エラリィ・クイーン

Ellery Queen

第八の日(早川文庫HM)

評価:★★

 著者名も出てくる探偵もエラリィ・クイーンではあるが、著者は実は別人で、エイブラム・デヴィッドスンというSF/ミステリ作家が書いたとのこと。クイーンの後期の作品にはこのような形式で書かれている者が多い。確かシオドア・スタージョンも書いていたような書いてなかったような。
 で、内容というと、エラリィがアメリカのど真ん中の砂漠で遭難していると外界から隔絶された集落に出くわし、「あなたこそ我々が待っていた人ですエルロイ・クイーナンさん!」と歓待を受ける話。宗教色のかなり強烈な話でありこれはどう強弁してもクイーンの書いた作品とはいえまい。聖書にさほど通暁しているわけでもないので、作中で扱われるモチーフをすべてに至るまでは理解できなかったが。登場人物の一人「ストリカイ」が「イスカリオテ」のアナグラムだとか、「銀貨30枚」だとかいうのがほんのり理解できる程度。キリスト教圏の人間でないとわかりにくい。
 結論としては、推理小説というよりはチェスタトン風味の幻想小説だった。あるいはカーの短編「取り違えた問題」風味。妙な味わいがある。

トマス・H・クック

Thomas H. Cook

神の街の殺人(文春文庫)

評価:★

 ソルトレークで起きる連続殺人。黒人娼婦を皮切りに、モルモン教会幹部が次々と殺されていく。教会に何らかの恨みを持つ狂人の仕業に違いないのだが、しかしなぜ最初に教会とは縁もゆかりもない黒人娼婦を襲ったのか? ニューヨークから流れ着いた刑事、トムはソルトレーク市民のモルモン根性に悩まされながら一人捜査を続けていく、という話。
 クックの初期の作品だそうで、普通作である。つまらないわけではないが、後年の記憶シリーズに比べると見劣りする。仕方のない事だが。話の要所に挿入される犯人の告白はやたら面白かった。殺人者は連続殺人を神から授かった仕事だと信じきっており、殺人現場を見られたが故、目撃者の殺害をせざるを得なかったことについて「任務を疑わせようとする神の試練に違いない。神もなかなか味な事をするものだ」とコメントしている。狂信者の鑑だね。

心の砕ける音(文春文庫)

評価:★★

 1937年、メイン州ポート・アルマでビリー・チェイスという男が殺された。最有力の容疑者は、事件直後に姿を消した、ビリーの恋人。ビリーの兄キャルは失われた真実を求めて消えた女性、ドーラの足跡を追うのでありました。という話。
 クックの他作と比べると、今一つ。真相があまりたいした事がない、というのが減点。緋色の記憶とか死の記憶のひどすぎる真相を期待していたのだが、ちょっと拍子抜け。だが相変わらずリーダビリティは高いので、さくさく面白く読める。たとえるならば、ゴダードの失敗作並に面白い、というところ。

ジョン・クリストファー

John Christopher

トリポッド1 襲来(WHEN THE TRIPOD CAME 早川文庫SF)

評価:☆☆

 ある日イギリスに全長20メートルの三本足の機械がやってきた。軍があっというまに謎の機械を破壊してしまったものの、これは異星からの来客者達の侵略の第一歩に過ぎなかった。彼らはあの手この手で地球人の洗脳を進め、地球を支配下に置いていった……という話。
 昔懐かしの侵略SF、というか70年代スーパーロボットに出てくる悪の宇宙人の地球侵略作戦の話みたい。地球人にキャップを被せて洗脳するなんてシンプルだなあ。でも面白い。なんでも欧米の定番の児童書らしく、非常にわかりやすい話なのだが、でもはじめは近所の人間が、やがては国の人間から世界中に至るまで、徐々に宇宙人の侵略が進んでいくという不気味さはまったくもって気持ちが悪い。ロボットアニメならば正義のロボットが登場する頃合いであるが、そんなものを持たない地球人達はいかにして反撃に出るのか? 続刊が楽しみだ。欧米の子供達は子供の頃にこのようなSFを読んでいるのか? これが彼我の裾野の広さの違いなのかね。お子様を取り込むために、日本でもお子様向けSFを出すべきだな。既になんかあるじゃろか?

