第11話 IDOL LEGEND
一大イベントであるイブ祭だけあって、同志社の構内はすごい人であふれかえっていた。道の両脇に様々な出店がずらりと並んでいる。焼きそば、団子、豚汁、たこ焼き等、そのバラエティは様々だ。
「みんなも食べないかい?」
さっそく七瀬がとある出店でホットドッグを買い、もぐもぐと食べていた。
その様子を見て、若菜はため息をついた。
「七瀬さん、私たちの目的を忘れたのですか? そんなことをしている余裕はないのですよ」
「いいんじゃないの」僕は口を挟んだ。「せっかくの学祭なんだし、楽しむのもいいんじゃないかな。第一、この人混みじゃあそう簡単には目標を見つけられないよ」
「この人混みだからまずいのではありませんか? 攻撃を仕掛けられたら、動けなく可能性がありますよ」
「そのことなんだけど……」
真奈美がおずおずと一冊のパンフレット、イブ祭ガイドを差し出した。いつの間にか係員から受けて取っていたらしい。
「この中に、ステージで演奏するバンド名が書いてあるんですよ……」
野外ステージで演奏するバンドと演奏時間のリストが載っていた。真奈美の指さすところには、「15:30 ガブリエル松岡&BLACK HEAVEN」と書いてあった。
「ブラック・ヘヴン? これがバンド名みたいですね」若菜は腕時計に目をやった。「演奏開始まだ時間がありますね」
「時間になるまで、適当に時間を潰した方がいいと思うけど」
僕が意見を述べると、若菜は不承不承ながら「そうですね……」と頷いた。
「そうと決まったら、適当に見て回ろうよ」七瀬は言った。「……アレはなんだろう」
七瀬の視線の先には不思議な一団がいた。5人が一列に並んでいる。そのうち4人までは、ボンテージスーツに身を包んだ野郎だった。
「!?」
若菜がビビって目を剥いた。お祭り気分で奇妙な扮装をしている学生たちは多いが、彼らは特別に目を惹く格好をしていた。それが証拠に、会場内は非常に込み合っているというのに、彼らの通るところには常に道があった。誰もが気味悪がって一歩引いているのだ。
一団は僕たちの方にまっすぐ向かってきた。
その真ん中に、首輪でつながれて引きずられている奴がいた。野郎かどうかはわからない。なぜなら、そいつは鉄仮面みたいなものをかぶっていたからだ。その姿は、地下室で長いこと拷問を受け続けてきた囚人を想起させた。
「ふぉ……うおおっ」
くぐもった変なうなり声を上げながら、そいつは僕に向かって一枚の紙切れを差し出した。紙切れには大きく文字が書いてあったので、僕はそれを声に出して読み上げた。
「……オカマ喫茶」
「ふがふが」
鉄仮面が顔を上下に動かした。「是非来てくれ」とかいうことを伝えたいのだろう。決して日本語を話そうとしないところに、演技を徹底させようという意気込みが感じられる。
「面白そうだね。いってみようよ」
好奇心あふれる七瀬は興味を示した。
一方、若菜は目を点にしていた。
「冗談でしょう!? イヤですよ、こんな……オカマ喫茶だなんてッ」
「真奈美はどうかな」
七瀬に水を向けられると、真奈美はうつむき、目を伏せつつ言った。
「坂崎さんが行くというなら……行ってもいいです」
「坂崎さんは行く気満々だ」僕は断言した。
普段は沈着冷静な若菜も、1対3という多数決の前には焦らざるを得なかった。
「む……。わかりました。みなさんが生きたいとおっしゃるのなら、私もおつきあいいたしますッ」
ややヤケクソ気味に、若菜は言い捨てた。
「じゃあ決まりだね」七瀬はうれしそうだった。「オカマ喫茶はどこにあるんだろう」
「この紙には、弘風館と書いてあるけど?」
僕がいうと、真奈美がパンフレットを調べ始めた。
「弘風館というのは……そこの建物みたいです……」
正門から入って少し行くと、道が90度左に折れている。その角に立っているのが、目的の建物らしい。
「さっそく行こうよ」
七瀬は先陣を切って歩き始めた。
