ずいぶん前にやながわさんに借りた。アメリカで実際に起こった女性誘拐監禁事件のノンフィクションである。さらった女性を頭に拘束用の箱をかぶせてさらに箱の中に閉じこめて、7年もの間監禁したんですって。そして奴隷プレイ。監禁プレイなんてエロゲ内だけでの話だと思っていたが、実際にいるんだなあ。まあ日本でも新潟の事件とかあったけど。事件が明るみになったあとの、一般市民の事件に対する無理解ぶりが面白かった。そりゃまあ、普通は「そんな長期間のうち、逃げて警察に駆け込むチャンスが無かったはずはない」とか思うよな。豚小屋の扉を開けても中の豚は逃げ出さない、そんな状態を洗脳と呼ぶが、この作品では「被害者を恐怖で支配して逃れられないようにする」という加害者の調教方針の描写がしっかりしており納得できる。被害者の被った心の疵はとうてい想像しがたく、かような事件は決して起こってはならない、とワタクシはエロゲをやりながら思うのでありました。イヤボク調教ゲーあんまり好きじゃないし。
私立探偵アーチャーは富豪ウィチャリーの依頼を引き受けた。娘のフィービが失踪して以来三ヶ月、なんの音沙汰もないという。調査を進めていく内に、アーチャーはウィチャリー家に潜む重く暗い陰の部分を見せつけられるのだった――という話。
マクドナルドを読めばミラーを思い出し、ミラーを読めばマクドナルドを思い出す。夫婦だから作風が似るのか、作風が似ていたから夫婦になったのか。ハードボイルドの書き手とサスペンスの書き手、とジャンルこそ別れているが、この二人の作風はかなり似ていると思う。小さなコミュニティ内の感情的軋轢に焦点を当てて話を作るというのは共通点だよな。題材こそ地味だが決してつまらなくはない、というか読んでいて面白い。
探偵役のアーチャーが無個性ってのは、物語においてとても重要なことだってのがわかってきた。事件の当事者たちが苦悩し続けるのに対し、アーチャーは飽くまで傍観者の立場に徹し、事実を突きつける役目を負う。この辺の対比がマクドナルド作品の独特な雰囲気を形成してるのだなあと納得。
ブラックウェル大佐の依頼は、娘が連れてきた婚約者の身辺調査だった。その男、デイミスの目当ては明らかに娘の財産だが、証拠がないので証拠を掴んで欲しい、というのだ。アーチャーは捜査を開始する。デイミスの以前の行跡を探るうちに、過去の未解決の殺人事件が浮かび上がる。デイミスは殺人事件の被疑者としてお尋ね者の身だったのだが……と言う話。
相変わらず地味だが相変わらず安定して面白い。今まで読んだ作品と大きく異なるわけで無し、マンネリと言えないこともないがでも面白いなあ。安心して読める。
アレックスはショックのあまり呆然としていた。新婚旅行の初日に、妻が失踪したのである。見るに見かねて調査を開始した私立探偵リュウ・アーチャーは、ほどなくして妻ドリーの居場所を突きとめる。ドリーは精神的にすっかり参っていた。かつて母を殺される現場に居合わせたことがトラウマになっているのだという。
数日後、殺人事件が発生した。被害者はドリーの捜査の途中で出会った女性で、命を狙われていることをほのめかしていた。容疑者と目されたのはドリーだった。数日後アーチャーが様子を見に来ると、彼女は半狂乱の体で血まみれの両手を振りかざしていた……という話。
古典。なんとなくニコラス・ブレイクの作品を思い出した。話の眼目は殺人者とそれを取り巻く人々が過去に翻弄されるくだりであり、探偵の役割はあくまで傍観者もしくは立会人にすぎない、というところが似ている。アーチャーさん驚くほど個性発揮しないし。まあそこがいいんだが。オチも意外だったし地味ながら非常に面白かった。数組の親子が出てくるのだがことごとくがイヤ親子で頭抱えたくなったというか妙にリアリティがあったというか。やっぱり古典は読んでおかなきゃだめだね。「樽」にでもてをつけてみっか。
時は1942、3年頃の北大西洋戦線。英国は、東部戦線を支えるソ連に対し物資的な支援を行っていた。北極海を経由していくわけだが、そこにはUボートの見えない影、そして戦艦ティルピッツという脅威があった。ティルピッツとは独海軍の誇るそれはもうすごい戦艦であり、「ティルピッツが出撃してくるらしい」という噂を聞いただけで英海軍は護送船団をすらほっぽって逃げ出すという話。この脅威をくぐり抜けソ連に物資を届けるために、英海軍は囮船団を独海軍に差し出し、その隙に本命の船団をソ連に送り出す、という手段を取っていた。そして、此度の囮に選ばれたのが、二度の北極海航海後、スカパ・フローで反乱事件を起こしたばかりのユリシーズ号。果たしてユリシーズ号はソ連の不凍港ムルマンスクまでたどり着くことができるのでしょうか?
