己の怠慢から相棒を死なせ、職を失った元刑事ミッチ・トビンのもとに、シンジケートのニューヨーク支局長の使いがやってきた。支局長の情婦が多額の現金を持ち逃げしたが何者かに殺された事件の捜査の依頼にやってきたのだという。過去から立ち直るべく、ミッチは捜査を引きうける。という話。
ウェストレイクが別名義で書いている、日本では実質幻の作品であるミッチ・トビンシリーズを古本で発見できたのは僥倖以外の何者でもない。アバッキオ@ジョジョみたいな感じで警察を追われた主人公が、誇りを取り戻すためにまずは一歩を踏み出す、という話である。聞きこみ、アリバイを調べ、新たな証拠から新たな事実を引き出し……と話自体はすご〜く地味なのだが、地味に面白い。ウェストレイクってやはり話の骨がしっかりしているよな、と思った。
ミッチ・トビンシリーズは全五冊であり続きが読みたいとは思ったものの、次にタッカー・コウ作品に出会えるのはいつだろう。一応ハヤカワ文庫HMの作家別番号の26番だか27番だか28番だかはタッカー・コウ名義作品の為に取り置かれているという話だが、今更文庫化なんて奇跡でも起きない限りありえないだろう。
トビンのもとにいとこの娘ロビンがやってきたのは数日前のことだった。恋人と喫茶店を開いたところ、とある刑事がしょっちゅうやってきてはいやがらせをするようになった。しかしミカジメ料を頂こうとする風でもなく、とにかく不気味なのでどうにか手を打ってほしい、という願いに元刑事のトビンは腰を上げる。しかし約束の日トビンを待っていたのは、血まみれのナイフを持ったロビンと、男女二人の他殺死体だった……という話。
今度は密室殺人。いろんなバリエーションで攻めてくるなあ。地味な話ではあるが質は間違いなく高く、ウェストレイクの技量のほどが伺える。この二十一世紀にあってタッカー・コウ名義の作品を三冊まで読めたのは僥倖だ。残りの二冊はいつ読めるんだろう。
ミッドウェイと呼ばれる施設は、精神病院からは出たものの急に社会生活を送ることは難しい人々のための一時的な安らぎの場所だった。が、この施設の中で奇妙な事件が起こり始める。ある者は食事中、急にテーブルの脚が潰れてやけどを負った。ある者はテニス見物の最中テラスがくずれて大けがをした。やがてのこぎりにより細工の痕がみつかり、一連の事故が人為的に起こされたものだという事実が発覚する。しかし無神経な警察の捜査を呼び込むことは施設の住人達にとって良いことではない、と医師キャメロンは極秘裏のうちに元刑事ミッチ・トビンに捜査を依頼した。トビンは新来の施設の住人として潜り込み捜査を開始するが、それにもかかわらずいたずらはついに死人を出した……という話。
地味なお話ではあるが確実に面白い。ただひたすらにイタズラを繰り返す謎の人物が施設のどこかに潜んでいるという不気味さがひたすらにページを繰らせる。そして犯人に自白させるシーンも印象的。ウェストレイクは芸風広いよなー、と改めて思った。あと裏表紙に載っている原書の表紙がものすごく不気味だ。こんな表紙の本は買いたくない。
高校生小野寺剛士はいわゆるいじめられっ子。しかしいじめっ子にはそれ相応の手段をもって復讐するという魔太郎風味な少年だった。そんな彼が唐突に異世界に召喚された。そこは人族と魔族が争う剣と魔法の世界。魔族側には、現実世界から召喚された者を新たなる魔王として魔王軍のヘッドにたてるというしきたりがあり、かくして小野寺君は魔王として一国を預かる身になりましたとさ。とはいえ彼は平凡な高校生であり大ピンチ、という話。