怪しげな一団はいつの間にかいなくなっていた。何処に行ったんだろう、と思って僕はあたりを見回した。猛烈に目立つなりをしているだけに、探すのは簡単だった。彼らはとあるたこ焼き屋の出店の裏に回り込んでいた。そこにはもう1人、女の子が立っていた。こちらに背を向けているため、顔は見えない。鉄仮面と話をしているようだった。
「明日香、しっかりと奴らに紙を渡しといたやろな!」
「ふおっ。うお!? うおっ!!」
奇怪な鳴き声を上げながら、鉄仮面は首を縦に振った。
「よぉぉぉし! よしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしッ」
よしよし、というフレーズを何回も繰り返しながら、女の子は何回も鉄仮面を誉めるようになでりなでりしていた。
「うああ、おっ、うおっ、おお――ッ」
何かを懇願するような声を鉄仮面が出すと、女の子は手を離した。
「そうや。スマン、忘れとったわ。ごほーびをやるで……よくやったごほーびや。2個でええか?」
「うあああっ。うおっ、おおおっ」
鉄仮面はイヤイヤをし、右手の指を3本立てた。
「3個か? 3個欲しいんか? イヤしんぼめ! ええやろ、3個やったろ」
すると、女の子は出店で焼き上がっているたこ焼きを3個鷲掴みにした。
「行くぞ明日香、大きく口を開けろ! 手を使うなよッ!」
野球の投手のように腕と足を振り上げ、女の子は鉄仮面に向かってたこ焼きを投げつけた。鉄仮面は大きく体を動かし、器用にもその3つとも口で受け止めた。
「よぉぉぉし! よしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしよしッ」
女の子はまた鉄仮面をなでりなでりした。まるで芸に成功したペットをかわいがる飼い主のようだった。
変な人がいるものだ、程度にしか僕は思わなかった……このときは。
オカマ喫茶はすでに満席だった。隣の席に座っているのは同志社の学生のようだが、漏れ聞こえてくる彼らの話によると「ここのサークルは会費が無く、オカマ喫茶の売上だけでサークル活動を行っている」らしい。意外に女性客も多い。男女比は半々といったところか。
照明が落ち、暗赤色のスポットライトがステージ上(おそらくこの教室の机を寄せ集めて作ったのだろうが)を照らし出した。怪しげなBGMがなり始めると、同時にステージ奥から7、8人のスゴい格好をした野郎どもが出てきて、狂ったように踊り始めた。一瞬にして会場は異様な熱気を帯びだした。
ちらりと隣席に目をやると、若菜は完全に凍り付いていた。真奈美は両手で顔を隠しつつ、しかし指の隙間からしっかりとステージ上を見ているようだった。
七瀬は平気な顔をしてホットドッグを喰らっていた。
ステージ上の狂った踊りはだんだん静かなものになっていった。ゆっくりと姿勢が低くなっていき、みな座り込んだか寝たかしたところで全く動かなくなった。僕たちは次の展開を固唾をのんで待った。
だが、いつまでたっても動きは現れなかった。急に水を差された格好になった観客がざわざわ言い始めた。やがて、主催者が異変を感じたか、暗い室内に照明が再点灯された。
ステージ上にあったものを見た者、全員が悲鳴を上げた。
ボロボロに崩れた人間のバラバラ死体が、山のように積み上げられていた。青いカビのようなものが一面に付着し、それが肉体を腐食させているかのように見えた。
「みんな、探すんだ……」新手のスタンド使いの攻撃としか考えられなかった。「スタンド使いを捜せ! 無関係の学生を巻き込んでいる!」
僕たちは腰を浮かせた。
不意に七瀬が右手を差し出した。
既にその指先に、青いものが付着していた。
「……なんですそれは!? いつつけられたんですかッ!?」
若菜の問いに、七瀬は慎重に答えた。
「よくわからない……くっつけられた瞬間は見えなかった」
少し鼻でにおいをかいでから、七瀬は指先をなめた。
「……これは青ノリみたいだよ」
「青ノリ!?」
ステージ上の死体にびっしりとくっついているものも、すべて青ノリだ。ちょっと見にはカビのようにも思えたのだが。