A:無理。という話。面白かった。「鷲は舞い降りた」に比べると見劣りするけれど。鷲を読み終わったときは、「オレもIRAに入りてぇ〜!」と思ったものだが、さすがにユリシーズを読んでも、英国海軍に入りたいとはとうてい思えなかった。八甲田山並かそれ以上の極寒の状況にあって、さらにドイツ軍が攻めてくるのである。文面がやたらと装飾過剰なきらいがあるのだが、それが北極海での戦闘の厳しさを必要以上に伝えている。寒い、寒い、とっても寒い。そして最後は特攻をかけたものの手前で阻まれ大失敗。特攻なんてこんなもんだわなあ。リーンホースJrがクロノクル艦隊を全滅させたのは奇跡に等しい偉業である。普通は、「ほれ見ろいわんこっちゃない!」、となる。
しかしながら、死を宣告されたも同然の状況にあって、それでもなお任務をやり通し、戦い抜こうとする男たちの姿は熱いことこの上なし。というか、提督も艦長も、巡洋艦の上で働きすぎで死んじゃダメですよ。寒い海の上の熱い話だった。船の専門的な描写が多い文、シーンを想像しにくかったのがやや残念ではあった。これが、鷲に比べてもっとも見劣りする点である。鷲は英国の田舎の村が舞台だから、わかりやすかったのだが。
劇場そばの刃物研磨店で、何者かが押し入りながらもなにも盗まれず、籠から飼っていたカナリアが解放されていた、という奇妙な事件が起きた。間もなくして、劇場にて上演中に死体役の人間がメスで刺し殺されるという殺人事件が起きる。どうやら犯人はメスを研ぐために研磨店に押し入ったらしい。が、カナリアを解き放つという行為にはいかなる真意があったのか? この謎に、精神分析学者のベイジル・ウィリングが挑む。という話。
普通の本格ミステリ。殺人が起きるたびにカナリアが解放される、というのは魅力的な謎だが、解決はあまり大したことがなかったように感じた。まあこんなもんか。「ひとりで歩く女」で見られたような、章の最後に衝撃的な事実や証言を持ってきてヒく、という技法も見られず、普通作という感じである。さしあたり、大昔に出たきり絶版になっている作品群を復刊してほしいのですけどね。
映画会社の編集主任キャメロン・マケイブは、編集中の新作フィルムの中からある女優の出番を全てカットしろという命令を受ける。その女優は話のメインとなる三角関係の一角を為す重要人物で、出番をカットすれば話が滅茶苦茶になるのは確実だった。その翌日、件の女優が編集室で血を流し倒れているのが発見される。絶望しての自殺か、あるいは他殺か。続いて第二の殺人が起き、容疑者が逮捕されるに至るが、事件はこれで解決ではなかった……という話。
なんだこりゃ? 主人公が事件について一人称小説で書いた本編と、その本編が刊行された後に登場人物の一人が書評という形で書いたエピローグ、という謎めいた構造になっている。推理小説とはいくつものお約束に乗っ取ったルールの上に成り立つゲームであり、そのお約束を破壊して、編集者が映画のフィルムを切り取るように描くシーンを取捨選択すれば登場人物の誰でも犯人にすることが可能だ、ということを訴える小説……なのか? 「赤い右手」級の問題作であり、反則技という点では「赤い右手」を超える。少なくとも「赤い右手」は犯人が明示されてるしな。1937年作品ということで、黄金時代末期にはミステリの枠組みを破ろうとする試みが色々なされていたのだなあということを示す作品である。
寄宿学校の舞踏会の夜、副校長の妻が殺されているのが発見された。暴行を受けていた、という報を聞いた教師たちは一様に驚いた――その女性が色情狂で、男に見境なく手を出すことは公然の秘密だったからだ。強姦が目的だったのか、それとも強姦以外のなにかがあったのか? 奇妙な事件に警部ロイドと刑事ジュディの二人が挑む。という話。
