コリン・ベイトマン

Colin Bateman

ジャックと離婚(創元コンテンポラリ)

評価:★★

 北アイルランドの新聞コラムニスト、ダン・スターキーは酔った勢いで女子大生とキスしているところを妻に見つかり、家を追い出された。なし崩し的に女子大生と不倫関係に陥るのだが、数日後再びアパートを訪ねたとき、彼女は銃撃を受け死に瀕していた。息を引き取る寸前に遺したのは、「ディヴォース・ジャック」(ジャックと離婚)という謎のダイイングメッセージ。気がつけば妻は誘拐されているスターキー自身もギャングに命を狙われる、という事態に陥っていたのだが、当のスターキー自身には何故自分が狙われるのか理由がわからない。とりあえずジャックとは何者か、スターキーは身を潜めつつ調査を開始するのだが……という話。
 主人公スターキーは明らかに典型的なアイルランド気質だ。Mrクインとかデヴリン・トレーシーとかリーアム・デヴリンみたいに。すなわち饒舌で常にジョークを飛ばしており、それがこのお話のトーンを決定している。結構面白い。あとアイルランド紛争の様子がコミカルながらもリアルに描かれているのもいい。とあるボードビリアンが対立する二つのテロ組織のメンバーを客にテロネタで漫談するシーンは笑いを通り越して感動した。イヤ過ぎです。既に次作の翻訳が予定されているらしいが、多分買うだろう。個人的にアイルランド文学は要注目であるな。よく考えれば、ドラゴンファンタジーシリーズのJ・H・ブレナンもアイルランド人なのよね。道理でなじむわけだ。
 創元がいつのまにか新レーベルを出している。早川の新レーベルに対応するような位置付けなんだろうか。どういう方向性の本を出すのかまったく見当がつかないのでこっそり見守っていきたい。とりあえず「ジャックと離婚」は創元推理文庫で出ても創元ノヴェルで出てもおかしくない内容である。独自色を出せるのかしら。

バリントン・J・ベイリー

Barrington J. Bayley

カエアンの聖衣(早川文庫SF)

評価:★★

 服飾文化の発展したカエアン製の衣装は高額で闇取引されていた。その高価な衣装を積んだ宇宙船がとある惑星に難破した。情報をつかんだ密輸貿易業者一団が回収に向かった。ところがその中には凄まじい能力を秘めた衣装が混じっていた。その服を着てしまった密輸業者ペテルは運命に翻弄される羽目になる……という話。
 ある意味ソラリス的ファーストコンタクトものかなあ? ファーストコンタクトに至る間での経緯が紆余曲折ありすぎるというだけで。意思を持つ服、というアイデアからこんなオチに持っていくとはアホすぎる。時間衝突の時間が衝突するというアイデアといいよくアホなこと思いつくなこの人。

時間衝突(創元SF文庫)

評価:☆☆

 時間が衝突する話。いやマジで。こんなばかなアイデアを思いついた時点で大勝利だよなあ。複数の絶対時間が存在するという時間波理論は、納得しうる。人に説明してみせろといわれるとかなり困るが、わからないことはない。久々にいかにもSFだぜ〜という感じのSF小説を読んだような気がする。猫のゆりかごは「猫のゆりかごにはネコもいねえしゆりかごもねえ」という話であるし、レッド・マーズはリアルな描写ゆえSではあってもFであるような気があまりしない。まあ、オレって時間テーマの話が好きらしいし。アヌビスの門とかアヌビスの門とかアヌビスの門とか。
 あと中国人コロニーの人々が胡乱でよかった。針記憶法とか謎の殺人拳法とか5分遅れの刑とか。

ロボットの魂(THE SOUL OF THE ROBOT 創元SF文庫)

