メタルヘッド小説
地上の星座
夜だったのでもとより空は暗かったが、エンジンの音の変化を聞くまでもなく亜軌道シャトルが大気圏外へ出たのはわかった。
狭い窓の向こうには目を疑うような光景がある。虚空に散らばる星のレザリアム。
汚れた空気に覆われた地上ではもはや見ることのできない存在だ。
いや、一度だけ俺は地上で星を見たことがある。
まだ幼かったときのことだ。親父が俺をつれてシティの外へ出たことがあった。危険なミュータントのいる荒野で、なぜ一晩すごすことになったのか、あのときはよくわからなかったが、きっとそのために親父は俺を連れて行ったのだろう。
確か、寒い季節だったと記憶している。それなのに火もたかずに俺と親父は並んで座っていた。ネオ=アップルの虚飾のネオンに背を向けて。
親父は空の一点を指さして、よく見るんだと言った。
はじめはわけがわからなかった。だが、しばらくしてようやくその光は俺にも確認できた。いったん目をそらすと、もうどこにあるのか迷うような弱々しさで、それは空の一点にあった。
シャトルや人工衛星なら動かないはずがなく、よってそれは人工物でないことは理解できた。
俺は生まれて初めて本物の星を見ていたのだ。だが、学習ソフトで得た知識によれば星はそれこそ無数にあるはずだった。
「あれは、太陽を除けば地球から見ることのできる一番明るい恒星なんだ」
親父はそう説明してくれた。空の汚れた現在では、あの一番明るい星が同時に見ることができる唯一の星なのだと。
「星はこの世界の正義みたいなもんだ。一番輝かしいものだってかすかにしか見えない。ほとんど意味がないくらいかすかにしか。
だが、輝き続けなければそれは本当に見えなくなってしまう。
このままではやがて誰も空に星があることを伝えなくなるだろう。どうせ見えないからだ。
それではいけない。いいか。忘れられてはいけないものは確かにあるんだ。俺たちはあの星を輝かせ続けなければならない。空が汚れていくならもっと強くだ」
珍しく親父が饒舌な日だった。
その後、ふたりで星を見にいくことはもうなかった。
だが、俺はあの日を、あの記憶を忘れたことはない。
そして、今では俺も知っている。
あの青く冷たい輝きの星はほんとうはとても熱い炎の星なのだと。星は自らを燃やすことでしか輝かないのだと。
そして人々は、遠い宇宙でその星が燃え尽きてしまった後も長く輝きを受け止め続けるのだ。
シャトルが降下態勢に入った。嘘のような星空ともお別れだ。俺はふたたび、あの星さえももう見えなくなりかけている地上へ戻らなければならない。
失意の夜にいる人々にまだ星が輝き続けていることを知らせよう。そしていつか、輝き続けようとする星がひとつでなくなるのなら…そのときには星は星座になるのだ。地上の星座に。
END