おもしろ〜い。設定に別段目新しいものはないが、少年の成長物語として押さえているところを押さえておりキャラクターも立っており非常にさくさく読める。筆者の語りがややウザイところもあるが許容範囲だろう。主人公も良いが、田中魔王がかっこ良すぎる。地獄戦士魔王みたいな名前の癖に、しかもガンオタなのに、おまけにロリコンだというのになんでこの御仁はこんなにかっこいいんですかい。マチャ彦なみに感涙できる。続きを読まねば……
魔王軍総帥小野寺剛士は第二次セントール会戦をなんとか引き分けに持ち込むことに成功した。しかし軍は疲弊しきり、このままでは魔王領はなし崩しに崩壊する恐れがあった。しかし相手国ランバルトも事情は同様。双方大規模な軍事行動を起こしたくとも起こせず、かわりに寝技でのやりあいが始まるのでしたという話。
さほど話が動かないなあと思ったら、内容的に次巻と合わせて上下巻、な感じらしい。伏線張って次回に引いて、なので次巻を読まねば。
田中魔王さんは今回もステキだった。ロリメイドを使役してエロ同人作成か。夢のようだな。
季節は冬に向かっていた。雪の降るブラントラントでは自然と休戦期となる。だが春になればランバルトは兵力を回復、魔王軍を遥かに上回る軍勢で攻めてくることだろう。そうなれば敗戦は必至。ならば今の内に手を打たねば、と小野寺剛士はカルネアデス作戦と名付けた軍事行動を開始する。敵の補給線を撹乱しまくりあわよくば前線の砦を落とし、ランバルトの軍事活動の再開を極力遅らせることを眼目としたものだったが、敵もさるもの、魔王軍の手を読んで着実に反攻をしかけるのだった……という話。
またしても地味。だが、華々しい正面からのぶつかり合いによる戦争の影では、このような小さな、しかし重要な競り合いが行われているのだ、ということを書くのは必要不可欠であろう。安定しておもろいなあ。特徴的な語りにもなれてきた。実は吉里吉里人みたいに、語り手って実はブラントラント土着の霊とかだったりして。やっと第一部が終了だそうで、本格的な話は次巻から始まるそうな。続きが楽しみなシリーズだ。
田中魔王は同人誌作成にとうとうランバルト国王まで巻き込んだ。田中魔王様ステキすぎです。
人間と魔族の戦争は一休みで、剛士君は夢を見つづける話。単なるファンタジー仮想戦記にはしねえぞ、という意気込みはわかるが、微妙な内容である。続刊待ち。
う〜ん。作者の主張があまりにも前に出てくるのは良くないぞ。ただでさえ地の文が作者語り風味だというのに。
あと菊池光の訳文は個人的にはあまり好かぬ。カレンダァとか訳されましても。
ブラントラントと魔王領とが戦争のおとしどころを探し始めたが、さてどうなるか。朧野ほのかの存在が今後の大コケの原因になりそうな気がしないでもない。でも単純に終戦してめでたしめでたし、というわけにはいかないだろうし。今後を待とう。つうかこの調子では、「人と魔族はエロ同人誌とやおい同人誌で分かり合える」という超絶イヤ結論が待っていそうな気が……
発端は、富豪の妻が不倫相手の青年に、自分の夫を殺して財産を手に入れよう、と持ちかけたことだった。ところが二人の関係を知った夫は、妻に「実は自分の事業が破綻しそうだ。だから、私自身を偽装で殺して保険金を手に入れよう。あの青年が私を殺したことにすればいい」と持ちかけてきた。巨万の富と命を賭けた三つ巴のコンゲームがホノルルを舞台に繰り広げられようとしていた……という話。
話が短い上に、語り手が激しく話を脱輪させまくるのではあるが、事態は二転三転の様相を見せてくる。誰が誰を裏切ろうとしているのか、息もつかせぬ転がり具合であり、結構面白かった。オチが弱いかなあとは思うが、ちゃんとまとまっている。