場内はパニックに陥り、観客は出口めがけて殺到した。だが運の悪い何人か、全体の3割くらいが、突然青カビにおそわれ、ボロボロに崩れ始めた。その様子を目の当たりにして、観客たちは混乱の度をますます深めていく。
「ここは危険です……私たちも早く脱出しないと……!?」
あわてて若菜も逃げる観客の列の中へ加わろうとする。だが、その腕を真奈美がつかんだ。
「行くのはまだ早いです……調べなくてはならないことがあります……!」
僕たちは真奈美に注目した。
「何を妙なことを言ってるんです!? 一刻を争うことなのに……ッ」
「……青ノリの生えるのに……個人差があるのは何故でしょう……?」
言われて、僕は辺りを見回した。
「確かに……ステージ上の踊り子たちは全員が全身をやられている。だが観客たち全員が青ノリにやられているわけではない……そして七瀬は指先だけだ。なぜだ?」
「結論からいうと……温度に反応して攻撃を開始しているのだと思います……!」
「そうかもね」七瀬が首肯した。「わたしはさっきまで熱いホットドッグを握っていた。その熱に反応したのかも」
「それで、踊り子たちは激しい運動をしたから体温が上がって、全身をグズグズにされったてわけか!」
「……ということは」
若菜は鞄の中からミネラルウォーターをとりだし、七瀬の指先に垂らした。すると、青ノリはきれいに洗い流された。下から新たな青ノリが生えてくる、ということもなかった。
「そうか、体を冷やせばいいんだな!?」
「でも」若菜はペットボトルを逆さに振った。「もうこのペットボトルは空っぽです。何か別なものを見つけなくては……!」
「しかし、この秋の寒空で冷たい物を売っている出店なんて無いぞ!?」
「……いえ、たった一つだけありますよ」イブ祭に何度か来たことがあるという若菜は指摘した。「どこかに、毎年アイスクリームの天プラを売っている出店があるはずです」
「そうなのか。じゃあ、みんなでアイスクリームの天プラを略奪しに行こうか」
七瀬はさらりと言った。
その時、ステージの奥から新たな人影が現れた。やたらと体にぴったりした全身タイツみたいなものを身につけ、鉄仮面をかぶった、さっき僕にここのビラを渡した奴だ。ただ違うのは、ビラを持っていたその右手に、今はマイクを持っているという点だ。
「ドジュゥゥゥゥ」
と鉄仮面はマイクに向かって言った。するとどういう仕組みなのか、空中に「ドジュゥゥゥゥ」というまるでマンガのような書き文字が浮かんだ。鉄仮面はその文字を僕たちめがけて打ち出した。
それほど素早い一撃ではなく、僕たちは回避することができた。だが、標的を見失った文字は大きくカーブを描き、逃げまどう観客の一人の背中にクリーンヒットした。
ドジュゥゥゥゥ、と肉が焦げるような音が発生した。
「ギャアアアアッ!!」
実際に火が出ているわけではなかった。が、本当に焼かれているかのように、その学生は悲鳴を上げた。
途端、文字の当たったあたりに青ノリが生え始め、学生はその場に崩れ落ちた。
「違う敵……! テメエ、青ノリとは違うスタンド使いだな!? メェェェェン!」
いきなりミユキ人形がライフルを乱射した。
全身タイツ自体がスタンドであるらしく、鉄仮面は両の拳をくりだして弾をはじいた。やや意外だったが、若菜はひるまなかった。ミユキ人形の弾幕は目くらましであり、本命はこっそり足下を狙うミニチュア山戦車だ。狙い通り、山戦車は鉄仮面のすねにヒットした。
が、鉄仮面の奥で、笑いがこぼれた。
ドジュゥゥゥゥと音がして、若菜がのけぞった。
「ああああッ!?」
若菜はすぐさま右の袖をまくった。右手の先の方から青カビが生えだし、肘のあたりまで這い上っていた。
「良く……見る……じゃああん……」鉄仮面の奥から声が漏れ出た。「あらかじめ……文字を張り付けておいた……」
見ると、鉄仮面の足に「ドジュゥゥゥゥ」という文字があった。
「青ノリは……生きている物、熱を発する物全てにとりつくじゃん……おまえたち全員……ここで死んでもらうじゃん……」
鉄仮面はやたらと語尾に「じゃん」をつけた。まるでウラシマまりんのように。
「ドジュゥゥゥゥ」
