ダーティーホワイトガール 篇

2002/04/11

 妹であることがどんなふうなものかは、誰にもわからない。

――ピーター・タウンゼント『ビハインド・ブルー・アイズ』

 バレンタインデー、通常だとじいやがショコラを渡しに来るだけなのだが、今回は亞里亞が直接持ってきた。が、礼を言う間もなく「じいやに早く戻ってこいと言われた」とかなんとか言ってさっさと去ってしまった。じいやを怒らせるとお菓子が食べられなくなるんだって。おまえは兄よりも自分のお菓子が大切だというのか。
 …………
 自分のお菓子だろうなあ。食料、ことにおやつに関しては、兄弟とは即ち敵だものね。どうして亞里亞を責められる。
 そしてバレンタインデー恒例のメール流出。もちろん読ませていただきましたとも。

 亞里亞、ショコラ好き。ショコラ、うまい。甘い。ショコラ、ママみたいに甘い。
 せかいじゅうのショコラ、みんな好き。ショコラ、みたい。トラックいっぱいのショコラ。白いショコラ、うまそうな茶色のショコラ、ミルクみたいなショコラ。
 じいやがふいに声を高め、「亞里亞、こいつの親指を折れ」
 ひと、痛めつける、亞里亞、それする。ひどく、痛く、痛く、痛めつける。親指、ぱあ。親指、ぱあ。親指、ぱあ。
 親指、ぽきんする!
 ぽきん、親指。
 ショコラほしいの、じいや。さっきみたいにショコラほしいの。

 …………
 見なかった事にした。

「兄や……助けて兄や……」というなにやら深刻げなタイトルのメールを受け取った。なんでも、ソフトクリームを庭に落っことしたり「亞里亞、妖精、見たい。連れてきて」発言をしてみたり風呂の水の声を聞きとって勝手に栓抜いてみたり、といった言動でじいやにこっぴどく叱られている模様。ソフトクリームはともかく後者二つは明らかに人としてかなり問題があると思われるが一応僕の大事な妹だ。というわけで様子を見にいくことにした。

 豪邸で待ちうけていたのはメイドさんだった。亞里亞は彼女をじいやと呼んでいる。きっとフランスにいた頃はギャリソンみたいな有能な執事についていてもらったのだろうなあ。何回言ってもじいやとしか呼んでもらえず、じいやはじいやで泣きたいらしい。そしてじいやに叱られて泣き出す亞里亞。なんか僕も泣きたくなってきた。だが三人で泣くという図は傍目にあまりにも間抜け過ぎるので、僕は亞里亞と一緒に遊ぶことにした。

 で、まず連れていかれたのは自家用メリーゴーランド。てか自家用ってどういうことじゃい! と思ったが豪邸だけにまったく不思議ではない。さんざん乗り倒す羽目になった。
 だが亞里亞はまだまだ元気で、今度はかくれんぼをしようと言い出した。イヤ待てこの豪邸はあまりの広大さに泥棒が餓死しかけたとかいう鳥取砂丘並にデンジャラスな伝説がなかったか?正直亞里亞が隠れるほうになったら未来永劫見つからない、という可能性があったので亞里亞には鬼をやらせることにした。隣の小部屋なら亞里亞にでもすぐにみつけられるべ、と思っていたのだが、いつまでたっても探しに来る気配がない。それどころか亞里亞は泣き出した。おまけにじいやに「亞里亞様を泣かせたら承知しねえ」と凄まれた。えーと、ひょっとして亞里亞を泣かせたら親指ぽきんですか? 以後気をつけます、と答えざるを得なかった。なにも悪いことしていないのに……

 
2002/04/14

 早朝じいやさんの訪問を受けた。
「亞里亞様が是非兄上様を今すぐ呼んできてほしいとダダをこねまして……是非今から当家に来ていただけないでしょうか」
 じいやは僕の手を取ってと頼んできた。イヤ急に言われましても僕にも都合というものが、と言いかけた瞬間、僕の手を取るじいやの手に変な力が込められた。
 こいつッ! 断ろうとしたら瞬間親指ぽきんする気かッ! イヤ亞里亞のためなら地獄の一丁目まで行きますよハッハッハッとうわべばかりの笑みを浮かべつつ僕は亞里亞の豪邸に連行されることになった。

