どくん。早鐘のごとく鼓動する心臓の音が手に取るように感じられる。
その音に急かされるかのように、私は、拳を力強く握り締めた。
掌の中に汗がじんわりと滲んで来る――緊張のせいだろうか・・・。「探せっ!!反乱軍は一人たりとも生かしておくな!!」
遠くから叫び声が聞こえてきた。
おそらくは隊長とおぼしき兵士が声を張り上げて叫んでいるのだろう。
その聞こえてくる一言一言が私の心臓を掴んでは消えて行く――。
「あいつら・・・・絶対に許さない・・・」
内に秘めた気持ちが全身を駆け巡り外へと飛び出した。
先ほどまで握り締めていた拳は、いつのまにか腰の剣の柄に伸びていた。
「ラクチェ!!」
その様子を見たスカサハが険しい表情で自分を見つめる。
スカサハも私と同じく腰に剣を携えてはいた。だが、それを手に取ろうという気配は無かった。
「あら、スカサハは怖いの。私は平気よ、シャナン様は私達を子供扱いして実践に加えてくれなかったけど、もう十分に戦えるはずよ!」
私はからかうかのようで、そして少し怒気を込めた口調で言い放った。
若者達の中で最も思慮深いこの兄がオイフェの言い付けを守っている事は知っている。
だが、自分の気持ちを察してくれないこの双子の兄が今はもどかしかった。
「いい加減にしろ。オイフェさんのいない状況でどうしろって言うんだ。」
あくまでも冷静に、諭すようにスカサハが告げる。
だが、頭では理解しても感情がそれを許さない。
「だからってこのまま見過ごせって言うの!!」
私は思わず怒鳴り返した。こうしている間にもあいつらが私の故郷を蹂躙しているかと思うと、悔しさで身を焦がされる思いであった。
「もう嫌なの。あいつらは私の友達を何人も殺したわ。私だってあの時シャナン様が来てくれなかったらと思うと・・・。とにかく帝国なんかに蹂躙されているのを黙ってみているなんて絶えられないの!」
―――しばし沈黙が場を支配する。
「そうだね、ティルナノグは僕達にとってかけがえの無い故郷。それをこうして黙って見過ごすなんて出来るはずが無い。行こう、スカサハ、みんな!!」
その沈黙を破ったのは、それまで二人のやりとりをそっと静観してきたセリスの一言であった。
そのタイミングは実に的確なものであり、そして士気を高めるのに最適な言葉であった。
正義感の強いセリス様ならばきっと―――私の望んだ通りにセリス様は戦う事を選んでくれたことに私は心の中で喜びの声を上げる。
もはや私を止めるものは無かった。
私は立ちあがると同時に颯爽とその場から飛び出して行く。
「待て、ラクチェ!!」
慌ててスカサハがその腕を捕まえようとするが、その手は空を切るだけだった。
「絶対・・・絶対に許さないんだから・・・」
遠くで私を呼ぶ声を背に街を駆け抜けながら、何度も、繰り返し私はその言葉をひたすら呟いていた・・・。
朝霧の中、その銀色の輝きは一際際立っていた。
気合と共に一閃されたその煌きは、一太刀で確実に人の生を奪って行く。
その見事な剣技に帝国兵達はしばし心を奪われ、その動きを止める。
だが、次の瞬間には己の役目を果たそうと再び――今度は四方から向かってきた。
私は気合を込めて力強く柄を握り直すと、大地を蹴りその一団の中へと飛びこんでいった。
「はぁっ!!」
迫り来る一団の中を私は流れるような動きで駆け抜けて行く―――我がイザーク王家に伝わる伝説の秘剣、流星剣だ。
鮮やかな翠の軌跡を描く動きは、まるで剣舞を舞っているかのように見えるほど美しい。
だが、その美しき翠も向かって来る者にとっては死を告げる色でしかない。
「こいつ・・・・」
一瞬にして5人もの人間が地に沈んだのを見て男が呟いた。
私は再び大地を力強く蹴る。その動きに男は慌てて剣を振り下ろした。
