天女を娶った男の話 

 あるところに正直もんの若者がおった。
 若者は働き者で、優れた容貌をしており、村の人気者だった。
 そろそろ嫁を----誰もがそう考えておったちょうどその頃、若者は夢を見た。
 それは、若い娘が獣のかかるような罠にかかり、もがいているという夢だった。
 娘の身体は、暗い中でもはっきりわかるほどに淡く光輝き、この世のものとも思えない美しさであった。
 娘のいる風景には見覚えがあった。
「これは天のお告げだ。助けを求めているに違いない」
 そう思った若者は、娘を探し出し、罠から解放してやった。
 夢で見た以上に美しいその娘に、若者は一目ぼれしてしまっていたので、娘の「助けて下さったお礼に貴方の妻に」という申し出も喜んで受けたのだった。

 夫婦は大変仲睦まじく、1年後、二人の間に玉のようにかわいらしい娘まで生まれ、幸せに暮らしておった。
 ある日、ふとしたことから娘が大怪我をしてしまった。
 うろたえる夫に妻はこともなげにこう言ったのだった。
「私がなんとかいたします。ただ、隣の部屋は絶対にのぞかないで下さいね」
 妻は隣の部屋に娘を連れていった。
 しばらく経つと、怪我をしたことなど微塵も感じさせないほど元気になった娘を抱いて、妻が部屋から出てきた。
 夫は大変に喜んだ。その夫に、妻はこう念を押したのだった。
「今日のこと、誰にも話さないで下さいまし。さもないと、私たちは夫婦ではいられなくなります」
 夫は言いつけをよく守り、幸せな生活が戻ってきたのだった。

 だが、それも長くは続かなかった。
 ある時、村に流行り病が起こった。
 苦しむ村人を見た正直ものの夫は、娘を回復させた妻の話をせずにいられなくなってしまったのだ。
 村中の者が夫婦の家に集まり、助けを求めた。
「話してしまったのですね。こうなってしまっては、私はここにいられません」
 妻は悲しげに呟くと、娘を抱えたまま外に飛び出して行った。
 夫も慌てて外に飛び出して行ったが、既に遅かった。
 妻も娘の姿もそこになく、ただ呆然と佇む村人たちの姿があるばかりであった。
「さようなら」
 妻の声がした気がしてふと見上げると、雪のように白い羽根が。
 夫はその羽根を握り締め、泣くことしかできないのであった。
 その日を境に村人たちの流行り病は嘘のように消え、村はこの先も末永く続いていったのだった。