イギリスの田舎町の開業医ビクリー博士は、『屋敷』に一人で住む女マドレインに恋をした。だが障害となるのは妻ジュリアの存在。博士は周到な計画を立て、ついに妻をモルヒネで毒殺することに成功した。ところが、彼の行く手には新たなる障害が……という話。
三大倒叙と呼ばれる古典。内容としては、自分のことを賢いと信じこんでいる実は馬鹿な男――要はシェリンガム君みたいな男が殺人をやりとおそうとしたら、という話である。ビクリー博士というのがシェリンガム君を一回り大きくしたようなアホでありかつ女癖が最悪。こういうダメ人間を書かせるとバークリーの筆致は冴えまくるので不思議。当然彼は自分の賢さに溺れそっちこっちで墓穴を掘りまくる。志村うしろうしろー! てな感じであり読者側もスリル満点。オチも皮肉で面白かった。バークリーは安定して面白いものを書くな……。
ぶっちゃけ地球と月をまたにかけたガンパレードマーチだと思いねえ。地球人類は通称「猿」と呼ばれる謎の生命体によって人口の大部分を失った。猿どもは女性を狙う習性があるため、人類は生き残りの女性を全て月に移住させた。そして猿どもを殲滅するため兵士の養成を行っている。主人公であるところのルノア・キササゲ大尉は地球に降下して多大なる戦果を上げ英雄とまで呼ばれたが、上層部のやっかみで月での教官職に飛ばされた。そこで待っていたのは訓練校始まって以来の落ちこぼれと呼ばれる五人組だった。という話。
はじめのうちは落ちぼれどもが新たにやってきた人物によって刺激され団結を深めていく、という王道的な話でありやっぱこういうのってありがちだけど燃えるよな――ッと思いながら読みすすめていったら事態は段々世界を揺るがす大事件化してゆき猛烈におもろいぞコレ。イリヤといい猫といい安定した力量を持ってるのねこの人は、と思った。でFINALが出るのはいつですか? E.G.がなんの略かという謎も解明されますか? 個人的には「エテ公とガチンコでコンバット」の略だと思うが。
夏休み最後の日、夜中に学校のプールに忍び込もうとした浅羽直之は、プールサイドに先客を発見した。手首に金属級を埋め込まれた少女は、伊里野可奈と名乗った。翌日、少女は転校生として浅羽のクラスにやってきた……というという調子でつづられる連作短編。
いい。すごくいい。こっぱずかしくならずにおれようかという青春爆発ファイヤーぶりが非常に快い。なかでも伊里野の描き方が抜群に優れており、少女の肌から発せられる息遣いが熱がほのかな香が、少年にとって近づきがたくしかし心引き寄せられる少女の気配が手に取るように感じられるッ! いやあマジでいいですわコレ。最近「さもなくば今までのことが日曜学校だったと思えるような目に遭わせてやる」とか「オーデル、ケーキ、すき。」とか「ちん紋ぽこ紋」とかいう本ばっかり読んでいるワタクシの心を洗い清めてくれるような清涼感でいっぱいです。ええ。引き続きその2も読む。
その1と同じく連作短編集。いい……。青春炸裂ストーリーがこんなにも心地よく感じられるとは我ながら意外。やはり「だから、わからないんですよ。どこからあんな噂が立ったのかが」とか「壁だ! 壁だ! 壁を後ろに下げてくれ!」とか「オレは、ハッピーエンドが大好きなんだ」とかいった殺伐とした話ばかり読んでいてはいけないなあと思った。このまま調子づいてE・G・コンバットにも手ェ出すべか、と画策中。
あと主人公の浅羽君には妹がおり、兄という二人称のバリエーションとして「ほ兄ちゃん」という言葉を提言しているのでこいつなら14人目のシスタープリンセスになれるなあと思った。
連載部分は既に読んでいるので、書き下ろしエピローグのみ読んだ。椎名真由美の手紙のくだりはちょっと泣けた。エリカの幽霊の話ってそういうことだったのかよ。ハッピーエンドともアンハッピーエンドともつかぬ余韻の残る話だったが、どうやら唯一須藤晶穂だけは勝利者となれたようだ。負け犬ッ子だって報われることはあるものだ。
それにしても。久しくライトのベルの世界から離れていたワタクシをズルリと引き戻してくれた作品だけに、完結は感慨深いものがある。現在のワタクシの本棚の最上段に阿智太郎作品とかDクラッカーズとかA君(17)の戦争とか並んでいるのも、遠因はイリヤだしね。さて、次は妖精作戦読みますか。
存在だけはかなり以前から知っていたのだが、電撃文庫の棚をナンボ探しても見つからない。ひょっとして絶版なのかしら、とも思っていたのだが――別レーベルかよ!
