K・W・ジーター

K.W.Jeter

悪魔の機械(早川文庫FT)

評価:★★★

 天才発明家だった父の後を継ぎ時計職人として店を営むジョージ・ダウアーはしかし、父の才能を少しも継いでいなかった。そんな彼のもとにある日黒い肌の奇妙な人物が現れた。父が作った科学機械を直してほしい、というのである。引きうけたはいいものの、直すどころかそのもの自体が一体なんであるのかすら分からない始末。だが、その謎めいたものを狙い押しこみ強盗が入るに至り、これがなにやら重要なものであるらしいことをダウアーは悟る。謎の機械の正体を探るべくダウアーは活動を開始するが、それが地球滅亡の危機を賭けた旅になるとはこれっぽっちも思っていなかった――という話。
 ブレードランナー2とかで有名なジーターであるが、この作品はいわゆるスチームパンクに分類される。スチームパンクとはいっても蒸気機関はこれっぽっちも出て来ない。しかし自動人形パガニニコン、「空飛ぶ装置」、全ての謎の鍵を握る「エーテル制御装置」、果ては地球粉砕爆弾と怪しさ大爆発な機械がわさわさと出てきて面白すぎる。訳者はあとがきで「マッド・ヴィクトリアン・ファンタジィ」という言葉を使っているが、そっちの表現のほうがしっくりとくる。いい言葉だ。

メアリ・シェリー

Mary Wollstonecraft Godwin Shelley

フランケンシュタイン(創元推理文庫)

評価:★★

 海洋冒険家ロバート・ウォルトンは北洋航海の最中、氷原の上、そりに乗って遭難しかけている人物を発見し、船に引き上げた。男の名はフランケンシュタイン、ある男を追ってついにこの氷原にまでやってきたのだという。そしてフランケンシュタインは語り始めた――彼が生み出した新たなる生命「怪物」、怪物が引き起こした事態とその顛末について……という話。
 知らぬ者はない古典であるが、初読。フランケンシュタインとは怪物の名ではなく、生命を創造した科学者の名であることを読んで初めて知った。フランケンというと怪物くんに出てくる奴を思い出すからなあ。
 話の内容は、ホラーと言うよりは残酷な話だ。フランケンシュタインは学究としての衝動と好奇心に突き動かされて人造人間を創り出すものの、見た目があまりにキモいので怪物をほっぽり出して逃げた。ほっぽり出された怪物は山にこもり、近所に住む一家の様子をうかがいながら言語、人間社会の仕組み、その他諸々のことを覚えていく。怪物には人間並みの知恵と感情があり、他の人々に対して善行を施そうと試みるが、人々は怪物のあまりの見た目のキモさに、石を投げて追いやる。なんで自分の好意が敵意をもって報われねばならないのだ、と怒った怪物は復讐のためフランケンシュタインの身内を次々と殺していく。という感じ。フランケンシュタインの独白という形で話は語られるのだが、読めば読むほど目立つのはフランケンシュタインの無責任っぷりである。方向性としてはペットを捨てる人に似ているが、迷惑さという点においてはその数百倍だ。醜い怪物はむしろ読者の同情を買う存在で、彼に与えられた宿命のむごさには涙を禁じ得ない。見た目の醜い奴と心の醜い奴とどっちが怪物の名に相応しいのか、という問いかけがなされている、という風に読める。やっぱり、昔から読み継がれている古典というものは、読み継がれるだけの理由があるもんですね。面白かった。

ダン・シモンズ

Dan Simmons

エンディミオン(早川文庫SF)