銀色の閃光が身体に触れようとした瞬間、私はさっと真横に飛びその斬撃をひらりとかわす。そして体制の崩れた男にめがけて――横殴りの一太刀を一閃――。
胴をなで斬られた男は断末魔の響きを上げて地にひれ伏した。
「ふぅ・・・」
その様子を見届けると私は一息つき、袖口で額に流れる汗を拭った。
すでに半数の兵士が地に伏せっていた。しかし所詮多勢に無勢である。
倒れた数は多いものの、未だそれと同等数並の兵士がこちらに向け油断無く刃を構えていた。
「ったく、キリが無いわね・・・」
私は思わず悪態をつく。だが、その闘志を衰わせることはなかった。
この剣に賭けても、私は絶対には負けられないのだ。
いかなる相手にも臆さずに戦い、そして勝ちつづけた父と母のようになるために。そして、いつの日かあの人と肩を並べて剣を振えるその日までは―――。
「この勇者の剣に賭けて、私は絶対に負けるわけにはいかないよ!」
自らをの力を奮い立たせるように叫ぶと、私は三度大地を力強く蹴った。だが、その刹那、
―――背筋に言い知れぬ悪寒を感じた。
それは一流の戦士だけが持つ動物的本能だったのかもしれない。
私は慌てて飛びのこうとする、が、その動きは一瞬だけ遅かった。
肩に何かが突き刺さる感触を感じ、私の身体は地に倒れこむ。
とっさに肩に手を伸ばす。幸いに飛んできた矢はそれほど深く刺さってはいないようである。
だが、矢が突き刺さった衝撃で私の手元から剣が零れ落ちていた。
私は慌てて剣を拾おうとする。だが、その一瞬の隙を兵士達は黙って見てはいなかった。
何本もの銀色の凶刃が迫ってくる。
――――駄目!!
心の中に眠っていた恐怖と言う名の感情が蘇ってくる。
私は思わず目をつぶった。絶望が頭の中を駆け巡って行く―――。
頬に何かが触れたのを感じ、私の思考は現実へと引き戻される。
私を現実に引き戻したもの、それは冷たい刃の刺さる感触ではなく、生暖かい何かが頬を触れる感触であった。
私はそっとそれを拭う―――それは血であった。
「えっ?」
その予想外の感触に、私はそっと閉じられた瞳を見開く。
そこには一人の剣士が立っていた。私の疑問に答えるべき存在が目の前にいた。
返り血を浴び全身が紅く染まる。それでも男は大剣を息つく暇もなく振い続けていた。
その剣技はまさに剛剣と呼ぶにふさわしいものだった。技と速さで敵を切り倒す私とは違う剣技、文字通りに向かってくる者一人一人を薙ぎ倒してゆく。
やがて男は最後の一人をも斬り捨てると、こちらへ振りかえる。
「大丈夫か、ラクチェ」
さきほどの大剣を振い続けていた姿からは想像できないほどに優しげな表情を浮かべ、男は私に手を差し伸べた。
「スカ・・・・サハ・・・?」
私は思わず呟いた。そしてこの時、私は初めて理解したのだ。
自分を守ってくれたのは、私にとって最もかけがえの無い兄であった事を・・・・。
スカサハは差し出した手をとった私を力任せに立ち上がらせる。
「なんで!なんでスカサハがここにいるのよ!!」
感謝することも忘れ私は思わず声を荒げる。
予想外の反応だったのか、あるいは半ば予想通りだったのか―――スカサハの表情には苦笑いのようなものが浮かんでいた。
「なんでって・・・・お前が心配だったからに決まってるだろ・・・。」
「えっ!?」
私は思わず声を上げる。
しかしスカサハはそれ以上何も言おうとはしなかった。黙って私の剣を拾い上げると、さっと土を払う。
「スカサハ・・・」
「いたぞ、反乱軍どもが!!」
私が声を掛けようとしたその時、再び騒々しい声が聞こえてきた。
「ほら、母さんの形見だろ。大事にしろよ。」
刀身の土まで念入りに払い終わった剣をそっと私に渡すと、すらりと己の大剣を抜き私と背中を併せるように並び、周囲を見渡す。
「スカサハ・・・ありがとね・・・」
剣を受け取ると私は小さく呟く―――その一言に返事は無かった。
