ロブ・ライアン

Rob Ryan

9ミリの挽歌(文春文庫)

評価:☆

 しがないタクシー運転手、エドは乗客を見て驚いた。そいつはかつて仲間を売った男、ビリーだった。今ビリーはマフィアの顔役としてアトランティックシティにのさばっている。復讐を行うべく、エドはかつての仲間を集め、ビリーの元から100万ドルを強奪する計画を立て始めた。という話。
 モチーフにくまのプーさんを使っている、というあおり文句で買ってみたが、なんだか今一つ。筋立てが混乱しすぎているのが悪いのか。
 文春文庫は海外ノワールというカテゴリを作ろうとしていて、9ミリの挽歌もそのカテゴリの中の一冊であるとは思うのだが、ノワールというよりはハードボイルドだと思った。個人的にはハードボイルドとノワールはかなり似てはいるものの異なるカテゴリだと考えておりまして。話を転がす根幹となるものが感情的なのがハードボイルド、事務的なのがノワール、とオレの中でははっきりと別れている。男の矜持を賭けて闘う、といった風なのがハードボイルド。ノワールは、たとえばダーティーホワイトボーイズとかポップ1280とかMrクインとか斧とかそっち方面。

フリッツ・ライバー

Fritz Leiber

魔の都の二剣士(創元推理文庫)

評価:☆☆

 北国生まれの剣士ファファード、南国生まれの魔剣士グレイ・マウザーの二人がランクマーにて出会い海賊結社と戦うまでを描いた連作短編集。最初の短編「雪の女」は今ひとつピンと来なかったのだが、二人が出会う「凶運の都ランクマー」はかなり面白かった。いかにもヒロイックファンタジーらしい剣戟と魔術と雰囲気とが詰まっている。二人の恋人が共に殺されるというオチがステキ。こんなことになるんじゃなかろうかと予測してはいたが、それにしても凄惨で情け容赦がない。続刊も購入決定。

ピーター・ラヴゼイ

Peter Lovesey

偽のデュー警部(早川文庫HM)

評価:☆☆

 歯科医と花屋の娘が道ならぬ恋に陥った。邪魔者は歯科医の妻、女優である彼女は単身アメリカに渡ろうとしていた。協力して彼女を船から突き落とそうと計画を立て、娘は密航、男は偽名で船に乗りこんだ。だが、たまたま名前が同じだからという理由で、かつてクリッペン事件を解決した警部、ウォルター・デューの名を名乗ったのがまずかった。別件の殺人が船上で起きたため、本物の警部と間違われて事件の捜査をする羽目になったのである。ウォルター・デュー(偽)の明日はどっちだ。という話。
 前半が猛烈にタルかったのだが、船上で事件が起きてからがジャンピング・ジェニィ的でかなり面白い。オチに納得がいかないものがあるが。いや、正確に言うと、オチまで読み終わったときに改めて話の全体を俯瞰してみたとき、話の流れ的に色々と納得がいかないものがある。そもそも、偽のデュー警部がルシタニア号に乗っていたというエピソードを書く必要があるのか。全体的にバランスを欠いているような印象が、ちょっとある。マダム・タッソー読んだ時もあまり心に残るものがなかったし、オレとラヴゼイは相性が悪いのかもしれない。

ルーディー・ラッカー

Rudy Rucker

ソフトウェア(早川SF文庫)

評価:★

 かつてのロボット工学第一人者、コッブ・アンダスンはフロリダで余生を送っていた。ある日、自分そっくりのロボットがやってきた。月に来てくれれば新しい肉体を提供する、とロボットは言った。現在月には、かつてコッブに開発され、自意識を与えられたロボットたちが多数住んでいる。恩返しを受けるために月に行ったコッブを待っていたのは、ロボットの手による革命と抗争だった……という話。
 なんか、わけわからん。この話にどんな感想を抱けばいいんだろう? 場面場面は面白いんだが、全体を俯瞰するとまるで形を為してないというか。決してつまらないわけじゃないんだが、この話の感想を語る言葉を、オレは持たない。謎だ。かなりサイバーよりだ。そしてパンクでもある。しかしこれがサイバーパンクかと問われると、どうも違うような気がする。サイバー+パンクであって、サイバーパンクではない。謎。これがディック記念賞受賞作というのも謎だ。アヌビスの門と内容がまったく異なっていると思われるのだが。