「騙し絵の檻」同様かっちりしたパズラーである。とはいえワタクシさしてフーダニットものが好きという訳でもないのでちょっと評価に困りますわね。道のど真ん中を歩くような作品なので突っ込みようがない、というか。
ビル・ホルトは16年ぶりに故郷に帰ってきた。彼はいわれなき罪に問われずっと服役していたのだ。裁判の結果では、ビルは長いこと関係を持っていた不倫相手と不倫を調査していた探偵を殺したことになっていた。が、実際は相手と関係を持ったのは一回だけで、しかも探偵の顔など見た事もなかった。自分をはめた相手を探し出し、そして殺す。ビリーは調査を開始するが、しかし事件を調べれば調べるほど、関係者の誰にも二人を殺せなかったはずがなかったという証拠が積み重なっていくのだった……という話。
このミス第7位は真っ向勝負の謎解きもの。普通に面白い。メインとなるトリックは「順番の取り違え」というごく基本的なものだが、この事実が暴かれることによって事件の様相が大幅に様変わりする、というところがすごくよくできている。良作。
個人的な好みからいうとそれほどヒットはしなかったのだが。真相のインパクトに関しては「猿来たりなば」のほうが見事だし、過去と現在を行ったり来たりする手法もゴダードやクックには及ばないし。まあ、心身ともに疲労しきっている時に読んだのがあかんかったのかもしれないが。正直言って頭のほう、登場人物がさっぱり頭の中に入らなかった。
1734年、新大陸のフィラデルフィアにてベンジャミン・フランクリンは新聞を発行し、自ら社説などをものしていた。ある日社説にて町の金持ちマグナスの暴虐ぶりを避難したところ、激怒したマグナスがやってきて、「貴様に悪魔の呪いをかける」と宣告した。彼は悪魔の力を駆使することができる、と町の人間に信じられていた。ベンはこれを一笑に付したが、やがて使用人のトマスが行方不明になり、トマスの甥ジョサイアが殺害されるという事件が起きる。死体のシャツには不気味な悪魔の蹄の跡が残されていた……という話。
剣戟こそないものの、主人公が社会的権力を持つ人間に独力で立ち向かうという話のつくりはカーの歴史ミステリ風味であり非常に面白かった。悪魔の力という迷信を話に持ち込み、うまいこと展開させている。佳作。
ルイ14世治世下のフランスの話。伝説に謳われた「海の妖獣」が捕獲され、ヴェルサイユ宮殿に連れてこられた。捕まえたのはイエズス会士にして自然哲学者のドラクロワ。その妹マリー・ジョゼフが妖獣の世話をすることになる。付き合いを重ねる内にマリーは海の妖獣が人並みの知能を持つことを悟り始めた。友情らしきものが芽生え始めるが、しかし安寧の日々はそう長く続かなかった。海の妖獣は、その肉を食らえば不死になれる、という伝説を信じる太陽王ルイの食卓に供せられることになったのだ。マリーは妖獣を救うことができるのか? という感じの話。
久々にクソくだらん本を読んだ。文庫カバーには歴史改変SFと書いてあるのだが、どこが歴史改変でどこがSFなのか教えてくれって感じである。どう考えてもFTから出すべきだろ。ジャンル違いでも話が面白ければそれでいいんだが、これに関しては話もつまらんしなあ。こんなんがネビュラ賞受賞って一体どういうことですか。こんなんが賞取ったのならよっぽど不作の年だったのかと思って調べてみたところ、この年のヒューゴー賞はブルーマーズとある。ノミネート作品にスタープレックスとかあったりして決して不作ばかりではないと思われる。つうかこんなんよりスタープレックスの方が遥かに面白いだろ。あとブルーマーズさっさと出せよ創元。
あまりにつまらなかったので感想もささくれ気味です。