マーガレット・ミラー

Margaret Millar

明日訪ねてくるがいい(ハヤカワミステリ)

評価:★★

 前の夫B・Jを探し出してほしい、という老婦人ギリーの依頼を受け、弁護士トム・アラゴンはカリフォルニア半島の海辺の小さな村にやってきた。そこは、B・Jがかつてリゾート農園を造営しようとした土地だったが、今や不毛の荒野と化していた。聞けば、B・Jは不動産詐欺で投獄されたのだという。トムは事業の片棒を担いで共に投獄された男、ハリーを捜し出す。B・Jの今の居場所を知る望みを彼に託してみたものの、しかし彼は何者かに毒を盛られ、トムの目の前で橋からの転落死を遂げた……という話。
 ロス・マクドナルドの遺作となったブルー・ハンマーと同時に出版して話題を呼んだとか。76年てオレの生まれた年でんがな。後書きに載っている当時の書評におおむね賛成である。「エンディングは特に意外ではないが、全体的に優れた仕事である」。加えて、マクドナルドとの差異についても書かれている。リュウ・アーチャーはこの世の悲惨さや人間の汚さをやむを得ざるものとしてある種の寛容と諦観をもって受け止めているが、ミラーの筆はそういったものを容赦なく暴き立て、骨までえぐろうとする、と。たしかに、ミラーの諸作の主人公となる人間はたいがい若く、若いが故に愚かだ。無知故に、真実を取り返しのつかないレベルまで暴いてしまう。なるほど、と思った。しかしそれはそれで、単純に男女の視点の差というだけという気がしないでもない。この二人の作風ってホントに似てるよな。

心憑かれて(創元推理文庫)

評価:★★★

 チャーリーはかつて幼女愛好癖のため逮捕され、矯正施設に入れられた過去を持つ男だった。施設を出る際の言葉は決して口先だけのものではなかった。だが、近所の学校に通う少女、ジェシーを見た瞬間には、もうどうしようもなく心をとらわれていた……。精神異常の烙印を押された男の暗い衝動が、夏のカリフォルニアに波紋を起こす。という話。
 なんとなくラブやんのカズフサみたいな奴だなあとカバーの説明文とか見て思ったたんだが、チャーリー君は職は持ってるし彼女はいるしで全然違った。この話に描かれているのはチャーリー君の暗い衝動だけではない。チャーリー君に狙いをつけられた少女の両親、または少女の友達の両親、あるいはチャーリーの保護者である兄などといったいわゆる「一般人」とされる人々が隠し持つ狂気を描くことに同じくらいの紙幅が割かれている。この世にはダメ人間しかいねえのか〜! とドッピオ風味に嘆きたくなるほどだ。特に少女の友達の母親ケイト・オークレイはこの話の裏の主人公ともいうべきキャラクターでありこいつのクソ女ぶりには目を見張るものがある。イヤ女を書かせたらミラーは天下一品ですな。最後のほうで少女失踪事件が起きるのだが、まわりの人間が保身のため身勝手な行動に走る中、ただ一人チャーリーだけが正しい行動をなそうと努力するあたり、非常にわかりやすい対比でいい。非常に面白かった。あまり注目されることの少ないミラーだが、作品はどれも結構手堅く面白いよな。ボク大好き。