ナンバリング
「ねぇ、エージの一番すきなものって、何?」
そんな一言で注目を集めたのは、うたかた荘の小さな怪獣ことアズミだ。
「な、んだよ突然?」
「こたえてよー」
望んだ答えが返ってこないことにプクーッと頬を膨らませる。エージは助けを求めるように明神と姫乃の方をみやるが、彼らは自分たちに話題を振るなとあからさまに顔に出していた。
「そういうアズミは、なんだよ一番好きな物」
「え?アズミはねーアズミは…うーん」
幼い子供ならではの、素朴な悩み。
聞き返されてしまって真剣に考えているアズミを眺めながら、姫乃も明神も自分がもし訪ねられた時どう答えたらいいかを考えていた。
「アズミはママが好き!」
「はは…なるほど」
「それとねー、明神とーエージとーヒメノンとーぞうさんとーぶたさんとー」
「おいおいっ一番じゃねぇのかよ!?」
「みんな好き!!でもママが一番好き!」
「あーはいはい」
エージは苦笑いを浮かべながらそんなアズミからどうしたら逃げられるか算段をたてていた。一番良いのは話題をそらしてしまうことなのだが。
「ねぇ!エージは!」
どうやらアズミはそれをさせてくれそうにない。
「お、俺はー…」
一番といわれても、とても困ってしまう。
例えば人間なら明神や姫乃や、もちろんアズミや、家族のこと。
例えばスポーツなら野球。
例えば場所ならここ。
それらを同列に並べて比較することは不可能で。
「一番っていうのは無理だアズミ」
「そうなの?」
「そうだよ。ま、大人になればわかることだ」
「えー」
不満そうに、だけど答える気が無いエージの気持ちがわかったのか、アズミは俯いてしまった。そして、しばらくしてから標的をエージからその後に居る2人にかえる。
「…じゃあ、明神は?」
「え?俺?」
ぎくり、と顔をひきつらせて明神が答えにつまる。
「あー…さぁ、どうだろうなぁ」
姫乃は困っている明神を心中で不憫に思いながらも、自分の答えがまだ用意出来ていないのでそうも余裕でいられなかった。
「ねぇ、一番すきなもの、ないの?」
痺れをきらせて問い直したアズミに明神が戸惑いながらも口を開こうとした、その時。
「…俺はひめのんが一番好きだ」
「「へ?」」
突然姫乃の後方から聞こえた声に、明神と姫乃の間抜けな声が重なる。ぎしぎしと不自然に振り向いてみれば、そこには待ってましたと言わんばかりにじっと姫乃を見つめるガクの姿があった。
「最愛の人…それが君」
「っっ!?!」
思わず後ずさりをした姫乃の腕に、明神の腕がぶつかる。呆気にとられていた明神がそこでハッとガクの存在を認識した。
「お前は…またそういうことを」
「邪魔するのか明神…」
「いや、してないけど」
冷静に否定した明神に、思わず姫乃は「そんな!」と明神を振り向いた。その顔があまりに焦燥に駆られていたので、妙な見栄を張っている場合でもないかと考え直し、言い直す。
「してない…けど、これからする」
「明神さん?!」
「そうか…邪魔するんだな…!」
ガクの取り出したハンマーに、被害を被ってはたまらないとエージがアズミを抱えてその場を離れた。ツキタケは我関せずといったふうに少し離れた場所でその光景を眺めている。
「今日という今日は…お前を倒してひめのんと結婚する…!」
「無理っていうかさせねぇし。結婚とかアリエネェし」
「明神っ!!」
「はっ!こいやガク」
明神は玄関から外へ出ると、そのままガクと対峙した。
かくして全く意味の無い無益な2人の戦いが再び幕を上げた。
「…ねぇ、ヒメノンの一番すきなものは?」
めげずに小さくそう訊ねたアズミに、エージは呆れながらも姫乃の方をみる。姫乃は玄関の外の2人から視線をアズミに移して苦笑い。
「…みんな好きだよ…うん、みんな」
「ヒメノンも一番はないの?」
段々泣きそうな表情になりながら、アズミはじっと姫乃を見つめ続けた。姫乃は玄関の外をアズミを交互にみやって、どう答えたものかと再び顔を引きつらせた。
「そろそろハッキリしないと、ガクの奴も勘違いしっぱなしだぜ」
「そ、そんなこと言われても…」
エージの言葉はもっともだが、逆に嫌われてここを追い出されるような羽目になるのだけは嫌だった。ともかく今は泣きそうになっているアズミをどうにかしなければと、仕方なく姫乃はエージに抱えられたままのアズミに近寄り、その耳元でこそこそと小さく何かを囁いた。
「………ホント!?」
「う、うん」
嬉しそうにぱっと顔を輝かせて、アズミがエージの腕から飛び降りた。
「わかった!アズミおうえんする!」
「あ…はは、ありがとう」
上機嫌になってスキップまで始めたアズミに、不思議そうな顔をしたエージが「何言われた?」と訊ねたが、姫乃に遮られて結局わからずじまいだった。
「ひめのんと俺の未来の為…!!」
「んなもん無いから諦めろ!」
そして、無意味な2人の戦いはまだ続きそうだった。
どうしようもなくおわる
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