 で、何故亞里亞がダダをこねているのかというと、亞里亞は自家用メリーゴーランドに乗りたいのに、今は点検中で動かないのだという。そこで、
「亞里亞、馬、のる。兄や、馬、なる。兄や、馬! 兄や、馬! 兄や、馬!」
 だそうで。ちょっと待てやコラ。しかし亞里亞は「ブヒィィィィン! 馬、すごい! ブヒィィィィン」と異様にハイテンションで人の反論を受けつけようとしない。なんとか断ろうとしたが、じいやにも「私からもお願いします」と言われた。断った日には、「じゃあおまえの手足を蹄と見分けつかないようにしてやるぜ。亞里亞、兄やの手足の指を三本ずつ折れ」とか言い出しかねない。わかりました僕は馬になります。亞里亞は「馬、もっと、揺れる」とか注文がうるさかったものの幸い好評だったようだ。また馬になってほしいとまで言われた。誉められているはずなのだが、人間としての尊厳をグリグリと踏んづけられているような気がした。
 とどめにその晩、メールで「亞里亞、今日、一日中、ひま。」とよこされた。この野郎ッ! 裸にひん剥いて体で馬洗わせたんぞ!?

 亞里亞様を押さえきれないのでちょっと泊りがけで手伝いに来てはくださいませんかとじいやさんにメールで頼まれた。指定どおりに夕方公園に行くと、じいやさんが車で拾ってくれた。しかしじいやさん街ん中でもメイド服お召しになっておられますか?
 亞里亞邸で菓子を食らいつ雑談をしていたら、フランス大使がやってくるパーティーに出席してダンスを踊らなきゃならないとかいう話題になった。ケッ! ブルジョワがッ! などという思いはこれっぽっちも口に出さず適当に相槌を打っていたら、ダンスの練習の相手を務めてほしいと頼まれた。フフ……ならばこの僕のイスラム暗黒舞踏の腕前を存分に発揮してくれるッ! 亞里亞の手を取って踊ってみた。亞里亞は口では僕と踊れること自体に感動していたみたいだが、それとは裏腹に殺人的な勢いで足を踏みつけてきた。足の指ぽきんですか?

 寝るときに本を読んでほしい、と本を渡された。題名は……「ダーティホワイトボーイズ」とある。どれどれ、と一ページ目をめくってみると……

「州立マカレスター重犯罪刑務所には、ラマー・パイよりも一物のでかい男が三人いたが、そろって黒人だったから、当のラマーの判断では、到底人間とはみなしかねる連中だった。」

 う、うああ――――ッ!! え、えーっと、兄やの創作昔話を聞かせてあげるからそれで我慢してね亞里亞?

 翌日もふらりと亞里亞邸に行ってみた。鬼ごっこの最中、この部屋の中に隠れようとドアに手をかけた瞬間「そのドアにさわるんじゃあねェェ――――ッッ!!」とすごい勢いでじいやさんが飛んできた。そういや先日泊まりに来たときも、道に迷ってこの部屋の前に来たときじいやさんに止められたよな。この部屋はなんなんですか、と聞いてみてもじいやさんは頑として口を割らなかった。気になる……。近親相姦による悪質遺伝を一手に引きうけた一族の人間の誰かが監禁されてるんじゃあねェだろうなあァ――ッ。

 
2002/04/20

 亜里亞邸で開かれるひなまつりの準備にかりだされることになった。じいやさんは準備でてんてこ舞いらしくお疲れ気味だった。で、亞里亞様の御機嫌を伺いつつ準備を手伝うように説得してくださいと頼まれた。亞里亞に聞いてみると、「亞里亞、いっぱい、手伝った。今、おなか、ぺこぺこ。」だそうで。さらにどのくらい手伝ってたの、と聞いたら「10分。」という答えが返ってきた。そりゃ手伝ったうちにはいんねェだろォが――ッと反射的に口にした瞬間に亞里亞は泣きながらどっかに行ってしまった。
 やばいッ! 亞里亞を泣かせた事を知られたらじいやさんに親指ぽきんされてしまうッ!