タイトルがヤケクソ気味なのが惜しい。現代はJUST PLAY DEADでありたしかに和訳すれば「死んだふり」だが、もう少しいい題をつけてやれよ。最低でも映画邦題のようにそのままカタカナにするとか。極大射程といい魔弾といい、新潮の海外文庫は全般的に邦題が適当、というイメージがある。どっかできいたことがあるような「天空の劫罰」とか。
トニー・シェリダンは妻を事故で亡くした。傷心の彼を、妻の妹夫妻は不憫に思い、新居に招くことにした。新居アザウェイズには血塗られた歴史があった。大戦と大戦の合間の時代に、当時住んでいた夫婦の夫が妻を撃ち殺したのだという。その逸話は、やがてトニーの生活にこっそりと忍びこんできた。死者が何かを語りかけてくる夢を見るようになったのだ。好奇心にかられ、トニーは過去の事件を調べ始めるのだが、調査を進めていくうちに、やがて妻の死の原因を疑わせる奇妙な事実に突き当たった――という話。
ゴダードには珍しく、どっちかというとホラーというかサスペンスというか怪談というか、そういう話だ。過去の事件が現在を生きる者に影を落とす、というゴダードお得意のスタイルであり相変わらず読ませるのは間違いないのだが、過去の事件の真実は明らかになるのに、現代の事件の方ははっきりとした決着がつかないというのが少々不完全燃焼風味。ゴダード的には失敗作か?
仕事でウィーンを訪れたカメラマンのイアンは、当地でマリアン・エスガードと名乗る女性と恋に落ちた。逢瀬を重ねた後、イアンは妻と娘と別れ、新たなる人生をやり直すことを決意する。ラコックという街で再会することを約束し、イアンはウィーンを立った。妻子に別れを告げ、イアンはラコックへ向かったが、果たしてマリアンは姿を現さなかった。イアンはマリアンの足取りを追うため英国を駆け巡るのだが――という話。
ゴダードの作品には、下敷きとなる事件のスケールがでかすぎると失敗作になる(「鉄の絆」の埋蔵金とか「閉じられた環」のオーストリア皇太子暗殺にまつわる陰謀とか)という傾向が見られる。今作の「近代写真史を変えていたかもしれない女性」という下敷きは「これはヤバいか?」と思わせるようなものだったが、まあ落ち着くところにまとまったような感じだった。一人の人間をはめるのにこんな大掛かりなまねをすることはないと思うが。なんにせよ、相変わらずリーダビリティが高いのでサクサク読める。
時は1721年、南海泡沫事件でロンドン中が揺れていた頃の話。地図製作技術者スパンドレルは債務不履行のため獄外拘禁区域に閉じ込められていた。そんな折り、債権者シオドア・ジャンセンから密使の役目を務めるよう命令される。債務者としては否も応もなく、先方に渡す荷物を預かってスパンドレルはオランダへ向かう。実は渡された荷物というのは、南海会社設立にあたりやり取りされた賄賂類の流れ全てが記録された帳簿、通称グリーン・ブックだった。スパンドレルが荷物を渡すべき相手は殺され、グリーン・ブックは秘書の手に奪われる。秘書がグリーン・ブック売却先として選んだのは、ジャコバイトの反乱後ローマに潜伏する王位僭称者ジェイムズ・エドワードだった。グリーン・ブックの露見を恐れるイギリス政府、南海事件を調査する秘密委員会との三つ巴の暗闘が開始され、スパンドレルは否応なく巻きこまれるのだった……という話。
相変わらずのゴダード作品でサクサク読め、面白かった。ゴダード作品としては普通クラスか。二部構成になっていてあんまりまとまりがないような気はするが、他のフーダニット的作品と違って冒険小説的な作りだからまあこんなもんか、というところ。ゴダード作品につきものの「過去の事件」というものがないので結構あっさり目。