評価:☆☆☆

 ハイペリオンの物語から300年後。惑星ハイペリオンで狩猟ガイドを生業としていた青年ロール・エンディミオンは冤罪で死刑を言い渡された。が、死刑の寸前、かの詩人サイリーナスに救われる。サイリーナスはエンディミオンにあることを依頼する。それは、300年前に<時間の墓標>に消え、近い未来に再び姿を現すであろうブローン・レイミアの娘アイネイアーを保護してほしい、というものだった……という話。
 表面的には、アイネイアー一行と、アイネイアーを捕まえ殺そうとする教会側艦隊のおっかけっこであるが、その背後には、「ハイペリオンの没落」では完全な決着を見なかったテクノコアやらUIやらの陰謀やら暗躍がある模様。そしてその決着は「エンディミオンの覚醒」に持ち越し。話の感想に関しては、覚醒を待つ。ハイペリオンで出てきた小道具類の使いまわしがすごく面白い。特に聖十字架をあんな風に使うだなんてヒドい話だ。
 で、購入当時に疑問に思った表紙のど真ん中にいるメカっぽい奴の正体であるが、読了してみても謎だ。下巻の銀色の奴はネメスだよな? 胸に聖十字架が張り付いているということは教会側の人間だろうが……ひょっとしてデ・ソヤ神父大佐? マジですかい!?

エンディミオンの覚醒(早川文庫SF)

評価:☆☆

「エンディミオン」でオールドアースに辿り着いたアイネイアーは、生まれながらに自らに課せられた目的、パクス支配の転覆を果す為に、パクス支配領域への期間を決意する。そして彼女と行動をともにしてきたロール・エンディミオンも新たな冒険の旅へ向かうこととなった……という話。
 完結……なんだが腑に落ちない点がいくつか残った。つうか登場人物が勝手に時間を飛びまくるのであまりはっきり把握できてない。もう一回頭から読み直せば少しはクリアーになるんだろうが、いまさら700ページかける8を読み直すのもたるいしなあ。カッサード大佐はエンディミオンの覚醒→戦士の物語→ハイペリオン巡礼→ハイペリオンの没落という時間をたどってきた、ということでよろしいのか? でも最後に「サイリーナスはカッサードと280年ぶりに再会」と書いてるよな? んん〜? ハイペリオン巡礼中に姿を消したヘット・マスティーンのその後が書かれていたのは良し。つうか完全に存在を忘れておった。
 エンディミオンに続き、またしても表紙の上下にまたがって描かれている老人が誰だかわからない。エンディミオンのときは「デ・ソヤ神父大佐ではないのか」という仮説に落ちついたが(あんまり自信なし)、今回はマジでわからん。デ・ソヤらしき人物もサイリーナスらしき人物も既にいるし。あと老人と呼べる重要人物は……誰だろう……

シャーリィ・ジャクスン

Shirley Jackson

山荘綺談(ハヤカワ文庫NV)

評価:☆☆

 小村ヒルズデールの山奥にある<山荘>は、かつて住んでいた姉妹のうち姉は自殺し、妹は発狂したという曰くつきの家だった。幽霊屋敷と超常現象の研究を行っている哲学博士モンタギューにとって、<山荘>はうってつけの研究対象だった。博士は心霊的な素養があると思われる人々に、実験への参加を願う手紙を発送し、二名の女性をつかまえた。山荘に泊まり込み数日を過ごす内に、果して心霊現象は起こり始めた……という話。
「たたり」というタイトルで映画化された、モダンホラーの嚆矢となる古典作品だそうな。心霊現象こそ起こるものの、スポットが当てられるのは心霊現象と向かい合うことになる実験の参加者たちが、段々と孤独感を深め狂気にとらわれていく過程だ。闇に潜む化け物ではなく、人の心に潜む闇を描くというスタイルは、1959年の作品としては斬新なものだったのだろう。のだが残念ながらワタクシ自身はさほど怖いとは思わなかった。ただし、訳文が微妙に古くて入りこめなかったせいもあるとは思う。1961年作品「きみの血を」がかなり不気味に感じられたのだから、単に「作品が古いからつまらなかった」わけではないと思うのだが……、どうなんだろう。

セバスチアン・ジャプリゾ

Sebastien Japrisot

シンデレラの罠(創元推理文庫)