えーと、これはマンガ原作なのかアニメ原作なのかそれとも特にどれが原作とも呼べぬメディアミックスものなのか? という割にはこの小説は単体で妙に高い完成度を誇っており驚いた。秋山瑞人は安定して面白いもの書くね、と再認識。
大宇宙にぽっかりと浮かぶコロニー、トルクは猫の手になる文明が発展していた。高度の科学と中世ヨーロッパ的宗教に支配された世界では、死者(死猫……)の魂は大宇宙の外に見える「地球儀」に登っていくもの、と信じられていた。しかしこれに疑問を持つ者がいた。知識を連綿と受け継いでいくもの、37番目のスカイウォーカー幽は「生きて地球儀に行く」ことを夢見ていたのでありました。という話。社会の価値観と真っ向から対立する夢を追いかける天才は、周りに迷惑をかけ、不幸を呼ぶ。それでも天才は夢を追えるのか、というのがテーマである。とあとがきに書いてある。その通りであり「ソラリスの陽の下に」なみに書くことがない。いや面白かったのだが、どうも感想をうまいこと文章にできない。ヤングアダルト文庫を読んだのが久しぶりであるからかもしれない。リヴァイアス以来。「アフサンの遠見眼鏡」と比較されるこの作品であるが、ということはアフサンもこんな話なのか? 頭の数ページ読んだだけで、引っ越しの際田舎に送り返してしまった。人間以外の動物による文明の話、という点は同じではあろうが。田舎に帰って発掘せねば。次にいつ田舎に帰るのか果てしなく謎だが。
数年ぶりに日本に戻ってきて、昔住んでいた地元の高校に入った姫木梓は、幼馴染み物部景がドラッグ取引に手を染めているという噂を聞きつけた。本人に問いただしても答えは得られず、しかし放置することもできないので、梓は実践捜査研究会(高校の同好会)海野千恵の助けを借りて調査を開始する。調べる内に、麻薬の流れを仕切る組織が存在し、しかも高校に深く根をおろしていることが判明していった――という話。
昔同じ著者が富士見ファンタジアで書いた「神仙酒コンチェルト」を読んで、おおこりゃ面白いや、と思った。以来注目はしていたのだがさっぱり続刊が出ずこりゃ風の白猿神なみに放置プレイか、と思っていたら、いつのまにか富士見ミステリー文庫で四冊も出していやがった。全然チェックしておらなんだわ。
で、内容であるが、神仙酒コンチェルトのときに感じた面白さをきっちり引き継いでいる、と思った。俺が読みてえのはこんなんよ。ミステリの手法を他のジャンルに応用しようとしているというか、ホームズ物語のように冒険部分を前面に押し出しているというか。結構満足。しかしものの話によると真に面白くなるのは三巻以降という話なので期待大。
葛根市には二つのドラッグ組織が根を張っていた。持ち前の正義感から組織の根絶を目指す海野千恵は同好会友達の姫木梓を伴い潜入調査を開始する。だが梓は先の事件で、これが単なるクスリの取引がどうこうというちまい話ではない事を知っていた。ドラッグは「悪魔を呼び出す薬」。そして幼馴染み物部景もまた「悪魔持ち」として暗躍を続けているのだ……という話。
おもしれえなあ。ごく単純ながら、レッドへリングの仕込まれた犯人探しがある。薄味ながらラブ話がある。謎の組織がある。そしてスタンドバトルがある。非常にワタクシ好みでいい感じです。続き読もう。
葛根市に巣くうドラッグ組織セルネットは、ウィザードと呼ばれる悪魔持ちに組織幹部を潰された。これはもはや捨て置けぬと判断、組織の総力をあげてウィザードと、行動をともにしていると推測される姫木梓、海野千恵を始末するために動き始めた。しかし、ウィザード――物部景の肉体は、多量のドラッグ摂取により限界を迎えつつあった。景ちゃんはこの大ピンチを切り抜けることができるのでしょうか? という話。
ますます楽しくなってまいりました。話自体は次巻に続くという感じでありさっさと読みます。