鉄仮面はまたマイクに向かって言い、その通りの書き文字がまたしても宙に浮いた。
「下がってください……!」
真奈美が一歩前に出てバード・メイデンを発現させた。
「ばかなッ!」僕は思わず叫んでいた。「触れるだけで青ノリに取り憑かれるんだぞ! 真奈美ッ!?」
バード・メイデンは打ち出された書き文字をはじき返し、さらに鉄仮面本体へと攻撃を加えた。
トリトリトリトリトリトリトリトリトリトリトリトリトリトリトリトリトリトリトリトリ
やや不意をつかれたような形で、鉄仮面はクリーンヒットを喰らった。真奈美は一気にケリをつけるような勢いでバード・メイデンを繰り出したが、とどめを刺すには至らなかった。鉄仮面が足下にズボッと手を突っ込み、ステージを作っている机をひっくり返し投げてきたのだ。真奈美はバード・メイデンで防御せざるを得なかった。それでもいくつか喰らってしまい、真奈美は2、3歩たたらを踏んだ。その隙に鉄仮面はステージの奥へと逃げ去った。
「今のうちに外に出よう……!」
七瀬が若菜の肩を抱き、僕たちは急いで教室を出た。
「とりあえず……アイスクリーム天プラの出店を探しにけばいいんだね」
七瀬の沈着ぶりが、このときはありがたかった。僕の合図を見て、七瀬は先に階段を下りていった。
「それにしても真奈美……大丈夫だったのか? てっきり青ノリにやられると思ったんだが」
真奈美の姿を見て、手首を怪我していることに気がついた。その傷口からは骨が出ていたが、血は出ていなかった。
「……?」
奇妙に思って、僕は真奈美の手を取った。少し乱暴につかんだような気がしたが、痛みを真奈美は表情に出さなかった。
途端、異変に気づいた。真奈美の手が異様に冷たいのだ。
「!? ……これは……一体!?」
「……怪我をしてたんですね」
自分の手首を見て、真奈美は笑った。悟ったような、諦観したような笑い方だった。
「もうあまり時間が無くなってきましたね……だんだん皮膚の感覚が……いや」今度は、僕の目を見て笑った。「最初からすでになかったのかも知れませんけど……」
ここに来て、僕も悟らざるを得なかった。真奈美の体は、医学的にはもはや死んでいる、ということを。
そもそも、真奈美は生まれつき体の弱い子供だった。僕は中3の時に香川は高松に引っ越したのだが、学校で真奈美と会うことは多くなかった。真奈美は学校を休みがちだったからだ。転入してまもなく、担任は僕を真奈美のためにプリント類を届ける係に任命した。転校してきたばかりの人間に何をやらすんだ、というのが正直な気持ちだが、その一方で、真奈美に同情みたいな感情を覚えたのも確かだ。あまり学校に来ないので、クラスにとけ込めないでいるのだという。その気持ちは、しょっちゅう転校を繰り返してきた僕にはよくわかった。真奈美は、体が弱いだけでなく神経も細いのだ。精神的不調は肉体的不調につながりやすく、それが真奈美の登校を阻害しているのだ、ということが看て取れた。
ある日、課外授業に出かけたときに、真奈美が鳥の雛を保護する、というちょっとした事件があった。雛は弱り切って草むらに転がっているのを発見された。真奈美は雛を学校に連れて帰り、看病してやることを積極的に主張した。真奈美が、その小鳥の境遇に自分を重ねて見ていたのは明らかだ。担任の決定で真奈美と僕が小鳥の世話係に任命されたのだが、僕と2人きりのときに言ったものだった。
「ピッチちゃん(小鳥の名前。真奈美がそう命名したときはヘボい名前だなあと思ったが、それを口にしないだけの良識を僕は持ち合わせていた)が元気になって、大空を飛べるようになったら、私も毎日頑張って登校する……」
真奈美はそう約束した。が、その約束が成就されるところを、僕は見ることはできなかった。小鳥が全快し蒼穹のかなたへ去っていったその翌日、僕は待たしても転校を余儀なくされることとなったからだった。この時ばかりは僕の良心が痛んだ。僕がいなくなることに真奈美はショックを受けるんじゃないだろうか? やや自己中心的な考えかもしれないが、しかし、僕がいなくなることに真奈美が何も感じない、影響を受けないとは考えにくかった。むしろ影響を受けない、何も感じないでいてくれたほうが良かったのだ。また不登校がちにならなければいいんだが、と思いつつ、僕は高松を去った。