ブライアン・ラムレイ

Brian Lumley

タイタス・クロウの事件簿(創元推理文庫)

評価:☆☆

 クトゥルーを下敷きにした「連作オカルト探偵小説」だそうです。表紙が猛烈に怪しいので買ってみたのだが、まあまあ。オカルト探偵タイタス・クロウが活躍する長編全6巻があって、この短編集はそれのスピンオフみたいなものらしい。クトゥルー眷属邪神群(略称CCD)を滅ぼすべく結成されたウィルマーズ・ファウンデーションに参加して戦う、という設定があまりにも怪しいのでちょっと読んでみたいなあと思った。
 あとカバーの折り返しのところにはラブクラフト全集が載っているのだが、6冊紹介しておいて、さらにその下に(以下続刊)と書いていて驚いた。なッにィィ――――ッッ!! 7巻を出す気がまだあるというのかッ! 6巻出たのっていつなのよ? オレが物心ついた時点ですでに6巻まで出ていたような気がするが。創元は、折り込みパンフでJ・D・カー短編集6を出す、と書いておいて10年後にやっと出したという前科持ちであるのだが、その辺ってどうなっているんだろうね? ということはワイルドカードシリーズも以下続刊と信じてよろしいですか?

テリル・ランクフォード

Terrill Lankford

惨殺の月夜(扶桑社ミステリー)

評価:★★

 引退を考えている殺し屋ライ・コールダーのもとに依頼が舞い込んだ。標的はかつてのパートナーにしてこの稼業における師、フレドリクソンだった。やむを得ずコールダーは依頼を引き受けた。追跡をはじめたコールダーは、フレドリクソンが各所で奇行に走るのを目の当たりにする。かつて暗黒街を震えさせた男がなぜこうなってしまったのか――それもそのはず、フレドリクソンは恐るべき秘密を抱えていたのである。という話。
 スティーブン・ハンター&リチャード・レイモンという評価を某所で見かけて読んでみた。ハンターとレイモンとくるとあきらかに別種類の作家であるのだが、しかし読んでみたらその通りだった。前半はハンター風味であり(ファントム風味でもある。暗黒街で殺し屋が師弟対決、というシチュエーションとか)、レイモン風味は感じられない。ハンターにしては少々グロ描写が大目かな、という感じだったのだが、後半はもう目くるめくレイモンの世界だった。そんな展開ありですか〜! 扶桑社ミステリーは時々すごいB級傑作を出してくるから油断がならない。殺戮の野獣館とか破滅の使徒とか。

ジョー・R・ランズデール

Jor R. Lansdale

凍てついた七月(角川文庫)

評価:☆☆☆

 真夜中、リチャード・デインは自宅に侵入してきた強盗を撃ち殺した。明らかな正当防衛だったが、強盗には最近出所したばかりの父親、ベンがいた。目には目をとばかり、ベンはリチャードの息子を付けねらう。ついにある日ベンはデイン家に侵入、リチャードの息子に手をかけようとするが、寸前で逮捕された。これで一見落着に見えたが、しかし偶然現場に落ちていたベンの札入れの中の一枚の写真を見たとき、リチャードは思いがけない陰謀の存在に気づく――という話。
 ハップ&レナードシリーズの投げやり人生なユーモアは皆無だが、根底に流れるものは一緒だ。アメリカ南部という場所にまとわりつく瘴気のようなものがある。こういうのを総じてサウザンゴシックと呼ぶらしい。さすがランズデール、話の転がしかたが巧い。最初はFBIの陰謀を暴く方向で話が進むのかと思いきやまったく別の展開に、というところが微妙に首をひねりたくもなるが、面白かったので気にしない。作中人物の「世の中には死ぬよりもなお悪いことがある」というセリフには納得させられた。ファントムでドライが実は生きていた、というようなものか。
 ところで私立探偵のジム・ボブってハップ&レナードシリーズにも出てなかったっけ?

