第一話 恋のスパイスはニラとゴボウ
風そよぐ丘で、ティニーは一人、腰下ろしていた。
「・・・はぁ」
銀髪の少女の唇から、軽くため息が漏れる。
その瞳は、どこか遠くを見つめていた。
「・・・はぁ」
二度目のため息。
その時。
「ティニー」
ふいに背後から声がして、少女は我に返る。
そこにいたのは、少女と同じ銀色の髪の少年。
「アーサー兄様・・・」
名を呼ばれたアーサーは、可愛い妹の隣に腰掛けた。
「どうしたんだい?ティニー。元気が無いみたいだね」
兄の言葉に、どこか安心したような微笑みを浮かべ、ティニーはゆっくりと口を開く。
「兄様、ありがとう。心配してくれるのね」
「当然だろ?・・・何か気になる事でもあるのかい?話してみなよ」
優しい言葉に、ティニーは感激したらしい。とても愛らしい微笑みを浮かべた。
アーサーも、優しく微笑み返す。
「ありがとう、兄様。・・・あのね、あたし・・・」
ティニーは心の内を語り始めた・・・。
「ニラとゴボウが嫌いなの……」
深刻な顔でティニーは言った。
「はい……?」
目をぱちくりさせて答えるアーサー。
テェニーの目は冗談を言っている風には見えない。どうやら本当らしい……。
「ニラとゴボウ……。また何故なんだい?」
アーサーはようやく我に返ったのか、にこやかな笑みを浮かべて言った。
「ダメなの、あの匂いがっ。フリージ料理は香りが命、私の腕ではあの匂いが消せないのっ!!」
拳を固めて言葉に力を込めるティニー。
アーサーはさすがに次の言葉に迷った……。
「まあまあ。落ち着いて」
兄らしい優しい笑み浮かべ、アーサーはティニーをなだめる。
そのかい(?)あって、ティニーは拳の力をゆるめた。そして彼女は兄の顔を覗き込む。
「・・・兄様」
「なんだい?」
「兄様なら、あたしの気持ち分かってくれますよね?ニラとゴボウは、フリージ料理の敵だって」
まっすぐな視線を向けるティニーに、アーサーは苦笑いを浮かべる。
「は、はは・・・。うん、そうだね・・・」
ティニーの美貌がぱっと輝いた。
「やっぱりっ!兄様なら分かってくれると信じてましたっ!」
「あ、あはは・・・」
嬉しそうなティニーと、苦笑を浮かべるアーサー。
この平和な兄妹の背後に、第三の人物が近付いてきた。
「おい、こんなところで何をしてるんだ?」
背後から図太い声が響く。2人は驚き、ゆっくりと振り向いた。
「あ、シャナン様……」
ティニーは反射的に声が出ていた。
セリス率いる解放軍の中で、もっとも美男子で剣術に長けたシャナンを知らないはずはない。
ティニーの視線は明らかにシャナンに一点集中している。
「いえ、ティニーがニラとゴボウが嫌いって言うんですよ」
アーサーは苦笑しながら言った。
ティニーはシャナンに視線を注ぐだけで言葉は出ない。きっと気が付かないほど集中しているのだろう。
「……セリスが呼んでいたぞ、二人ともだ」
そう言うと、シャナンは踵を返した。
ティニーの熱い視線はシャナンに注がれたまま、微動だにしない。
ティニーの硬直をよそに、アーサーは一つの疑問を抱いた。
(シャナン様の一瞬の沈黙は何だったのだろう……)
「やあ、アーサーにティニー。急に呼び出して悪かったね」
にこにこと取っ付きやすい笑顔を浮かべ、セリスが言った。その傍らには凛とした表情を浮かべるシャナンがいる。
「それでね、君たちにちょっと話があるんだけど・・・」
と、セリスは何やら話し始めた。
「・・・」
が、ティニーは黒髪の美青年に釘付けだった。
(素敵・・・)
銀髪の少女は、頬をピンクに染める。
もはやティニーの耳に、セリスの話など届いていない。彼女の全神経は、シャナンに向けられていた。
「・・・ねえ、ティニー。聞いてる?」
声をかけられ、はっとした。
顔を上げると、困ったような顔をしたセリスがこちらを見ている。
「どうしたの?なんだか様子がおかしいよ?」
セリスに聞かれ、ティニーはうろたえた。
「えっ?あっ、あの・・・えっと・・・」
セリスの問いにどう答えようか、ティニーは困ってしまった。
「……風の音が強くて良く聞こえなかったぞ、セリス」
しどろもどろで困り果てているティニーのためかどうか定かではないが、シャナンの一言がその場の空気を打ち破った。
「ああ、ごめん。あのね……」