姪の結婚披露宴に出席していたクリス・ネイピアは、その席上闖入者に出くわした。闖入者はニッキー・ランヨン、遠い昔に別れたきりの親友だった。三十四年前、ニッキーの父マイケルがクリスの大叔父ジョシュアを殺したという事件があり、ランヨン家は町を出て行かざるを得なかったのだ。が、久しぶりに再会した親友は執拗に父の無実を訴え、そしてその翌日に自殺した。罪悪感にかられたクリスは、ニッキーの歩いた足取りを追い、過去の事件を探る旅に出る。彼を待っていたのは、過去の殺人事件の真実を暴き出す恐るべき秘密だった……という話。
再読。五百ページの大作ながら、猛烈にのめり込んであっという間に読めてしまうのがすごいですね。ゴダードの最高傑作の一つであることは間違いない。過去の事件の真実を暴き立てることが、現在を生きる人間達に大きな影響を与えていくという芋ヅル的な構造は、「過去の罪は長く尾を引く」という真実を訴えかけるものである。よくできてるなあ。
「鉄の絆」のあとがきに近刊予定と書かれて早2年くらいしての新刊。あらすじはというと、新聞を読んでいたら、先日山道で偶然出会った中年の婦人の名前が二重殺人の犠牲者として載っていた。ただひとたびの出会いの時、婦人の目になにか秘められたものを感じていた主人公は、自分でも動機の分からぬまま事件の渦中に踏み込んでいく、というもの。
感想。ゴダードは健在である。面白すぎた。なんでこう、地味な発端から筋立てが四転五転する息もつかせぬ話を書きますかね!? 読み始めてからこの三日間というもの、あきらかにこれを読んでいる通勤電車が1日の中心だった。特に今朝は、最後のクライマックスの最中に灘に着いてしまい、「結末を読むのに帰りまで待たなあかんのか〜!」とかなり悶絶した。ゴダードは安定して面白い。話の展開がうまいので最後まで本を置くことができない。比較的落ちる「鉄の絆」「閉じられた輪」でさえ例外ではない。こんな面白い話を書ける人がこの世にいていいのだろうか。欠点は、話があまりに面白すぎ、話を追うのに夢中になるので、読者が細かい点を忘ること。いやオレだけか? 結局パーフェクトストレンジャーって誰だったのよ? 結構重要な謎だったはずなのだが。しかしそんなことどうでもいいと思えるほどに面白かったので承認。一刻も早く「一瞬の光の中で」が文庫落ちするのを望みたい。さすがに通勤電車でハードカバーを読むのは勘弁願いたい。
「蒼穹の彼方へ」から六年後、ガソリンスタンドに勤めているハリーの元に、一本の電話がかかってきた。「あなたの息子さんは今、病院にいる」。病院で待っていたのは昏睡し続ける息子と、三十年ほど前に情交を何度となくかわした女性だった。突然現れた息子という存在にハリーは驚き戸惑うが、やがて息子を救うべく行動を開始する。まったく為すことのできなかった父としての務めを果たすために。やがてハリーの前にとある企業の陰謀が形となって現れ始めたのだが……という話。
どっちかというと、「ゴダードにしては失敗作」の部類だろう。話の核に置かれるテーマが荒唐無稽だったりスケールがでかすぎると失敗作になる、とはゴダード作品の傾向だが(「鉄の絆」の埋蔵金とか「閉じられた輪」の第一次世界大戦秘史とか)、今作のテーマはなんと「四次元」です。しかしそれでも最後まで一気に読ませてしまうのがゴダード作品のすごいところ。展開が早いのがいいんだろうか。突然現れた息子の顛末も面白かったし、まあ、最後にはハリーも幸せをつかめてよかったね、という感じだ。「蒼穹の彼方へ」でハリーに萌え萌えになったならば、是非読むべきだろう。
これでゴダードの邦訳作品は全部読んだことになる。次の新作が待ち遠しい。このミスによると次は講談社から出るという話だが。