これで過去に関する伏線は一通り消費したことになるのかな? ラストシーンは「オレたちの戦いはコレからだ」というところで終わっており続刊以降雰囲気が大きく変わりそうな気がしないでもない。とりあえず最新刊に追いついたので、続きを楽しみに待つことにいたしましょう。
オーロラ人と呼ばれる宇宙人が地球にやってきて、ニューヨークシティのそばに移民都市を作っている時代。その移民都市で、宇宙人のロボット工学博士が惨殺されるという事件が起こった。ニューヨークの刑事ベイリは警視総監に呼び出され、殺人事件の担当につかされる。しかもパートナーとして宇宙人のロボット、ダニールが指定された。事の次第によってはかつて地球に大打撃を与えたオーロラ人との戦争を再び起こす可能性もある。己に負わされた責任にうんざりしつつベイリは事件の捜査を開始するのだが……という話。
前に読んだ時は、どうも途中で放置してしまったらしい。実質今回初めて全部読み終えたわけだが、面白かった。SFミステリの一番難しい点は、我々の住む現実とは異なる世界観を読者に提示して一定の説得力を持たせつつ、その特殊な世界観を使用して一つの犯罪事件を組み上げるということだ。世界観に説得力がなければ、推理の道程における論理も根拠が薄くなる。とはいえさすがアシモフと言うべきか、世界観の提示は十分にしっかりしていると思われる。犯人の正体はさほど意外ではないが、しかし犯人に至る論拠は十分説得力のあるものである。ミステリ作家としても一定の業績を残しているアシモフだけに、さすが手慣れているな、という印象を持った。
さきのオーロラ人殺害事件を解決したベイリのもとに、新たな指令が舞い込む。今度はソラリアにて発生した殺人事件を解決しろと言うのだ。パートナーR・ダニールと共に降り立った惑星ソラリアの住人は、他者との接触を異常なまでに嫌うという性質を持っていた。地球人とはあまりに異なる容疑者達を相手に、ベイリは苦戦を強いられながらも捜査を続けていく……という話。
今回焦点となるのは、撲殺に使われた凶器が現場で発見されなかったのは何故かという謎である。これにもSFミステリならではの解決が与えられている。でも全体的に見ると鋼鉄都市の方が面白かったかなあ。あっちはエンダービィの眼鏡が殺人事件の謎から作品のテーマまですべてを語る、という風に一本通った筋がある。しかしソラリア人の奇癖はかなり面白かった。ウザい宇宙人どもだぜ全く。
銀河連邦警察機構のパワードスーツ導入計画に伴うコンペにおいて、最終的に二社の製品が選ばれた。最終選抜手段として、実地における製品テストが行われることとなった。辺境の地球という星に三人の凶悪犯を放ち、どちらのスーツ装着者がより多く犯人逮捕できるか、を競うのである。ただしスーツ装着者は現地、地球の人間を使う、というルールも課せられていた。そこで最終選考に残った二社のうち、玩具メーカーオタンコナス社は日本のとある青年に白羽の矢を立てた。彼の名は桜咲鈴雄、保父を目指して専門学校に通う一介の学生だった……という話。
特撮ヒーローものなのだが、ツボをおさえてるのかおさえてないのかなんか微妙である。主人公がまわりの人間には自分の正体を隠している、とか隣に住んでいる人が悪の大幹部でした、という設定はヒーローものではお約束だが、この作品では敵も味方も全員コスモス荘というアパートに住んでみんなして正体を隠している。コロンブスの卵的に斬新な設定であり感心した。パワードスーツドッコイダーが果てしなくかっこ悪いというのはヒーローものとして激しい欠点のように思われるが、でも阿智太郎風味にしたらこうなるのは必至だしな。残りも一気に読みましょう。
最後に残していたSPを本日読み終わったんで、まとめて記載。個別の話についていちいち書くほどのことはないんだが、頭を使わずに読めるのでもう大好き。いぬかみみたいに延々と書き続けてくれないもんかね? アニメも好評なんだしよう。