 僕は必死こいて亞里亞を探した。そしてたどり着いたのは、例の開かずの間。いるとしたら、もはやここ以外にしかありえない。ままよとばかり突貫してみたところ、そこに亞里亞はいた。すさまじい量のお菓子の山とともに。じいやに聞くと、ここは亞里亞のお菓子部屋らしい。あまりにも恥ずかしいのでとても僕には教えられなかった模様。もさもさと菓子を食いまくる亞里亞を尻目に、僕はひなまつりの準備を黙々とこなしましたとさ。
 なんか部屋の秘密があっさりしてて残念。とはいえ、「悪質遺伝を一手に引きうけた一族の人間の誰かが監禁されてる」という予想はあながち間違ってもいないような……

 ひなまつり当日、亞里亞はウォータースライダー付近でお菓子を探していた。食い過ぎだっての。太る事を気にせんのだろうか。花穂みたいに。花穂をあのお菓子部屋に監禁したら発狂するだろうなあ。
 あとやや関係ないが千影のアレは水着と呼んでいいのか? 改造トーガに見えるのだが。

 うそですの、アントワネット。アントワネット、うごかないんですの? アントワネット、おやすみの時間。アントワネット、ぴくんとしてほしいの! アントワネット、ぴくん、ぴくん、ぴくん。アントワネット、ぴくんとしてほしいの。

 とかいう内容のメールを受け取った。明日行く事を約したメールを投げたら、翌日の下校時、じいやさんにさらわれるかのごとく車に乗せられた。
 亞里亞は一日中泣き倒しているらしかった。何事かと事情を質してみたところ、アントワネットとは亞里亞が飼っているカメの名前で、いままで室内で飼っていたのを外に出してみたら首を引っ込めて動かなくなったそうで。そりゃ三月の寒空に爬虫類を放り出したら動かなくなりまんがな。当たり前だろォが、と言いたくなるのをぐっとこらえて懇切丁寧に説明した。イヤそんなこといって泣かせたらじいやに親指ぽきんされるし。下校時に僕を拉致する際の手際のよさを考えるに、じいやには逆らうべきではない。つうかこの人何者なのかしら。かつてストリートファイトでならしていたところを僕の父親に拾ってもらった、とか言わないよな。セバスチャンみたいに。

 
2002/04/21

 亞里亞とお菓子屋の前で待ち合わせる事を約束したのだが、つい四葉に捕まってしまい大幅に遅れてしまった。一見亞里亞は怒っていないように見えたが、僕に対する罰として「亞里亞、お菓子、ほしい。トラックいっぱいのお菓子。」とか言い出した。マジですかッ!? と叫んだら「マジですの。」と切り返された。目先の話題を切り替える事によりなんとか難を逃れたが、危ないところだった。
 じいやさんと三人で街をぶらついてみる。じいやさんには、亞里亞を有能な一人前のレディにするという確固たる目的があるらしい。じゃあとりあえずこのフランス人形みたいな服装をやめさせるべきだと思うのだがそのへんどうなのですかじいやさん。

 春歌の老婆撲殺イベントに出くわす。悪性遺伝を受け継いでいるのは別に亞里亞だけじゃないよなあ、としみじみ思った。

 じいやさんが夜中に僕の自宅に駆けつけてきた。稽古ごとの最中じいやさんがぶちぶち文句を垂れていたらとうとう亞里亞がブチ切れてお菓子部屋に篭城したらしい。篭城戦はすでに二日に及ぶそうで、万策尽きたじいやさんは僕に助けを求めに来たのだった。
 車で亞里亞邸に向かった。敷地内で「ちょっと待っていてください」と言われたのでぼーっとしていると、十分後じいやさんは先端に直径1Mほどのハンマーをぶら下げたクレーン車に乗ってやってきた。あさま山荘かよ! じいやさんはかなりテンパっている模様でありなんとか説得してクレーン車から下ろさせた。やれやれ。

