ジョエル・タウンズリー・ロジャーズ

Joel Townsley Rogers

赤い右手(国書刊行会)

評価:☆☆

 医師リドルは往診の帰り道、尋常ならざる様子の女性に出会った。聞けば、婚約者と一緒に車で近くの池に行ってみたのだが、途中で拾ったヒッチハイカーに婚約者が襲われた。彼女自身は姿を隠してやり過ごしたものの、ヒッチハイカーは婚約者を車に乗せて去ってしまったという。たしかに、何人かの人間が、婚約者とヒッチハイカーが乗った車を見ていた。のだが、リドルだけは見ていなかった。田舎の狭い一本道、車のすれ違う余裕もないというのに、リドルだけはその車の姿を見ていなかったのだ。やがて婚約者は沼地で死体となって発見された。その右手から先はすっぱりと切り取られていた……という話。
 妙な話だなあ。というのも、明らかに読者を混乱させるためだけにばら撒かれた伏線がやたらと多い。その露骨な伏線に気を取られているうちに読者は真の伏線を見逃す、という作りになっている。水島新司並に伏線をちぎっては投げちぎっては投げしているのでそこをどう取るかで評価は分かれるところだろう。時系列が無茶苦茶でキャッチ=22並に混乱させられる。まあこれが伏線を隠すのに役立っているわけだが。とりあえず、こんな妙な話を翻訳出版する国書刊行会は素晴らしい。世界探偵小説全集もとうとう第四期に突入するらしいしこの調子で頑張ってほしいところだ。

キム・スタンリー・ロビンスン

Kim Stanley Robinson

グリーン・マーズ(創元SF文庫)

評価:☆☆

 2061年の起動エレベーター落としによる大災害の後、「最初の百人」たちは火星の南極コロニーに潜み、活動を続けていた。今や火星を支配しているのは地球の超巨大国際企業体であり、彼らは火星緑化から得られる富を独占しようとしていた。これに対抗すべく「最初の百人」とその子孫たちはレジスタンス活動を開始する。という話。
 レッド・マーズ同様、火星緑化は単なる科学的な問題でなく高度な政治的経済的民族的問題をはらんだ一大事なのであるというスタンスを崩すことなく緑化事業が描かれており相変わらず興味は尽きない。時の流れとともに対立は民族対民族から地球人対火星人という軸に移ってきており、かつ以前からのグリーンズ対レッズという問題もはらんでいて事態は実に複雑である。「オレたちの戦いはまだ始まったばかりだ!」という感じでグリーン・マーズは幕を下ろしておりこれをブルー・マーズでどのような結論に導くのか、楽しみである。いつ出るのかまったく知れないが。
 今作はやたらと読みにくかったような気もする。アルカディイとかフランクとかアクの強い面々があらかたレッド・マーズで死んでいるからか?