評価:☆☆

 老ロボット師夫妻の手により一体のロボットが作成された。そのロボットの名はジャスペロダス。彼には自意識というものがあった――起動した途端親も同然のロボット師夫妻を捨てて家を飛び出し、自分探しの旅に出る。盗賊団に入って掠奪に勤しんでみたり王宮に拾われて小間使いをやってみたり能力を見込まれて将軍として士官してみたりクーデターを起こして王国の支配者になってみたり。成り上がり街道をまっしぐらに突き進む間にも、彼の心を捉えて離さない謎があった――自分の心とは一体何なのか? ロボットに魂はあるのだろうか? その答えを求めてジャスペロダスは冒険を続ける……という話。
 面白かった。ベイリー作品はコンセプトがはっきりしているので非常に個性的ですね。バークリーみたい。ロボットに魂はあるのかというメインテーマはもちろん、文明が滅んだ後、中世的な政治形態とロボット工学技術が併存し混沌としきった破天荒な世界観も魅力的だ。冒険小説としても十分楽しい。まあオチ、ジャスペロダスの魂の正体についてはどうかと思ったけど。そんなんありかい。話が十分面白かったからどうでもいいといえばいいのだが。で、続編はやっぱり絶版なんですね? がっかり。

アルフレッド・ベスター

Alfred Bester

虎よ、虎よ!(早川文庫SF)

評価:★★

 要約すると「タイガー♪ タイガー♪ サイコソルジャア〜♪ という話。時は25世紀、ジョウントと呼ばれるテレポーテーション能力が一般的に認知されている時代。ガリー・フォイルは宇宙船事故で5ヶ月ほど宇宙漂流を続けていた。とそこへたまたま宇宙船ヴォーガ号が通りかかる。助けてくれ〜! と救難信号を発してみたものの、ヴォーガ号はガリーを放置したまま宇宙の闇に消えてしまった。畜生ゆるさねえコンチクショウ! とガリーは復讐を決意、その後なんとか生き延びて、ヴォーガ号の船長を捜し求める旅に出るのでありました、というのが導入。だがこの「宇宙漂流刑」の背後にはいろんな陰謀が隠されていて話はゴロゴロと転がっていく。宇宙票流刑のあとだけあってガリーはむしろ半狂人という感じの主人公であって、加速装置を口の中に仕込んでやりたい放題好き放題。サイボーグ009の加速装置ってこれが元ネタなのか?
 ややアイデア詰め込みすぎの感もある。それはそれ、1956年の作品だからしかたないのか? 現代であればこんだけネタがあったら3分冊にしてもまだ足りないだろう、という気がする。かつてOKI先輩はこの作品を「最初は冒険小説だが、最後は冒険的小説になる」と評していたが、全くまってその通り、だった。ベスターは文章の視覚的な部分で仕掛けてくる、というのは「分解された男」で知っていたが、こっちはもっとものすごい。



たわけ
たわけたわ
たわけたわけた
たわけたわけたわけ
たわけたわけたわけたわ
たわけたわけたわけ
たわけたわけた
たわけたわ
たわけ


 という調子。すごかったッス。でも個人的には「分解された男」の方が面白かったかな?

ブリス・ペルマン

Brice Pelman

穢れなき殺人者(創元推理文庫)

評価:★★

 マリエクとパトリックは今年11歳の双子の姉弟。ある日目覚めると、寝室でママンが死んでいた。数年前にパパも死んでおり、ママンの死が明らかになれば、二人は寄宿学校にいれられてしまうだろう。それだけはいやだ、と二人は母の死を隠し通すことにした。一方、いつまでたっても事件の報道がなされないことに、当の殺人者はしびれを切らし始め……という話。
 子どもの理論によってなされた事件の隠蔽が周りの大人をひっかきまわしさらなる悲劇を招く、という話。オチが弱いような気もするが、中盤にかけての展開が面白すぎた。特に双子がおばさんを殺すシーンは怖すぎる。奇妙な味の中篇でした。

ジョージ・P・ペレケーノス

George P. Pelecanos

俺たちの日(早川文庫HM)