トリポッド2 脱出(THE WHITE MOUNTAINSE 早川文庫SF)

評価:☆☆

 トリポッドが地球を侵略して百年、地球人類の文明は滅び、生活様式は中世にまで逆行してしまっていた。かつてイギリスと呼ばれていた国の片隅に住む主人公、ウィルは戴帽式を間近に控えていた。十四歳の誕生日を迎えた暁には、トリポッドの支配を受けるため帽子を被ることがしきたりとされているのである。が、ある日ウィルは帽子の支配を受けないはぐれ者、オジマンディアスに出会う。彼の話によると、遠い海の向こうの白い山脈には、トリポッドの支配を受けない自由な人々がいるのだという。自由を求めてウィルは旅に出る……という話。  1巻はあくまで導入部であり、ここから本編開始である。おもしろいなあ。少年達は何度も危難に出会い、そのたびにもうとりぽと絶望するが、知恵と勇気でなんとか切り抜けていく。ジュブナイルの王道的展開であり、かつポストホロコーストものとして滅んだ文明の痕跡に出くわして子供達が戸惑うところなどもよくできている。さっさと3巻4巻も出して頂きたい。続き読ませろ。

ジョージ・ドーズ・グリーン

George Dawes Green

ケイヴマン(早川文庫NV)

評価:☆☆

 クライスラービルに陣取る悪の首領がいる。その男スタイヴェサントはビルから世界に向けて芸術家の才能を破壊するY光線を発射し、影からこっそりと芸術そのものをダメにしようとしている。真実を知るのはただ自分のみ。オレは真実を世界に知らしめるため戦わねばならないのだ!
 ……という妄想にとりつかれているホームレスのロミュルスさんの住んでいる洞窟の前にある朝死体が転がっていた。警察はそれを凍死と断定したが、ロミュルスはそこにスタイヴェサントの関与をかぎ取った。スタイヴェサントを破滅させるべく、ロミュルスはニューヨーク中を駆け回り再調査を行うのだった、という話。
 猛烈にイロモノっぽいのではあるが、探偵が不必要なまでにエキセントリックなだけであって内容は普通に探偵物語である。文章も筋立てもすっきりしていて読みやすい。電波探偵という新地平を切り開く作品としては、悪くはないのではなかろうか。後続がいるのか、謎だが。

ジャン・クリストフ・グランジェ

Jean-Christophe Grang

クリムゾン・リバー(創元推理文庫)

評価:★

 フランスはゲルノンという山間の大学街周辺で、岸壁に埋め込まれた死体が発見された。死体は眼球が抉り取られ、眼窩には氷が埋め込まれていた。その後立て続けにやはり眼球をえぐられた他殺体が発見され、事態は連続殺人の様相を帯びていった。一方その頃、ロット県サルザックでは墓荒らしがあった。調査したところ、埋葬されていた少年の生前の記録をすべて廃棄してまわっている修道女の存在が浮かび上がってきた。というまるで無関係な二つの犯罪が捜査の結果一つに結びつくという話。
 このミス14位。発売当初は、ジャン・レノの顔が出ている表紙に「映画のノヴェライズか」とまったく無視していたのだが、実は原作がかなり売れたので映画化の運びとなった、というのが本当のところらしく、なるほど面白かった。一見なんのつながりもないように見える二つの事件が一つの線となって結ばれる過程は読んでいて非常に面白い。真相は意外ではないが、悪夢的である。祖をたどるとメンゲレ博士@ブラジルからきた少年、なのだろうが。それぞれの事件を捜査する警官もキャラクターが立っていてよい。一人はドレッドヘアーのアラブ人、捜査のためなら平気で車を盗んで出かけるような御仁で、もう一人は巻頭でいきなりフーリガンを叩き殺す。フランスの警察官に対する偏見を思いきりかきたてられる二人組である。

エドマンド・クリスピン

Edmund Crispin

消えた玩具屋(ハヤカワミステリ)