だが――どうやら僕という存在は、真奈美の心の中に思ったよりもはるかに深く食い込んでいたようだ。
真奈美は語りだした。
「……あなたが高松を去ったとき……わたしはショックで寝込んで、生死の境をさまよいました……」
「ばかな」僕は呟いた。「その時に、3年も前に……まさか!?」
「不思議ですね……これは運命とわたしは受け取りました……天がチョッピリだけ許してくれた偶然の運命だ、って……。高松で坂崎さんと出会ったとき、あなたがくれた勇気と、バード・メイデンはもう少しだけ動くことを許してくれたみたいです……あなたに、出会うために」
「なぜ……何故黙っていたんだ?」
「それについては……坂崎さんも良く知っているはずです……終わったものはどうすることもできないって……。わたしの命は、3年前、すでに終わっていたんです……黙っててくれますね……みんなには……?」
「バカな……そんなバカな、真奈美ッ! おまえは……!」
「静かに!」真奈美は唇に人差し指を押し当てた。「……坂崎さん、なんですかこの音は……!? 耳鳴りじゃないですよね……」
耳鳴りではなかった。ガス爆発のような音が轟いた。
「坂崎さん!? 遅いですよッ!?」
若菜と七瀬は弘風館の入り口に立ち、外に広がる青ノリの海を眺めていた。
あらゆる人間、通りすがりの客も、出店の人間も、誰もが青ノリに襲われていた。全ての人間が死んでいるか、あるいは瀕死だった。瀕死の人間のうめき声が渦を巻いていた。一部ではガスコンロの火が出店に燃え移り、ガス爆発すら起こしていた。
「無意識……」
阿鼻叫喚の絵を前にした僕は、口からまるで他人ごとのように言葉が滑り出していくのを止めることができなかった。
「スタンド能力はある意味、その本体の無意識の才能だ。心の中に罪悪感があれば、無意識にどこかでブレーキをかける能力になる。だがこいつは、『お好み焼きを焼く』ことを楽しみ、それを生き甲斐にしている……こんなことをするとは……こいつにはブレーキがない! こいつは悪の限界のない奴だ」
真奈美も若菜も七瀬も、僕の顔を見、僕の話を聞いていた。
「こいつは平気だ……まさかやるとは思わなかった。京都の人口は140万! 同志社だけにとどまらない……青ノリは死体から死体へあっという間に広がるぞッ! こいつは人間をお好み焼きにすることを楽しんでいる!! このままだと京都中の人間が死ぬぞッ!! いやそれ以上広がってもこいつはやめないッ!」
「しかし……本体を見つけないことには止めることができませんッ!」
若菜の叫びに、僕はあることを思い出した。オカマ喫茶に入る寸前、鉄仮面を誉めていた女の子がいたことを。僕はあのたこ焼き屋を探した。
出店の奥にたった1人、彼女は5体満足で立っていた。もちろん、見覚えのある顔だった。
大阪で出会った女の子、森井夏穂。
夏穂は僕たちと目が合うと、刺すような視線と含み笑いを投げかけてきた。そして体を翻し、背後の建物の中に入っていった。
「若菜、七瀬、彼女を追うんだ……!」
僕の指示に、若菜と七瀬は一つうなずいて、走っていった。
2人の後ろ姿が建物の中に入っていくのを見届けてから、僕と真奈美はほんの少し体を傾けた。
弘風館の奥、十字路の真ん中に、顔から血を滴らせつつ、鉄仮面が立っていた。仮面をかぶっているが、その正体が僕にはもう分かっていた。彼女は横浜で会った女の子、星野明日香なのだ。
スタンド名-アイドル・レジェンド
本体−星野明日香
| 破壊力−A | スピード−C | 射程距離−E |
| 持続力−B | 精密動作性−D | 成長性−D |
能力−鉄仮面に全身タイツという装着型スタンド。
全身タイツはバラエティタレントの象徴。
アイドルの象徴たるマイクは、吹き込まれた擬音を
実体化させ、攻撃を喰らった者に擬音で表現される感覚を与えることができる。
鉄仮面はむしろスケバン刑事風。