評価:☆

 地味な話だった。いやまあ、主人公のピートがかっこわるかったとは言わない。むしろ格好良かった、と断言しても差し支えないだろう。だが話が、店のみかじめ料を払うの払わないの、ということに終始するため、なんかスケールが小さくてしょうがない。そんな舞台で「今日は俺たちの日だ!」とかいわれてもなあ。現実なんてこんなもの、という感じではあるが、もう少し夢を見させてくれてもいいんじゃないでしょうか。地味。

ピエール・ペロー

Pierre Pelot

ジェヴォーダンの獣(ヴィレッジブックス)

評価:☆☆

 時は18世紀、ルイ15世の治世の時代。ジェヴォーダン地方において「獣(ベート」と呼ばれる謎の怪物がたびたび女子供を食い殺していた。フランス国王が討伐隊を送り込んだものの成果は上がらない。そこで白羽の矢が立ったのが、博物学者フロンサックである。王命によりフロンサックはジェヴォーダンへ赴く。調査を重ねるにつれ、フロンサックは「獣」が狼ではなく未知の怪物であることを確信していくのだが……という話。
 ジェヴォーダンの獣というのは、実話らしい。それを元ネタにこんな話を作ってみました、という感じ。簡潔に述べるなら、「ホームズ、バリツでバスカヴィルの犬と直接対決する」というところか。学究として真実を見極めようとするフロンサックの調査は往々にして他者の思惑によって妨害され、あるいは王命との二律背反で悩み、そして獣の正体はなかなか知れず、と普通に面白い。本当の敵は人間なのだ。単なるノヴェライズと思っていたが、なかなか悪くないですよ? 終盤がややあっさり目という気はするが。

オットー・ペンズラー(編)

Otto Penzler

殺さずにはいられない1(早川文庫HM)

評価:★★

 短編集。テーマは「強迫観念による犯罪」。テーマを絞った短編集は数あれど、そのような珍妙なテーマは聞いた事が無くこいつはやられたワイと思ったので購入。何点かは単なる「奇妙な動機による犯罪」的なものだったが、愉快なものもあったのでまあ満足。ベストを挙げるならアマンダ・クロス「二銃身の銃」。2の購入も検討しよう。

レイモンド・ベンスン

Raymond Benson

赤い刺青の男(ハヤカワミステリ)

評価:☆☆

 G8サミットを控えた日本で、製薬会社の経営者家族がことごとく西ナイル熱のような症状で死ぬという事件が発生した。新手のバイオテロか、と事態を重く見た公安調査局はG8各国情報局へ協力しての事件調査を依頼、イギリスからはジェイムス・ボンドが派遣される。「007は二度死ぬ」で旧知のタイガー田中と協力し謎を追うボンドの前に立ちふさがったのは、竜神会と呼ばれるジャパニーズマフィア組織と「闇将軍」と呼ばれる右翼の大物だった……という話。
 三島由紀夫を信奉する闇将軍とか河童と呼ばれる殺し屋とか、登場人物一覧だけを見ると日本を誤解しまくったバカ話じゃろか、と思えるのだが、実際に読んでみると日本の風俗が意外にきっちりと細かく正確に描写されているのでびっくりした。訳者後書きによると些細な間違いがなんぼかあるらしいが、ほとんど気にならない。鎌倉大仏が仏陀像だろうが阿弥陀如来像だろうがどっちでもいいじゃねえか。外国人から見た日本文化ってのはこんな風に映るものなのかと感心させられるところが結構あった。例えば、最終決戦で闇将軍が侍の格好でボンドの前に出てくるシーン。「吉田は和服姿で、竜の家紋がついた”羽織”と呼ばれるハーフコートと、キュロット風の”袴”を着物の上に着けている」とある。こんな描写、日本人には絶対不可能だ。それだけに竜神会とかいう30年前のヤクザ漫画みたいなセンスはショッキングである。いや、日本には本当に闇将軍みたいな奴がいるのかもな。