漢詩

蔵書の中からみつけてきたお気に入りの漢詩をご紹介します。
三国時代以降に作られたものが多いですが、気にしないように。

春江花月夜   (盛唐 張若虚)

春江潮水連海平     春江の潮水 海に連って平らかなり
海上明月共潮生     海上の明月 潮と共に生ず
えんえん随波千万里   えんえんとして波に随うこと千万里
何処春江無月明     何処の春江か月明無からん
江流宛転遶芳甸     江は宛転として流れて芳甸を遶(めぐ)り
月照花林皆似霰     月は花林を照らして皆、霰に似たり
空裏流霜不覚飛     空裏の流霜 飛ぶを覚えず
汀上白沙看不看     汀上の白沙 看れども看えず
江天一色無繊塵     江天一色にして繊塵無く
皎皎空中孤月輪     皎皎たる空中の孤月輪
江畔何人初見月     江畔 何人(なんぴと)か初めて月を見し
江月何年初照人     江月 何れの年にか初めて人を照らせる
人生代代無窮已     人生 代代 窮まり已むこと無く
江月年年祇相似     江月 年年 祇(た)だ相似たり
不知江月待何人     知らず 江月の何人を待つかを
但見長江送流水     但(た)だ見る 長江の流水を送るを

ひさしぶりに長い詩を。
タイトルがすべてを物語っております。やや淋しい感じなのは漢詩の常か。
表記できなかった文字はさんずいに「艶」という字です。

読曲歌  不明

千葉紅芙蓉       千葉の紅芙蓉
照灼緑水辺       緑水の辺(ほと)りに照り灼(かがや)く
余花任郎摘       余花は郎が摘むに任すも
慎莫罷儂蓮       慎しんで儂(わ)が蓮を罷(ゆす)ることなかれ

千葉は(ちば)じゃないですよ、念のため。
「水のほとり、無数の葉の中に赤い蓮の花が燃え立つように咲き誇っている。
 他の花ならいくら摘んでもいいけれど、私の蓮に手を出してはダメ」
名前からの連想で選んでみました(^^;) いいねー

送別   不明

楊柳青青著地垂      楊柳 青青 地に着いて垂れ
楊花漫漫攪天飛      楊花 漫漫 天を攪(みだ)して飛ぶ
柳條折尽花飛尽      柳条 折り尽くし 花 飛び尽くす
借問行人帰不帰      借問す 行人 帰るや帰らずや

楊柳の花が降る(=柳絮)頃、かの国の人々は物思いに沈むそうで。
「楊花に愁殺される」という詩をみたときには悪いけど笑っちまいました。

子夜歌  不明

儂作北辰星        儂(われ) 北辰星と作(な)り
千年無転移        千年 転移すること無し
歓行白日心        歓(あなた) 白日の心を行い
朝東暮還西        朝は東 暮には還た西

北極星も動くという事実はさておき、太陽が浮気者の象徴とされるのは珍しい。

読曲歌  (宋 不明)

打殺長鳴鶏        長鳴鶏(ながなきどり)を打ち殺し
弾去烏臼鳥        烏臼鳥(くろもず)を弾ち去(ころ)し
願得連冥不復曙      願わくは冥(よる)を連ねて復た曙(あ)けず
一年都一暁        一年すべて一暁なるを得ん

日本にも似た名句がありますね。「三千世界の鴉を殺し…」というやつです。
夜が続けばいいと思っているのはなにも吸血鬼ばかりではありません。

春夢   (盛唐 岑参)

洞房昨夜春風起      洞房、昨夜、春風起こり
遥憶美人湘江水      遥かに憶う 美人 湘江の水
枕上片時春夢中      枕上、片時、春夢の中
行尽江南数千里      行き尽くす 江南数千里

この夢の中の美人は湘の女神ででもありましょうか。

暗香  (南宋 姜き)

江国           江国
正寂寂          正に寂寂たり
歎寄与路遥        歎ずらく 寄与せん路の遥かに
夜雪初積         夜雪 初めて積もる
翠樽易泣         翠樽 泣(つ)き易く
紅萼無言耿相憶      紅萼 言(ことば)無く 耿(こう)として相憶う
長記會携手処       長(とこし)えに記す 會(かつ)て手を携えし処
千樹圧西湖寒碧      千樹 西湖の寒碧を圧せしを
又片片吹尽也       又た片片として吹き尽くせば
幾時見得         幾時か見得ん

江南は寂しいところ、と歌っているのでちとイメージから外れるかもしれませんが
千本の梅(=暗香)の花びらの散るイメージが鮮烈で載せました。

子夜四時歌  不明

別在三陽後        別れしは三陽(=晩春)の後に在り
還望九秋莫        還(な)お望む 九秋の莫(く)れるを
悪見東流水        見るを悪(にく)む 東流の水の
終年不西顧        終年 西を顧みざるを

東(呉)に行ったまま帰らない誰かさんを思う、残された人の歌。

彭衙行 抄 (盛唐 杜甫)   ※彭衙は地名

別来歳月周        別来 歳月周(めぐ)り
胡羯仍構患        胡羯 仍(な)お患(うれい)を構う
何当有翅レイ       何(いつ)か当(まさ)に翅レイ有って
飛去堕爾前        飛び去(ゆ)きて爾(なんじ)の前に堕つべき

「いつか翼を得たらあなたの下へ飛んでゆきたい」なのですが
舞い降りるでなく「堕ちる」と(しかも「墜」じゃないのですよ)
表現されているあたり、真の姿に戻ると奈落に近づくのだなぁと(^^;)

十五夜望月 (中唐 王建)

中庭地白樹棲鴉      中庭 地、白くして樹に鴉棲み
冷露無声湿桂花      冷露 声無くして桂花を湿(うるお)す  
今夜月明人尽望      今夜 月明 人尽(ことごと)く望むも
不知秋思在誰家      知らず 秋思 誰が家に在る

皆が名月を眺めている晩も物思いに沈んで部屋に閉じこもる人…
漢詩はどちらかというと物悲しい風情を詠んだものが多いですよね。

秋風辞 (漢 武帝)

秋風起兮白雲飛      秋風起こりて 白雲飛び
草木黄落兮雁南帰     草木黄落して 雁 南に帰る
蘭有秀兮菊有芳      蘭に秀(はな)有り 菊に芳(かお)り有り
懐佳人兮不能忘      佳人を懐(おも)いて 忘するる能わず
汎楼船兮済汾河      楼船を汎(うか)べて 汾河を済(わた)り
横中流兮揚素波      中流に横たわりて 素波(そは)を揚ぐ
簫鼓鳴兮発棹歌      簫鼓鳴りて 棹歌発し
歓楽極兮哀情多      歓楽極まりて 哀情多し
少壮幾時兮奈老何     少壮幾時ぞ 老いを奈何(いかん)せん

個人的には「歓楽極まりて 哀情多し」のフレーズが気に入っています。
汾河は黄河の第二支流ですが、ま、そこはそれ(^^;)

江楼書感    (晩唐 趙か)

独上江楼思渺然
月光如水水天連
同来翫月人何処
風景依稀似去年
独り江楼に上れば 思い渺然
月光 水の如く 水 天に連なる
同(とも)に来たって
 月を翫(もてあそ)びし人は何処
風景 依稀として去年に似たり

まさに江東妖異譚のイメージを彷彿とさせる詩。
そして、あなたが思い描く面影は誰?