覇の先をゆく者 はるか 作
男のあまりの眼光の鋭さに威圧された。
何者にも遮られることのないであろうその光。
受け止めるのが困難で、永空はただそこに佇むばかり。
男の背後には真っ赤に燃え盛る戦艦と長江の川岸と。
そして辺りを埋め尽くす死傷者の群れ。
呻き声は辺りに満ちて、さながら地獄絵図。
体中に火傷や矢傷を受けながら、それでも少しも威厳を損なうことなく曹孟徳は立っていた。
「迎えに来たか。御使いよ」
正体を探られていたことに永空は今更ながら気がついた。
隠し立ては不要。いや、むしろ隠すべきではない。そう判断した永空は真の姿に戻る。
闇に溶け込むような黒髪は光を映す淡い金色に。鳶色の瞳は薄暗がりでもはっきりわかるほどに限りなく青い天藍の瞳に。
大きく広げた雪のように白い翼は、今は炎に照らし出されて燃えるような紅に染まっている。
異形の者のその姿にもまったく臆することなく、曹操は問いかける。
「汝が告げるは寿ぎか死か」
ゆっくりと近寄って剣を永空の眉間に突き出しながら睨みつけた。
「…人の子よ、我が助けを必要とするか」
「不要。我が覇道、己の力で切り開くのみよ」
「此度の戦、相手に魔物の力添えがあったとしても?」
フンと言わんばかりに鼻を鳴らして曹操は答えた。
「人の手で乗り越えずして何の天下平定であろう。天下は魔物のものにあらず!」
「行くがいい、曹孟徳」
ふと笑いながら永空は脇によけ、道を指し示す。
「この先、道は分かれている。
どちらかは困難が待ち受けてるかもしれないし、どちらも困難かもしれない。
あるいは、困難などというものは存在してないのかもしれない。
あなた自身が選んでいくべきなのだろう」
「言われるまでもない」
曹操は剣を鞘にしまうと怪我をしていることなど微塵も感じさせない足取りで去っていった。
「…乱世の奸雄か」
その後姿が消えるまで見送ってから永空は人の姿に戻る。
「確かに言われるだけのことはある。ああいう男ばかりなら魔物にとってはむしろ住みやすいだろうに」
魔物は魔物、人は人。割り切っている曹操はいっそ清々しかった。
もっとも、完全にそうできないのが、今の世の実情だが。
魔物が力を貸すにしても少しなら、守護する程度ならいいのだ。今の世では支配にまで力が及んでいることが多すぎる。
割り切るか守護に留めるか魔物の共存する手は他にあろうに。
「そういえば、魔物とうまくやっている人の勢力が全部で3つあると聞いたな。曹操の勢力がその一つか。
どこでもいい。一つが天下平定すれば争いはなくなるんだろうか…」
いずれにせよ、今ある争いから目を背けることはできない。
とりあえずは、人と魔物が分かり合えるべく動くだけだな。人と魔物の狭間に生まれた者として。
そう自分に再確認して、永空は歩き出した。
“人”として目の前の患者たちを治療するために。
(了)
永空のプレイヤーより寄稿いただきました。
ゲーム中じゃとっくに故人の曹操ですが、格好いいですね。