冬のある日、リアは公園で不思議な少女と出会った。ゼロと名乗るその少女は犬の死体を抱え、しあわせクラゲがどうのと電波めいた言葉を口走る等々奇怪な言動が見られたが、死んだ妹の面影を見出したリアはなにかしら、彼女をほっとけないと感じた。二度三度と公園で会ううちに、彼女には不可思議な能力があることに気づくのだが……という話。
たしかに葉鍵テイスト大爆発ですけどォ。でも自らヒロインのことを「電波がかっている」と言い切っているあたり潔いと思った。頭が弱い理由がしっかりしているし。とはいえディティールがあまりに適当なのはマイナスポイント。まあ個人的にはそれほど悪くなかったですよ。他人には勧められないが……
再婚を控えた戦争未亡人のメグのもとに数枚の写真が届けられた。それは戦死したはずの夫の生存を示すものだった。写真の送り主の指示通り駅に向かったメグの前に現れたのは、死んだ夫の変装をした別の男だった。男はすぐさま捕らえられたが、写真との因果関係を明かにできず無罪方面となる。だがその直後男が殺され、事態は妙な展開を見せ始める……という話。
今一つ。冒頭の謎の提示はいいんだが、それが話全体にうまいことからんでこない。いまひとつつかみどころのない話でやや残念。
19世紀末のイギリス。ブラックフィールド村にデイリー・テレグラフの記者を名乗る一人の青年が帰郷した。彼、シドニー・マイルズは、昔村で起こった密室殺人事件の謎を調べ直そうというのだ。当時の関係者の協力を得て、マイルズは事件の再構成に取りかかるが、その最中に新たな殺人事件が起こる。過去の真実を暴かれては困る、と殺人者が動き出したのだ……という話。
二部構成になっており、密室の謎は第一部で解かれ、第二部はその事件から派生した連続殺人事件の顛末を描く、という風になっている。効果を上げているとは言い難い。二つの事件に関係があるとはいえ、前半と後半で話が分断されている、という印象は否めない。ゴダードとかだったら過去の事件と現在の事件を交互に交えつつ、緊迫感ある話を書いただろうになあと思った。第二部で扱っているネタの扱い方は目新しいと思うんですけどね。
サイモン・カニンガムは、ミステリ作家であり未来の義理の父、ハロルドから自宅の夕食会に招く招待状を受けた。が、いざ行ってみると別段夕食会が開かれそうな様子もなく、当のハロルドは書斎にこもったきり出てこない。これはおかしい、と書斎に押し入ると、そこで待っていたのは、煮えたぎる鍋に顔を突っ込み死んでいる男の姿だった……という話。
そこかしこの書評では、第一作に比べ薄くなった、とか作家として長くやっていくためにネタを出し惜しみしている、という否定的な論調の方が多いような気がするのだが、個人的には十分コテコテしてたと思いますよ。書斎で男が湯の沸いた鍋に頭突っ込んで死んでいて、テーブルにはお食事の用意がされていて、そして死者は二十四時間以上前に殺されていた、ですよ? むしろ第一作に関してはトリック詰め込みすぎのやりすぎ感が否めなかったので、このくらいがちょうどいいんじゃないのだろうか。
解説の二階堂黎人の「トリックはカーよりむしろロースン風味だ」という指摘はまったくもって正しく、トリックはどこかちまちまとした印象を受ける。真にカーの後継者を名乗るのであれば、力技のバカトリックを手がけて欲しいものである。「魔女が笑う夜」の魔女出現トリックとか、「テニスコートの謎」の「全自動テニスマシーンを作ってくれるから手伝ってくれタマエ」トリックとか、アシモフが「できるわけねーだろ」と突っ込んだことで有名な「連続殺人事件」のドライアイスで人を殺すトリックとか。つうわけでさらにアルテを出版する機会があるのなら、作品中もっともバカなトリックを使用した作品を訳して欲しいものだ。カーの後継者としての真の実力は、それで決まる。オレ的には。
