穢れなき殺人拳 篇

2002/02/10

 現段階における春歌の「戦績」をまとめておこう。

・道を聞きに近づいてきた人物を撃退。
・同じく道を聞きに来た老婆を撲殺未遂。
・偶然近くを通りかかった通行人に断末魔の悲鳴をあげさせる。
・生け花の最中に意見の相違から別の弟子に手を出す。剣山で殴ったのかもしれない。
・主人公を轢きかけた車を事故らせる。具体的な手段は描かれていないが……
・野良犬を殺そうとして逆襲を食らう。

 和装だけに見た目はおとなしげな娘なのだが、その実猛烈に凶暴というギャップが面白すぎる。「夢見がち」な性格だということだが、全世界が敵と思いこむ強迫症の域に達していると思う。この世はもっと平和な場所なんだということを兄として教えてやらねばなるまい。春歌、君は高速道路を逆走しているわけじゃあないんだ。

 バレンタインデーに春歌はあんみつを持ってきた。渡すものはチョコでなくてはならないという法はないのだからそれはいいのだが、しかしあんみつという携帯にかなり不便であろうデザートを選んだのかは謎だ。敢えてあんみつとは渋い選択だが、和服の少女があんみつ持って夜道を歩く、という図はなかなかシュールだ……

 魚屋でもめている白雪を発見した。「ワニ入れとけゆうたのになんで入ってへんねやボゲェ」とかいう調子。なんか、僕のためにワニ肉の入った弁当を作りたいらしい。心遣いはありがたいが、無茶を言うでない。僕はバリッシュ(註1)じゃないってば。

 薙刀の稽古を見に来てくださいませんか、と春歌に誘われたのでついていった。春歌の引き締まった胴着姿に見とれていたら、突然春歌の師匠が「春歌と手合わせしてみませんか」と言い出した。イヤだなあ御冗談を、と思っていたのだがその話を聞いて春歌はやる気満々、「全力で胸を貸していただきます」とか言い出した。なッ! ばッ……! 大の男を一撃で叩き伏せる春歌と遣り合えと!? つうかそもそも薙刀のルールすら知らないってば……という主張に春歌は耳も貸さず棒を構えて突撃してきた。その姿は鎌を持って生者の魂を刈り取る死神のようだ、と思った瞬間には、僕は凄まじい衝撃を受けていた。そのまま意識は暗転した……

 気がついたら介抱されていた。ものの見事にクリーンヒットを食らってしまったらしい。実力に勝るからこそ敢えて正面から受け止めてくださったのですね、と春歌はうっとりしていた。一歩間違ったら死んでいたところなんだが……。一度敵と認識した相手は必ず叩きのめす、という春歌の恐ろしさを再確認した一日だった。僕に春歌は止められない……。

 一緒にサイクリングに参りましょう、との呼び出しを受けて河原に向かう。春歌はすごいレトロなデザインの自転車を二台準備していた。ペダルを逆回転させるとブレーキがかかる(註2)、というレベルではない。前輪が巨大で後輪がちんまり、という代物(註3)。僕たち二人はあやしい自転車乗りとなって河原を駆けぬけたのだった。
 あと水芸を見せてもらった。ドイツで覚えたらしい。君ならベルギー消防団(註4)ができるね、と思った。

 泊まりに来てくださいと誘われた。春歌手ずからの料理をいただく。味は普通だったが、徹夜して料理を作ったという発言が気にかかった。この間、弁当を作ってきてくれたときも徹夜したって言ってなかったか? 味噌汁にソーセージを入れるなどユニークなところも見られ、性能が高いんだか低いんだか微妙なところであるな。

(註1)バリッシュ:昔ヤクルトにいた外人選手。パリッシュだったか?