だが、私には分かっていた。併せた背中から伝わってくる温かさが全てを物語っている事が。
それは双子だからわかること―――生まれる前から一緒だった兄妹だったから分かる彼の本当の気持ちだった。
―――ったく、素直じゃないんだから。お互いに・・・
心の中でくすりと微笑んだ。
背中併せに立っているため、兄が今どんな表情を浮かべているかは分からない。
だが・・・きっと私と同じような表情なのだろう。きっと照れているに違いないと。
「こっちだ!!急げ!!」
思わず確かめたくなるが、時はそれを許すことは無かった。
声は次第に近づき、やがて肉眼でもはっきりとその姿を確認する事が出来た。
兵士達は二人を囲むように居並ぶ。
数刻前と状況はなんら変わってはいない――だが、先ほどとは違う。
私の側には、こうして心強い存在がいて常に私を支えてくれているのだ。
母もきっと父と共にこうして背中を併せて戦い、勝ちぬいてきたのだろうか―――そう思うと自然に力が沸いてくるような気がした。
そんな妹をスカサハは誇らしげに見つめ、そして声を掛ける。
「いくぞ、ラクチェ!」
「うん」
私は兄の声に軽くうなずくと拳に精一杯の力――そしてありったけの気持ちも一緒に――を込め、その柄を力強く握った。
「流星剣!!」
二人の心を表すかのように、声もまた・・・重なる。
星、流れる時――どれほどの願いが込められるのだろう。
その輝きが永遠に消えないように―――想いもきっと永久へ―――――。
The End
後書き
「FRIEDEN BEETの小部屋」の1周年を祝して挑戦的にもスカサハ&ラクチェ兄妹の創作を強制送信させて頂きました(笑)
自由奔放なラクチェとそれを一歩引いた立場から見守る立場のスカサハ、それぞれのお互いへの信頼をテーマに書いてみたのですが全然伝わってないですね(^^;
まぁ、もう一つのテーマ「かっこいいスカサハ」の方はそれなりに書けたので自分では満足してたりします(自己満足?)
しかし戦闘が妙に生々しい・・・きっと例の「このゲームは残虐な〜」マーク必要ですね(爆)
とにかく、お祝いにふさわしいとはお世辞にも言えない駄作で本当に申し訳無いですが、常日頃からお世話になっているBEETさんへの感謝の気持ちと1周年のお祝いをこの作品にて替えさせて頂きます。
2000.01.19 wiz著
というわけで、「ANCIENT GUILD」のwizさんから、当ページ1周年記念のお祝いに、素晴らしい創作をいただいてしまいました\(^o^)/
管理人本人が開設1周年ということを忘れてしまっていたのに(ぉい)……なんとも嬉しい贈り物です。本当にありがとうございます<(_ _)>
私が日頃からwizさんに「ラクチェが好きなんです〜」って散々言っていたのが功を奏したのか(笑)、
ツボをふんだんに散りばめた素晴らしい創作だと思います。
リアルな戦闘描写の中に綴られた「兄弟の絆」が非常にいい味を出しているのではないでしょうか。
あくまで個人的な感想ですが(^^;
皆様は如何な感想を抱いたでしょうか?
感想などは「ANCIENT GUILD」のwizさんの方へお送りくださいませ。
他にもFE系の素晴らしい創作小説がたくさん置いてありますので、そちらの方も是非ご一読くださいね(^^)
きっと病み付きになること請け合いですよ〜。
最後になりますが、私事でアップが遅れて申しわけありませんでした(^^;
wizさんが忙しい中、時間を割いてくださったにもかかわらず、貰った本人がこれじゃアカンです。
wizさん、ホントにゴメンナサイ!
そんなこんななBEETですが、末永いお付き合いをお願いしますね〜<(_ _)>
2000.01.24 BEET
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