ダーンリー家の屋敷には幽霊の噂があった。屋根裏部屋で自殺したダーンリー夫人の幽霊が夜な夜な歩き回っているのだという。おかげで代々の間借人は恐れおののき去っていった。ところがある時、霊能力者を自称するラティマー夫妻が住みこむようになってから次々と奇怪な出来事が起こるようになった。隣人のアーサーが何者かに襲われ、息子ヘンリーは行方不明となる。さらには因縁の屋根裏部屋で密室殺人が起きたりもう大変、という話。
怪奇趣味、そして密室。たしかにフランスのディクスン・カーと呼ばれるだけある。そりゃまあカーに比べてあまりこなれてないところは散見されるが。
1:トリックがあっさり目。カーの30年代の怪奇趣味と40年代のあっさりトリックを組み合わせたような感じである。30年代カーはごてごてしたトリックが魅力だと思うのだが。
2:怪現象が多すぎ。なんかロースン「帽子から飛び出した死」的誤りを犯している。現象が多すぎると全体的に散漫になる上、その一つ一つにあっさりトリックがついているのでなんか軽い印象を受けるのよねえ。まあ、やりすぎってのはカーらしくはあるが。
3:全体的にストーリーのバランスが悪い。途中3年の期間が挟まるってのはあかんやろ。カーなら3年後の時点から話をはじめ、登場人物の誰かに3年前の事件を語らせ、そしてやがてまたしても事件が起こり……という風に進めると思う。
とはいえ、結構期待の持てる作家であるとは思う。ヘンリーの同時2箇所目撃情報とか、夫のものと思って握っていた手は実は死体でした、とかいったくだりは、うまい。訳者あとがきによるとこの人かなりのカーマニアらしいし、あまり他人と思えない。カー作品はフランスでも絶版なのかよ! あとはカー式スラップスティックさえ身につければ……
反核活動家エリザベスは破壊工作中事故に巻き込まれ、50年前の世界にタイムスリップしてしまった。行き着いた先はマンハッタンプロジェクト真っ盛りのロスアラモス。これは核開発を食い止めるチャンスではないか、とエリザベスはプロジェクトに潜り込みさりげない妨害工作を開始する。だが何の因果か彼女の行為は巡りに巡り、ナチス側に大幅な核兵器開発の進展を促すことになってしまった……という話。
お話の最後には、エリザベスの妨害活動はよりとんでもない結果を招いてしまった、というオチが待っている。なんらかの偶然が起きれば、原子爆弾開発競争はヒロシマナガサキ程度では済まないことになっていただろう、という主張はなるほど、と思わせるものがある。一方で開発競争は不可避の悲劇であって、個人の意志ごときでやめさせられるはずがない、という点も示しており、非常にむなしさを感じさせるお話でした。プロテウス・オペレーションの対極にあるといってもいいかもね。
ことの始まりは、倦怠期にあるガスコイン=チャマーズ夫妻の隣人のチャールズが家をとある財団に65000ポンドで売却すると言い出したことから始まった。これが芸術家を怪しげな理論で育成する妙な財団で、もし売却されれば、怪しげな自称芸術家どもがたむろすることになり、静かな生活は乱されることになるだろう。だがそれを忍びないと思ったチャールズは、君たちに60000ポンドでこの家を売ってしまってもいい、と猶予を設けた。しかし60000ポンドという大金は、とうてい夫婦には出せるものではなかった。唯一の希望は、財団は夫婦の家にも65000ポンド出して買ってもいい、と言っていることだった。夫エドガーは考えた。ならば家を売ってどこかに引っ越そう。だが妻は売ることを良しとすまい。ならば――妻を殺すしかない。妻シルヴィアは考えた。先祖から受け継いだこの家を売るわけにはいかない。かつ静かな生活を乱されないためには隣の家を買い取る必要がある。そういえば夫は100000ポンドの生命保険に入っているじゃないか。チャールズへの返答期限は七週間後。こうして夫と妻の暗殺バトルは幕を開けたのだった――という話。
