソララトフ……僕はソララトフ……

 クラスメイトの佐々木さんと遭遇。いきなり面と向かって「キミ、シスコンって評判よ」と言われた。あなたもそういうこと言うデスか! 失礼な! と思ったが反論のしようがない。というか妹が12人もおったらなあ、妹にコンプレックスを抱かずにおれるはずがねえだろォがッ! という言い訳しかできない。

 と思っていたら急激に気温が下がったような幻覚を感じた。というのも、さりげなく咲耶が僕の背後にいて、僕と佐々木さんが親しげに話す一部始終を見ていたのだった。気まずい雰囲気がその場を満たす。一応一緒に帰ったのだが、話しかけた途端、
 たったったったっ(駆け寄ってくる音)
 さくっ(何かが僕の腹に刺さる音)
 ぷしゅー……(血が勢いよく吹き出る音)
 という事態になるであろうことがわかりきっていたので、とても話し掛けられなかった。ブルブルブルブル。

 
2002/03/17

 街頭でビラ配りにいそしむ咲耶に出くわす。ビラを渡されたのでみてみたら、「大仏バレエ団公演」などと書いてある。大仏がバレエすんのかよ! と思ったらなんでも大仏とは人名であり「おさらぎ」と読むらしい。ふうん。咲耶だったら「あのね、大仏がバレエするの! もう、すごいんだから!」とさわやか男爵の素晴らしさを説くような勢いで語ってきても不思議ではない。というかさわやか男爵をラブロマンスドラマと信じこんでいる咲耶のことだ、彼女一人だけ騙されているとしても不思議ではない。

 佐々木さんと激突第2ラウンド。今度は喫茶店がリングだ! が佐々木さんが逃げたのでひどいことにはならなかった。僕がシスコンであるという事実を佐々木さんが知ってしまっているという時点ですでに「ひどいこと」のような気もするが。

 卒業式後のプロムに出席。前日咲耶が「ウェディングドレスで出る」とか言い出して大変だったのだが、幸い当日咲耶は普通に着飾った格好で来てくれた。助かる。
 パーティー中、咲耶に一緒に踊ろうと誘われた。フフ……この日の為に日夜猛特訓を重ねてついに会得した、お兄様の華麗なイスラム暗黒舞踏ステップを見るがいい!(開き直った)とか思ったがただでさえ兄妹カップルで人の目を引いているのだからこれ以上目立つことはやめようと思った。

 翌日、チャペルに呼び出された。咲耶は告白した。いわく、私たちは実の兄妹じゃないの、と。本当に血が繋がっていたらこんな露骨にアプローチをかけるはずがないとかいう内容のことを言われた。そうか……血が繋がってないという前提の元、君は愛を妄想……じゃなくて語っていたのか。メンデルの法則がきっちりわかっているようで、兄としては欣快の至りだ。近親相姦は許されざる罪である。

 クリア。おもろすぎる。周囲がまったく見えちゃいねえというのは春歌に匹敵するレベルを誇っており、いうなれば技の咲耶力の春歌というところか。時折嫉妬深いところがかいま見え、このまま成長したら原先輩@ガンパレか京谷透子サン@水夏になりそうな気がするのでそれはなんとしても食いとめねばと思った。それがさわやか男爵たる兄の役目。しばしば見せる間抜けさが救いではあるな。

 次、花穂。ジェネレイター・ドリフの星の元に生まれた少女。