(註2)ペダルを逆回転させるとブレーキがかかる:「我輩はカモである」(D・E・ウェストレイク、ハヤカワミステリアスプレス)において主人公が自転車を止めようとしてペダルを逆回転させるものの自転車は止まらなくて大ピンチ、というシーンがあるのだが、昔の自転車ってそんなんだったのか? オレはそんなの知らない……

(註3)前輪が巨大で後輪がちんまり、という代物:グラフィックを見る限り普通のママチャリだと思われるのだが、周りの視線が痛いくらいレトロというからにはそんなものではなかろうかと推察される。

(註4)ベルギー消防団:テクモのアーケードゲーム「がんばれギンくん」に出てくるミニゲームの一つ。タイミングよく小便小僧から水を噴出させて火を消す、というもの。

2002/02/11

「春歌は乱暴過ぎますか」
 と聞かれた。おまえまったく自覚してねえのかよ、と思ったがついこの間薙刀道場で春歌の実力を体で思い知ったばかりだったので「うん、乱暴だね」とはとても言えなかった。獣同士の付き合いはどっちがボスかわからせることが大事、というが、明らかに春歌のほうが「蒼き狼」であり僕は白き雌鹿の役割を与えられているとしか思えない。ああ……。僕のこと、バンビと呼びたければ呼んでくれ。

 老婆撲殺イベント発生。やはり殴ろうとしてから殴る対象の正体に気づく、という調子でありこれでは蒼き狼ではなく狂犬でんがな。

「これは兄君さまの分!」ドギャ
「これはユリアの分!」メキョキョ
「これは赤寺とその息子たちの分!」グチア
「これはボナンザの分!」ボゴム
「そしてこれは――このオレの怒りだァァ――ッッ!!」
 ドッギャァァ〜〜ン

 しかし、僕に止めることがどうしてできる……

 鈴凛が慌ててやってきた。「ついさっき電話がかかってきてさ! 春歌が怪我したって!」とのこと。なんで鈴凛に電話が行くのかよくわからぬが、ともかく道場に行ってみる。どうも、薙刀の稽古中ガツンと一発やられたらしい。この間の僕のように。まあ早晩こうなることは避け得ぬところだったのだ。だって春歌、遣り合うときにあまり相手を見てないもの。つまり最初の一撃を交わせさえすれば、僕にも勝機はあるということだろうか。まあ、春歌と殴り合いになるシチュエーションがあるとも思えないが。正直、遠慮したい。

 事故後、公園で出会った春歌は、謎の尺八SEを出す事も謎のアルター桜吹雪を出すこともなかった。本人曰く、今までは兄君様の御為となるべく必死になりすぎていた、これからは肩の力を抜いて普通に兄君様に接していきたい……だって。やっと悟ってくれたか。なるほど、この日春歌は自然に笑っていた。兄としてもうれしいことこの上ない。それは裏を返せば、「桜吹雪が舞うときは春歌がやる気満々な時なので気をつけろ」ということか。気を付けよっと。
 一度染み付いた雌鹿根性は、そう簡単に洗い落とせるものではない。

 道場に来い、との召喚命令を受ける。この間は夢中で駆けつけたが、春歌にのされたというイヤな思い出があるだけにあまり行きたくない場所である。が、さすがに無視するわけにもいかない。道場に行くと、春歌は琴の音を立てながら現れた。尺八から琴にパワーアップかよ! と思う間もなく、ワタクシの帯と兄君様のベルトを交換してくださいと言われた。いわれるままに交換すると、急に春歌が恥ずかしがり出した。何事か、と聞いてみたら、帯を交換する、とは将来を永遠に誓い合うこと、なんだって。ちょっと待って! それはどこの国の風習ですかッ!? いつの間にやら婚約成立の模様。またしても兄妹じゃないといわれたし。訂正しておこう。「桜吹雪が舞うときと尺八が鳴るときと琴が鳴るときは春歌がやる気満々な時なので気をつけろ」。まあ、いいけどね。

 クリア。外見を裏切るキャラ設定がかなり面白かった。おとなしめの容貌に対しやることなすことまるで狂犬の如し。乱暴、とは彼女のためにある単語だ。全ては兄君様を思うが故、なのであるが加減というものを知らないのか君。愛すべきキャラクターではある。

 次は白雪にしよう。メシを作る以外に能がない、という評判であるが、箸にも棒にも引っかからないキャラばかり残すとあとがつらいからな……