VOL 0
シアンの独り言〜あるいは男の不運
ある秋の日の夜、とある酒場にて
男は酒を飲んでいた。
今日は仕事もまずまずだったので、酒も肴も旨い。
これであとは喜びを分かち合ってくれる相手がいれば、いうことはない。
できれば、女で、佳人であればもっと良い。
しかし今のところ知り合いは来ていないようだった。
誰か適当な相手はいないものか、と視線を薄暗い店内にめぐらせると一人の女がカウンターで飲んでいる。
確か彼女は見たことがあった。
数日前になかなかに立派な馬車でこの街にやってきた一行の中の一人だ。
今のところ、お仲間はいないらしい。
顔こそ十人並みだが、胸も腰も張ったなかなかの女っぷり。
お近づきになるのも悪くはない、と思った。
声を張り上げる。
「よう、姐さん呑んでるかい?」
え?あの連中とどうやって知り合ったかって?
ウォルトとフィー、棒使いと槍使いさね、やつらは元々職場が一緒でね、とある大商人に護衛で雇われてたのさ。しばらくコンビを組んでやってたんだけど、ある日いきなり、
「今度から彼らに従って行動してくれ」なんて言われて、30がらみの薬師のおっさんと、クソ間抜けな騎士見習を紹介されたんだ。
それがヒエログリフとあとセルバンテスって馬鹿な野郎で。
言い方がひどいってぇ?
ひどくない!しょうがないでしょっ馬鹿は馬鹿なんだから。ホントにヤツは疫病神だったよ全く。
やれって言われた仕事がマジで運のツキ。
はあ?詳しく聞きたい?本気?そんなに?
ま、時効だからいいか。ぺらぺらしゃべられると困るんだけど。
公爵令嬢シェローナ様と伯爵令嬢フェリア様が隣国に留学してたってーのは知ってるかい?
そう。なら話は早い。
留学なんて名目上。同盟成立のためのていのいい人質さね。そのお二方を無理やりつれて帰ったらどうなると思う?
な、マジモンでやばい話だろ?
おかげで同盟は破棄。うちらは下手に関わっちまったせいでお尋ね者。
そう、これは罠だったんだよ。
つーわけで、フィーとウォルトはともかく後の連中は
な・り・ゆ・きで!
一緒にいるんだからねっ!そこんとこよろしく。
あ?、馬鹿な騎士はどこ行ったかって?
アイツは罠をかけたほうの連中に取り入って、たぶん今ごろどっかに取りたてられてるんじゃない?
あんなアホの事は知らん。
知らん物は知らん。だから、
これ以上ぐちゃぐちゃ聞いたら殴るぞ!!
その数分後、酒場から陶器の割れる音とともに悲鳴が響き渡ったが、それすらも街の喧騒と風の音に紛れて消えていった・・・・・・