評価:★

 夜中に鍵の開いていた玩具屋にふらりと入ってみたら女性の死体があった。詳しく調べようとしたら背後から頭を殴られて気絶。翌朝目覚めて警察に駆け込み、警官を連れて現場に戻ってきてみたら、何故か玩具屋はなくなっていた。という話。導入の不可解さは存分であるが、その説明はちょっとなあ。もうちょっと簡単な手を使うだろ。だがまあ馬鹿話であるのでつっこんではなるまい。ドタバタぶりはカーター・ディクスン「パンチとジュディ」風。古くさい。日本語訳も古くさい。なんで昔のポケミスって拗音促音を小文字にしないのよ。「肥つちよ」が実は「太っちょ」であると気づくのに10秒かかった。肥つちよ……。そのくせカタカナはちゃんと小さい文字にしてあるのでますます不思議。これが昭和30年代の常套的表記なのか?

ミシェル・クレスピ

Michel Crespy

首切り(早川文庫HM)

評価:☆☆

 失職中のもと営業コンサルタント、カースヴィルは就職活動の悪戦苦闘の末、とある人材紹介会社に辿り着いた。その会社で推薦状を得るためには、孤島での就職試験に合格しなければならない。カースヴィルは他の失職者の一団に加わり孤島へ向かった。メンバーを三チームに分かっての会社経営シミュレーションテストが開始されると、各メンバーはテスト上のみならず実際の生活においても他のメンバーを敵視し始めた。結局のところ参加者はライバルであり、職を得られるのはほんの一握りに過ぎないからだ。職を得たいという焦りはやがて狂気に至り、ついにある晩爆発した……という話。
 それなりに面白かった。あまり他人事に感じられない、ということもあるのだろうが。要は、主人公が職を得たいが故に殺人を犯すに至るまでの過程を描いた小説である。「斧」と似ているようでやや違う。アレは冒頭の時点で既に「就職したいから人を殺そう」と決心してしまっているしな。やはりウェストレイクは考えることが一味違うよなあ、と作品とはやや関係ないことを思った。

黒崎緑

Kurosaki Midori

しゃべくり探偵の四季(創元推理文庫)

評価:★★

 ツッコミ・ワトソンこと和戸くんとボケ・ホームズこと保住君コンビによる連作短編推理小説の第二弾である。叙述形式の限界に挑戦し、安楽椅子探偵の可能性を追及するという作者の意気込みどおり、短編はさまざまなスタイルで書かれている。前作からおなじみの和戸君保住君の漫談あり、告白型あり、一人称でさりげなく保住君がしゃしゃり出てくるものあり。前作の漫談スタイルが好きだったので、これが少ないのはやや残念。まあ全編会話だけで地の文なし、だったらそれはそれでうっとおしいか? ボケネタも少々苦し紛れのものが多いような気がするし。まあギャグも積もればギャングとなる、という田村義進の名言どおり、ダジャレってのは、一つ一つはくだらなくとも連発されるとだんだん愉快になってくるからね。まあ一番面白かったのは大学文化祭の「ギリシャ棺式占い」「オランダ靴式占い」だったが。二人ばおりで「シャム双子式占い」はネタ的に危険だと思った。

F・W・クロフツ

Freeman Wills Crofts

クロイドン発12時30分(創元推理文庫)

評価:☆☆

 不景気のさなか、工場主スウィンバーンは倒産の危機に瀕していた。唯一の望みは資産家の叔父クラウザーの支援を取り付けることだが、頑固な老人は金をくれそうにない。窮余の一策として思いついたのは、叔父を殺してその遺産を受け取ることだ。叔父が常に薬を服用していることに目をつけたスウィンバーンは、それを利用して青酸カリを飲ませるという犯行計画を立て、そして殺人に成功するのだが……という話。
 世界三大倒叙の一つ。マギル卿最後の旅を読んだ時は展開が地味で結構退屈だったのだが、これは非常に面白く読めた。犯人スウィンバーンの視点から物語は紡がれていき、読者は彼の感じる不安や動揺を追体験することになる。要所要所で顔を出しては舞台裏で暗躍するフレンチ警部の行動もサスペンスに興を添えている。話の展開やシチュエーションはごく常套的だが、十分に面白かった。これで三大倒叙を読破したわけだが、どれもそれぞれ面白かったですね。なんで黄金時代に倒叙が流行らなかったんだろ、とか思ってしまうのだが、なんでだろ。