 すると今度はじいやさんは「ウサギの人形を使って亜里亜様をおびき出しましょう」という作戦を耳打ちしてきた。最初っからそういう穏便な手で行きましょうよ。だがじいやさんの作戦には一点気にいらないところがあった。「ウサギさんの名前はバニ山バニ夫でお願いします」。というのだ。いいや僕の見る限りこのウサギさん人形は「ラビット鈴木」って顔をしてるねッ! ところがじいやさんは「いいえワタクシにいわせてもらえばこの人形はいかにもバニ山バニ夫な感じです」と主張して譲ろうとしない。喧喧諤諤の激論の末、妥協案として「じゃあこのウサギ人形の名前は『うさぴょん』で行こう」と決定した頃には、いつのまにか亞里亞は部屋から出てきていた。言い合いのあまりのうるささに耐えられず出てきたようだ。
 ……結果オーライ。

 じいやさんから「お兄様と亞里亞様は血の繋がった兄妹ではないのです」と言われた。亞里亞のことを僕に任せても大丈夫、と判断したのか、じいやは内密に僕に一つだけ頼みごとをした――

「このおれが警察か誰かの散弾銃でひき肉にされちまったら、お兄様、おまえは亞里亞があちらを向くまで待ってから、あの銃の銃口をあいつの耳の後ろにあてがって引金を引いてくれ。もしおれがいなくなっちまったら、あいつにとっちゃそうなるのがいちばんのしあわせなんだ」
「じ、じ――じいやさんは亞里亞を愛してるんだと思ってたけど」
「愛してるさ。もしオレがメイド職を解雇されて、亞里亞に気を配る人間がいなくなったら、あいつはどうなるんだろうと考えずにはいられんほどにな。誰があいつの面倒を見る? だれがいろんなものごとの説明をしてやれる? 豪邸で飼われるままに生きてきた、自分の考えはなんにもしゃべれん、小さくてお菓子を食うだけのあかんぼに情けをかけてくれるようなやつが、この世間にいるもんか。だれがあいつの歯を磨いてやる? だれが食い過ぎで太らないようにしてくれる? あいつは時々、時間の観念さえさっぱりわからなくなっちまうんだぜ。 はっきりいって、あいつはこの世で一番ダメな人間なんだ。もしおれが死んで、あいつがとっつかまったら、やつらはまずあいつを幼女専門店に放りこんで、そのあと、おれがいねえもんだからなにが起きるか知れたもんじゃないし、どうにも手の施しようがないってわけで、タイかフィリピンに売られちまうだろうよ。そんなことにはさせられねえ、絶対にな。だから、おれのいったとおりのことをやってもらわにゃならねえんだ」

 わかりました、じいやさん。と言う以外に返答があるだろうか。というか警官に射殺されるってあんたは一体何者なんだ。

 クリア。そもそもシスプリに手を染めたきっかけは、kmc先輩が「オーデル・パイ@ダーティホワイトボーイズな妹がいる」と言い出した事である。実際にシスプリというゲームに手をつけてみたところ、それは確かに事実だった。それが確かめられたという一点だけでも、このゲームを購入してプレイした価値はあるだろう。しかし、正直なところ、妹萌えという概念を理解するどころかますますわけのわからないものになってしまったというのも事実。つうか12人も妹がおりながら誰とも同居してないってのがなあ。お兄ちゃんかそれに類する代名詞で呼ばれる事だけが十分要件ではあるまいに。まあ、いいけどね。
 あとプレイしている最中「アルタープリンセス」(シスプリvsスクライド)とか「妹狩」(シスプリvsソウルテイカー)とか書いてみようカシラと画策したものであるが、現状三つとも放置プレイだというのにさらにシリーズを増やすのは明らかに自分の首を絞める行為だと思ったので中止。そっちを何とかしなきゃ……。

 とりあえずこれでシスプリ日記は終了。あとは千影がノーマルエンドだったのでトゥルーエンドを見ておこう。