A・E・W・メースン

Alfred Edward Woodley Mason

サハラに舞う羽根(創元推理文庫)

評価:★★★

 1882年夏、スーダンはマフディーの反乱に揺れていた。統治国の一つイギリスは反乱鎮圧のため軍を派遣するが、その寸前、婚約したばかりの若き将校ハリー・ファイヴァシャムは軍務を前に除隊する。彼は子供の頃から、いつか己が不名誉な行為をしてしまうのではないかと恐れていた。自分が不名誉な行為を行えばその不名誉は婚約者エスネにまで及ぶ、と恐れてのことだった。が、やがて戦地に赴いた三人の友人から、「臆病者」を示す白い羽三枚が送られてくる。事実を知ったエスネもまた、ハリーに白い羽を渡して去っていった。臆病者の汚名をそそぎ、己の勇気を示すため、ハリーは再び戦地へと赴いた――という話。
 百年前の雑誌連載小説、ということだが猛烈に面白かった。主眼を主人公、または婚約者の内心の葛藤に据え、大きく紙幅を裂いているという点は同時代の冒険小説と一味違う。この時代の冒険小説といえば、それこそ火星シリーズみたいに勇敢無比なる主人公がいかに己の力で苦境を脱し活躍するか、という点ばかりが強調されるものであるが。ハリーが自ら苦難に立ち向かうという動機付け、己の軽率な行為がハリーの人生を破滅させてしまったと悩み続けるエスネの葛藤、といったものをしっかり書き込んでいるあたりが、百年前の作品にもかかわらず読むに耐えうる小説なさしめている、というところか。「薔薇荘にて」でも読んでみるか。