お互いを殺そうと画策する行動が相手の計画を知らず知らずのウチに回避してしまうアホ夫婦の姿はアホ過ぎてよい。オチでもまったく懲りてないのがナイス。このような作品が絶版というのは残念ですわね。
1930年、イギリス。とある田舎の伯爵家の屋敷にて、今後のヨーロッパ情勢に少なからぬ影響を与えるであろう、とある大公国との会談が行われようとしていた。だが折衝が難航するうちに、とある雷雨の晩、大公国側の使者が殺される。屋敷に滞在している客たちのうちに犯人はいるはずなのだが……という話。 1975年作品だそうだが、果てしなく初期クリスティ作品っぽい。チムニーズ荘の秘密とかを思い出さずにはいられない。ミステリとしても黄金期っぽく、何分から何分のあいだに誰がどこかの部屋にいたとか死体を担いで動かしてみるとか、実に本格もの的な理詰めの推理がすすめられていく。細かいところまでよく詰められている。まあ、全体的にちまちまっとしている感がないでもないが。メインの死体移動トリックは面白かった。というか笑った。死体を粗末に扱ったらいかんなあ。
科学の代わりに魔法が発達したもう一つの地球。第二次世界大戦において、サラセン軍との戦いに出兵していた米国情報局員マチュチェック大尉は、敵勢力の擁する魔神を無力化するという任務を命じられた。相棒は赤毛の魔女グレイロック大尉ただ一人。任務に失敗すれば敗北は濃厚、連合軍の運命を背負って二人は箒に乗って出撃するのだった……という話。なのだがもともとは四つの短編だったのを長編としてくっつけたらしく、冒頭の話だけで二人は軍を除隊、残り三話は魔法が現代文明に密接に関わりを持つ世界における二人の生活と冒険が描かれる。こういうことを言うのは本末転倒とわかってはいるが、しかし科学の代わりに魔法が発達した世界ってのは「のび太の魔界大冒険」以来、さして目新しくないからなあ。できれば徹底的に戦争もので行ってほしかったのでやや残念。重爆撃機の推進力は箒六本、とかイスラム方面はイスラム方面の魔法で戦う、とかいうのは面白かっただけに。
他恒星探索のため、レオノーラ・クリスティーネ号は50人の男女を乗せ、乙女座ベータ・スリーに向かっていた。ところが途中で小星雲と激突、ブレーキが壊れて止まれなくなりました。亜光速で跳び続ける彼らに明日はあるのでしょうか? という話。結構面白かった。
おわりの〜ない〜かなしみ〜から〜どォ〜こォ〜かァへ〜♪ といいフレーズを思い出してしまうシチュエーションであり、実際乗組員達は二度と大地に降り立つことはできないという絶望に打ちのめされたり打ちのめされなかったりしながら宇宙をぶっ飛んでいくのである。主人公のレイモントはヘイガーとブルーとイクミを足して2で割ったような奴だった。でもさすがにファイナさんみたいにイカした人はいませんでした。あと巻末のラムジェットエンジンと宇宙モデルに関する説明がやたらと面白かった。つまりラムジェットエンジンとは、翼でエーテルを切って冥王星から歩いてくるクトゥルーの怪物のようなモノですか?
かなり違うと思う。
探偵ヴェリティ氏は、男がホテルの二階の窓から隣の窓へ侵入するという奇妙な光景を目撃した。ホテルの支配人に一言申し上げようとしたところ、当の不審人物が「部屋で人が殺されている!」と転がり出てきた。しかし部屋に行ってみると、ドアは内側から鍵がかけられ、窓も鍵がかかっており、完全な密室が形成されていた――という話。
密室もの。オチがすごかった。いうなれば「しっぱいしっぱい。テヘ☆V!」という感じ。しかしアホなオチにもかかわらず筋が完全に通ってしまっているからすごい。なるほどバカミス100で紹介されるだけある、と思った。かのE・C・ベントリーの息子が挿絵を書いているというのもちょっと面白い。なかなか……ユニークだ。そう、ユニーク。