星が流れるとき
ドドドドドド……。
森の中にけたたましく蹄の音が響き渡る。
ここはヴェルトマー城から程なく離れた森の中。普段は静寂を保っているこの森も、今は一時の喧騒の中にある。
「左右から回り込め!」
「敵は二人だ。人数でかかれば必ず勝てる。絶対に逃がすな!」
炎の紋章をつけた甲冑を身にまとった兵士たちが、獣道を広げながら森の深くに分け入って行く。
グラン歴760年…、時代は大きくその流れを変えようとしていた。
グラン歴757年にその端を発する、世界全土を巻き込んだその戦いが終りを告げようとしている。
迷走を続ける時代の流れは、一つの事実を隠蔽したまま終着点に辿り着く。
最後まで己の正義を貫き続けた一人の男の運命をその代償として……。
反逆人シグルドとその一行を抹殺せよ、とは、ヴェルトマー近衛軍指揮官アルヴィスの命である。
反乱軍をヴェルトマーに誘い込み一網打尽にするという計画は、敵の鮮やかなまでの機動力により失敗に終り、
分散した残党を追いつめ殲滅するという作戦に変更せざるを得ない様相を呈していた。
しかし反乱軍の規模は極めて小さく、グランベル王国の軍勢をもってすれば殲滅は造作も無いことである。
追うものと追われるもの、最初から決まっているその構図が、変わることのないままそこにはあった。
ガサガサガサ……。
草むらを身をかがめて進む2つの影、シグルド軍の剣士、ホリンとアイラである。
ウェルトマー城を目の前にして前後左右から攻撃を受けたシグルド軍は、陣形を組む猶予もなく、
グランベル軍の圧倒的な数の前に、己の身の安全を最優先に退却するしか道は残されていなかった。
ヴェルトマー城を中心に方々に散ったシグルド軍、その中でアイラとホリンは北部の森に逃げ込んでいた。
「……ホリン、大丈夫か?」
草むらに身を沈めたまま、アイラはホリンに言った。ヴェルトマー城前で襲撃を受けた際に、ホリンはアイラをかばって
腕に矢を1本受けていたのである。
「大したことはない。……しかし、これからどうする?」
ホリンは傷のことをさほど気にせずに言った。気にせずに、というよりはむしろ気にしている場合ではないといった感じだ。
「川を渡ってシレジアへ、というのが一番妥当だろう。だが……」
アイラは言葉を切った。言わずもがな、ホリンにはその意味が分かっている。
「ああ、国境付近は既に固められているだろう」
予想通りの返答である。
「……とはいえ、ここでじっとしているのはもっと危険だ」
と言うと、ホリンはグランベル軍の姿が見えないことを確認してゆっくりと立ち上がった。
「アイラ、まだ走れるか?」
ホリンはアイラに手を差し出しながら言った。
「ああ、大丈夫だ」
差し出された手を掴んでアイラは立ち上がると、腰に差してある剣の位置を直した。
「よし、行くぞ」
よしんばシレジアまで逃げ切れたとしても、シレジアの中までグランベル軍が追ってこないという保証はない。
しかし他に選択肢のない今、2人は走るしかなかった。たとえどんな結果が待ち受けていようとも……。
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