第2話 狼 煙


「カツオくんったらどこに行っちゃったのかしら。私はあの人にこんなに恋い焦がれているのに。いけずな人」
 とある不動産屋の応接間で身悶えする女がいた。彼女の名は花沢さん。花沢不動産の一人娘である。来客用にと置かれた花瓶から一本花を取り出し、恋占いを始める。
「……好き、嫌い、好き、嫌い、好き、嫌い……」
 手がぴたりと止まる。残った花びらはあと2枚。占いの結果は嫌い、となる。
「そんな……」
 と、横から手がさしのべられ、花びらを1枚ちぎり取る。
 すっと花沢さんは横手を見上げた。
「……カツオ君のお父さん」
「そんなにワシの息子が好きか」
「えっ?」単刀直入な質問に花沢さんは戸惑った。「好きだなんてそんな、お父さんに聞かれるだなんて、きっとカツオ君が私の事を家族にいっぱいしゃべっているんだわ、ぐふふふふ」
「カツオは遠いところへ行ってしまった」
 ぼつり、と波平は言う。
「……えっ? どういうことなんです?」
 問いかけに、波平は答えない。
「ねえ、どういうことなんです、カツオ君が行ってしまったって!?」
「カツオに会いたいか?」
 質問を無視し、逆に波平は質問し返す。
 花沢さんはさらに戸惑った。なにか、いつもの波平とは雰囲気が違うことを感じ取って。
「……え、ええ。そりゃまあ、会いたいですけど」
「ならばこれを受け取ってくれ」波平はカバンから妙なものを取り出した。「コレさえあればカツオに会える」
 何とも形容しがたい物体だった。台座に乗った紫の球とでも表現すればいいのだろうか。そして球の中には「S」という字が見える。なにかまがまがしいものを感じ花沢さんは抵抗しようとした。が、それより早く波平は花沢さんを取り押さえ、額にSメタルを張り付けた……
「きゃあああああああああああああ…………」

「怪獣だあ……!」
 あさひが丘駅前は混乱の極みにあった。怪獣ともロボットともつかぬ巨大な生物が、あさひが丘駅を破壊していた。その魁偉にして異様なる巨体は、まさしく破壊の権化だった。自衛隊戦車部隊の一斉射撃も、その怪物は意に介していないようだった。逃げまどう人々。その中の一人が、空のかなたに奇妙な飛行物体を発見する。
「あれはなんだ!?」
 3機の飛行機だった。だがフォルムがなにやら妙だ。60年代のお子さま向け漫画の「これが21世紀の未来都市だ!」的未来図に出てくる、なかなかシンプルにしてトンチキな外見をしている。しかもそれぞれカラーリングが赤、白、黄色のそれぞれ一色で実にこっぱずかしい。
 赤い飛行機が大きな声を発した。人間の声だった。
「チェェェェンジ! イクラー空! スイッチ・オン!」

(挿入歌)
 若い命が真っ赤に燃えて イクラースパーク ぶちかます
 みたか 合体 イクラーロボだ
 ガッツ ガッツ イクラーガッツ
 三つのタラオが遊びに来れば 一つのイクラは 100万パワー
 大人を許すな イクラーパンチ
 ハーイ チャーン バブーだ イクラーロボ

 3機の飛行機が縦に合体したかと思ったら、粘土をこねくり回すかのごとき変形を経て、巨大なロボットの姿となった。それはまさしく、2本の角が生えた赤いイクラちゃん。
「カツオ君!」ロボット内の通信機でノリスケが話しかける。「初合体の具合はどうだ?」
「問題ないさ! きっちり初陣を飾ってやるよ。世田谷の平和はオレが守る!」
 イクラーロボが巨大な斧を取り出す。
「イクラートマホゥゥゥゥゥク!」
 絶叫とともに繰り出された斧は、怪獣の脳天にクリーンヒットした。怪獣は苦悶の唸りを上げる。
 カツオはその声にはっとした。
「この声! 花沢さん!?」
「きっとSメタルで変身させられたのよ!」
 ウキエがそれに答える。
 イクラーロボ憎し、とばかり、花沢メカは口から炎の球を吐き出した。
 今度はウキエが絶叫する。
「チェェェェンジ! イクラー陸! スイッチ・オン!」
 イクラー空は3機の飛行機に分離、順番を入れ替えてもう一度合体した。再び粘土をこねるプロセスを経て、頭には白いウンコ、両手にドリルの生えたイクラちゃんへとその身を変える。
「イクラーのスピードを甘く見ないで! イクラービジョン!」
 火球を分身でかわし、お返しに両手のドリルを突き立てる。胴に大穴を開けられ、花沢ロボは悲鳴を上げた。あさひが丘駅を離れ、東京湾へ逃げようとする。
「逃げられるぞ! ノリスケさん!」
「次はオレの番だ! チェェェェンジ! イクラー海! スイッチ・オン!」
 ノリスケの絶叫とともに、今度は下半身キャタピラのイクラちゃんになる。海に潜って花沢メカに追いつき、そのまわりをぐるぐる回る。
「うおおおおおお! 大雪山おろし〜」
 海流の竜巻に飲み込まれ、花沢メカは遙か空中へと放り出される。イクラーロボもそれを追って空中に飛び出、イクラー空にもう一度変身する。
「カツオ君! とどめだ!」
「おおう! イクラー・ビィィィィィィィィムッ!!!」
 ピンク色の光線を一身に浴び、花沢メカは空中で大爆発を起こした。

 イクラー空は両手に大事に抱えた花沢さんの体を、そっと浜辺に横たえた。イクラーロボのパイロット3人はすぐにロボットから降り、花沢さんのもとに駆け寄る。
 花沢さんは瀕死だった。
「体全体をS細胞に犯されているわ。もう……」
 それきり口をつぐみ、ウキエは悲しげに首を振る。
「花沢さん! 花沢さん!」
 カツオの呼びかけに、花沢さんはうっすらと目を開けた。
「カツオ……君……」
「花沢さん! 大丈夫だ! すぐに良くなる! 一緒に帰ろう!」
 しかし花沢さんは力無く、ほほえみを浮かべた。
「私は……いいの……それより……最後にお願い……私のこと……名前で呼んで……」
 ごくり、とカツオは息をのんだ。そして、震える声で、言う。
「花沢さん……下の名前、何だったっけ」
 がく。
 花沢さんの体から力が失われた。
 カツオは静かに彼女の体を横たえた。
「悪いのは悪魔を呼び起こした奴だ」ノリスケが、カツオの心情を察し、言う。「君のせいじゃない……君はできるだけのことをやったんだ」
「……そうだね。許せないのは彼女をあんな姿にした奴だ。必ず、この手で倒してやる……!」
 東京湾に沈み行く真っ赤な夕日に向かい、カツオは固く誓うのだった。

(ED)
 光を奪って 僕らを襲う 地獄のサザエの黒い影
 カツオよ ウキエよ ノリスケよ走れ 今だ 今こそ合体だ
 世田谷に朝が来なくとも 3つの夢で輝かせ
 イクラー空! イクラー陸! イクラー海
 イクラーロボは 今日も行く

つづく


第3話 胎動

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