再びセリスが話を始める。
しかしティニーの視線はシャナンに釘付けである。
(ああ、シャナン様が私のために……)
幸福絶頂ですわ〜〜、といわんばかりに目をウルウルさせて熱い視線を注ぐティニー……。
結局セリスの話は3度目まで続いた。
結果……、ティニーとシャナンはたった二人だけで
クロノス城主、ヒルダと戦う羽目になってしまったのである。
しかしティニーは、やはり『幸福絶頂』なのであった……。
…というわけで、たった二人でヒルダと戦う事になったティニーとシャナン。
二人はクロノス城玉座の間ゥ齦燻闡Oまで来ていた。扉を開けば、ヒルダがいるはずだ。
ティニーは緊張の面持ちを浮かべていた。
(おば様と…戦うのね…)
手にした魔道書をぎゅっと抱きしめ、ティニーはうつむく。
思いつめた表情をした後、彼女はそっとシャナンの方を向いた。
…と、ふいに彼と目が合う。
「!」
すると…なんとシャナンがこちらに近付いてきた。
「おい…。ティニー」
低い声で名を呼ぶシャナン。
「はっ、はい…」
ティニーは顔を赤くして返事をする。
そして…シャナンから発せられた言葉はゥI
「ニラとゴボウについてだがゥv
「…はっ?」
ティニーが目を点にしたのは、言うまでもない。
「ニラとゴボウはワインで炒めると大丈夫だ」
バルムンクに手をかけたまま、マジ顔で言うシャナン。
「はい?」
ティニーはすでに錯乱状態だった。
(まさか、まさか、この人もお笑い系の人なの……?)
考えたくなかった。王子様は王子様のまま、白馬に乗っていてほしかった。
白い歯をきらめかせて、イバラの枝を切り払いながら、バックには花吹雪が舞っているような、そんな王子様でいてほしかった。
ああ、私のシャナン様……。
「というわけで行くぞ」
ティニーの思考を遮るようにシャナンは言い放つと、玉座の間に通ずる扉を開いた。
「はっ、はいっ!」
心の準備がまだだったのか、ティニーは焦った。
(こうなったらやるしかないのよ、ふぁいっと、ティニー♪)
しかし、心の中で積年の恨みを晴らしてあげる、と思っているのは言うまでもない。
そして扉は開かれた……
「精霊の御名において・・・闇を切り裂く光の矢となりて・・・我が力となれ・・・サンダーッ!」
ドッカーーーーーン!
ティニーの怒りの一撃が炸裂した。
あっけなく倒れるヒルダ。いや、本当にあっという間の出来事。
「きーっ!覚えてなよ!」
とか何とか言って、ヒルダは魔法で何処かへ消えた。
(逃げたのね。でも、次こそはやっつけてやるんだからっ)
ティニーはぐっと拳を握り締めた。
「・・・さあ、ティニー。戻るぞ」
と、シャナン。ティニーは瞳をキラキラさせて、「はいっ」と彼のそばへ駆け寄る。
・・・しかし。
「シャナン様ぁ〜!」
第三の人物の声。
甘ったるい声を出して、シャナンを迎えに来たのはパティであった。
「シャナンさまぁ〜〜」
鼻から突き抜けるような脱力感溢れる声でパティが走ってくる。
(なによっ、シャナン様との一時を邪魔しないで)
とティニーが思ったのは言うまでもない。
「シャナン様、これあげますね」
とパティが差し出したのはドルマークのついた金貨の袋。ざっと3万ゴールドはあるに違いない。
大方、どこぞの敵兵からかすめとってきたに違いない、と邪推する反面、パティの持っている「盗む」のスキルのことを
ちょっぴり羨ましいと思うティニーであった。
「いや、大丈夫だ」
シャナンの答えは意外であった。
シャナンの振るうバルムンクは一振りにつき1000Gの修理費がかかる。
いくら剣術を極めしソードマスターとはいえ、闘技場で稼げる資金など、バルムンクの維持費に比べたら微々たるものである。
資金が不必要であるはずはない。
しかし、次の瞬間、さらに驚くべきことが起こった。
第2話に続く……
執筆者:第1,3,5,7,9段落…あさぎさん【部長】
第2,4,6,8,10段落…BEET
編集者あとがき
さて、随分と遅いアップになってしまいましたが、第1話いかがでしたでしょうか?
まだまだ寂しい執筆陣ではありますが、第2話も張り切っていきたいと思います。
私も執筆したいという方、遠慮なさらずにガンガン書いてください(笑)
通りすがりでもなんでも構いませんので。皆さんで楽しめるリレー小説を目指して(^^)