評価:★★

 古典的バカミスであるが何故か今まで読む機会がなかったこの作品。私は探偵にして被害者にして証人にして殺人犯。という話。一人四役という果てしなく無茶苦茶な設定だが、読んでみるとその通り。いかにもフランスミステリ的な技巧的一品である。
 あとフランス語でシンデレラはCENDRILLONと綴るらしい。謎。中にDRILLという綴りが組み込まれているあたりがまた怪しい。

マーク・ショア

Mark Schorr

俺はレッド・ダイアモンド(早川ミステリ文庫)

評価:☆☆☆

 主人公サイモン・ジャフィーはしがないタクシー運転手。生き甲斐といえば唯一、パルプ雑誌のハードボイルドを読みあさることだけだ。特に彼は私立探偵レッド・ダイアモンドのシリーズが大好きだ。ダイアモンドは恋人フィフィを悪の首領ロッコの魔の手から救うべく日夜闘い続けるハードボイルドヒーローである。ところがある日、彼の宝物であるパルプ雑誌をすべて妻に売り払われてしまった。サイモンはブツリと切れた。人格が分裂するほどのショックを受けた。「俺は……レッド・ダイアモンド! だーッ!」彼は完全にレッド・ダイアモンドになり気って夜の街へと向かったのだった……。要約すると、リアル犬神明大活躍という話。主人公の妄想ぶりが見事であり、なにか悪いことがあったら、すべてロッコのせいにし、綺麗な女性を見かけたら誰でも彼でもフィフィと呼ぶ。ステキすぎる。
 その辺のオモシロぶりを除けば、まあ普通のハードボイルド小説である。この作者のハードボイルドマニアぶりはすごい。やはりハードボイルドでもっとも大事なのは猥雑さ、下品さ、そしてひとめぐりしてかっこいいセリフ回しであろう。ファントムはハードボイルド風味ではあるが、ハードボイルドそのものではあるまい。と思う。「おれは足の汚れを悪党の顔でぬぐいたかったのだが、やつが短銃身の改造ショットガンを手にしているために、やつを玄関マットの代用品にはできなかった。」イカす〜!

ロバート・シルヴァーバーグ

Robert Silverberg

時間線を遡って(創元SF文庫)

評価:☆☆

 21世紀、時間旅行の全ては<時間サーヴィス公社>によって掌握されていた。部門は二つ、過去を監視し、改変があれば復旧を行う時間パトロール部と観光客を過去に案内する随伴ガイド部である。随伴ガイドとなった青年ジャッドは、大学時代の専攻を生かしビザンツ担当として度々過去へ飛ぶことになった。そのついでに自分の祖先を調査しているうち、ジャッドは絶世の美女に出会った。彼女の名はパルケリア、ジャッドの遠い祖先だった。ジャッドはパルケリアに一目ぼれ、ついには愛の営みを持つにまで至るのだが、それは彼の転落の始まりだった……とかいう話。
 時間テーマである。過去改変は可能というタイプの話であり、みんなものすごい勢いで過去を書きかえる。つうかパトロール隊を作って過去を改変する者は即処刑、というくらい過去改変を禁じるなら観光ツアーなんてすんなや、と思ったがまあそれは置く。ゴルゴダの丘パラドックスは面白かったなあ。キリストの処刑を見物すべくやってくるツアー客はたくさんいるのだから、ツアーが行われるたびに観客の数は増え、やがてはイスラエルを中心に未来からの観光客が中東を埋め尽くしてしまうだろうというパラドックス。作中で解決法が言及されてないだけに気になる。まあ、タイムパラドックスは矛盾しているからこそパラドックスなのだが。
 あと全般的にえろい。自分の祖先とセックスするのが趣味という先輩ガイドに触発されてか、ジャッド青年もあちこちでヤりまくる。なにしろ五歳の時の自分の母親に欲情するくらいである。「幼いダイアナの、毛の生えていない陰唇がわたしの魂の中で燃え上がった」(原文ママ)。マザコンとロリコンを同時に満たす悪魔のような男だ。