罪深き誘惑のマンボ(角川文庫)

評価:★★★

「ムーチョ・モージョ」の事件のときにハップといい仲にはなったものの結局別れることになった黒人弁護士フロリダがグローブタウンで失踪した。ハップとレナードは警部補の頼みを受け入れてグローブタウンへ向かうが、そこはKKKが支配する、人種差別のまかり通る街だった。「公民権? はぁ?」という狂気の都に乗りこむ二人組の運命やいかに。という話。
 後味の悪さが前作にも増して抜群だ。ムーチョモージョ読んでたらさらに倍。ハップとレナードのやり取りが面白すぎるのが救いだが、これがなかったらケッチャムなみのイヤ話なのではなかろうかというくらいである。おもしろいなあ。難点を挙げるなら、ムーチョモージョとマンボが日本では刊行順が逆、というのが許しがたい。極大射程読んでなかったらブラックライトのラストシーンの印象が変わってしまうだろうが、というくらい許しがたい。このへんは読者の気持ちを汲んでもらいたいものだが。順番どおりに読めたワタシは幸いである。

テキサス・ナイトランナーズ(文春文庫)

評価:★★

 高校教師ベッキーは、不良集団にレイプされた。が幸いにして一命を取りとめ、主犯格は逮捕されて独房で首を吊った。最悪の時期は過ぎ、ことは落着したかに思われた。ところが不良集団の一人が脳内で死んだ主犯格の少年を声を聞き取ることができるようになったのでさあ大変。復讐の為に少年は黒いシヴォレーを駆る。テキサスの暗闇の中を、邪魔する奴は殺して殺して殺して犯して殺して、の珍道中。再度狙われる羽目になったベッキーの運命やいかに、という話。
 要約すると、悪の東ユキがフィーフィーちゃんにそそのかされて暴走する話。初期の作品で、ファンに言わせるとランズデールが本領を発揮している作品ではないらしいのだが、しかしなにかしら感じるところはあった。昏い狂熱のビートというか、熱を持った譫妄というか、そんなイメージがある。馳星周の解説にほぼ同意。もっともこの作品は美しくないと思うが。美しくないところがいいのであって。あとクーンツの推薦の辞が妙に面白かった。他の作品も読んでみよう。

テキサスの懲りない面々(角川文庫)

評価:★★★

 鶏肉工場の警備員を勤めるハップは、たまたまレイプ現場に出くわし、襲われていた娘を救った。これが偶然にも工場のオーナーの娘で、お礼としてハップは十万ドルと長期休暇をいただいた。これを利用し、相棒のレナードとクルージングの旅に出る。ところがメキシコにて見事に置いてけぼりを食らってしまい、帰る手段を模索しているうちに地元の老漁師とその娘のトラブルに巻き込まれてしまう……という話。
 ハップアンドレナードシリーズ、相変わらずの面白さだ。アメリカの南側の国境のあたりを舞台にした小説を読むたびに思うのだが、メキシコってのは本当に世界最大の文明国アメリカの隣国なのだろうか、と不思議になる。読む限り、西部開拓時代も真っ青の無法地帯にしか思えないのだが。そりゃまあ日本という文明国家の隣国の北朝鮮という例もあるけれど、まだ海を隔てている。
 ミスター直球勝負、レナードさんは相変わらず直情径行でまことに男らしい。ゲイだけど。「おれはでかいチンポコが好きだ」と公言してはばからないのはいかがなものかとは思うが、歯に衣着せぬのがレナードのステキなところだ。  で、シリーズ第一作はいつになったら訳出されるんですか? 極大射程状態だな。

ウィリアム・ランデイ

William Landay

ボストン、沈黙の街(早川文庫HM)

評価:☆☆

 田舎町の若き警察署長、ベンはボストンの検事補ダンツィガーの死体を発見した。事件はボストン市警に引き継がれるが、死体の発見者という義務感もあってベンは捜査に参加していく。犯人はボストンの一角にて麻薬売買を行うギャングのボス、ブラクストンと目されていたが証人は殺され、真相解明は杳として進まない。ところが意外な方向からの証拠が事件に光を当てる……という話。
 今年のこのミス七位。なるほど入賞もうなずける傑作だ。過去の警官殺しの顛末、主人公の母がアルツハイマーに冒されていく様子など、一見無関係に見えるエピソードの数々が収斂していき結末にたどりつくところは良くできている。真犯人の隠し方もかなりうまい。一旦手の中身が空っぽなところを見せてから……というところがうまい。そして「法の限界」というものを描き出すことにも成功しており非常に面白かった。事件の顛末からエピローグに至る内容にはぞっとする。