| きょうだい モノの好みが似ていたり、行動や考え方が似ていたりする人と、「前世は兄弟だったかもしれないね」なんて冗談を言って、その不思議な共通点を理由づけて いた事がある。 勿論実際に前世なんてものを信じているわけじゃないし、本当に血縁だったかどうかなんてわかりっこ無いのだけれど。 「あ〜、これ!これも美味しそう〜」 「お、こっちは?これなんかスゴイ美味そうだ」 「どれも美味しそうだよーーーいいなぁーーー」 「ひめのん、雑誌に穴が空く、穴が空く」 学校から持って帰ってきた情報雑誌を、リビングで開いて眺めていたら、いつのまにか明神さんが隣に座って、アズミちゃんがその膝の上に乗って、エージ君 が後ろからのぞき込んできた。 「ヒメノってホント好きだよなぁ…甘いモノ」 「わあ!これも!これも美味しそうー!明神さん!これは?!」 「俺もそれは美味そうだなーと思ってたー」 「アズミもケーキすきー!!」 目の前に本物があるわけでもなく、自分のお小遣いではこれらを食べる日なんて来ないかもしれないけれど、ただ見ているだけでも十分に楽しかった。ただ、 明神さんがこの話題に乗ってきたのはとって意外だった。 「エージ君甘いモノ嫌い?」 「…俺はあんまり得意じゃない」 「明神さんは、意外だったけど好きなんだ?」 「俺好き嫌い無いしなぁ…。それにほら、ケーキってエネルギー源としては優秀だし」 (カロリー高いって言いたいのかな…) 少し複雑な気もしつつ、自分に賛同してくれる人が居ることはとても嬉しい。そういえばバレンタインにチョコレートケーキを作った時も、思いの外彼は喜ん でくれた。普段の食生活は頭を抱えたくなる状態ではあるけれど、どうやらそれほど食べ物の好みは離れていないらしい。 一緒に暮らしている人が、自分と近い感性を持ってくれているのは、とても心地よい事だ。 「そういえば、ミオおばちゃんがゆうびんやさんだったよ?」 「へ?」 「ポストにおてがみ」 留守中に澪さんが来たのだろう。言われてポストを覗いてみると、そこには綺麗な字で「桶川姫乃様」と書かれていた。 それほど中身は入っていないようなので、なんとはなしに開けてみる。 「…ええと、『白銀に貰ったのだが私は生憎忙しい。冬悟から姫乃が甘党だと聞いたので、代わりに行ってくるといい』…何かの券が入ってる。ケーキ・バイキ ングの割引券だ…!」 「澪の姐御さすがだなー。明神と違って甲斐性あるぜ」 「一言余計だエージ…」 「明神さん!行こうよ!!明日お休みだし、お仕事無かったでしょ?」 「あーあー残念ながら暇だよー」 わざとらしく肩を落とす明神さんを無理矢理承諾させる。降ってわいたような幸運を澪さんに感謝しながら、喜々として次の日を迎える準備をする為、鼻歌ま で歌いながら部屋へと戻った。 「というわけでやってきました。ケーキバイキングです明神さん」 「結構男がいることに吃驚してるよ俺は…」 広いフロアに、何組もの女性客、カップル、そして所狭しと並ぶケーキケーキケーキ…。 「こ、これ…全部食べていいんだ!?」 「すげー…テレビでもないと見られないケーキばっかだなぁ」 一緒になって明神さんも嬉しそうに目を輝かせていた。ケーキを選ぶ手は迷いがちでもあったが、嬉しそうにしているのを見るとやっぱり嬉しい。気のせいか 選んでいるケーキも似たようなものが多く、こんなところで食べ物の好みの近さを確認する事になるとは、と少し笑った。 「ん?何か笑ってる?ひめのん」 「だーって、私と同じケーキが3個もある」 「ホントだ。だって美味そうなんだからさ、仕方ないだろ?」 私のお皿の上には6つのケーキ。明神さんのお皿の上には4つのケーキ。 「へへ、明神さんと私って、結構気が合うのかもしれないね?」 「…ぇ」 「前世で兄妹だったかもしれないね」 目を丸くして、何故か絶句する明神さんに、ふと思いつくままにそんな事を言った。 チーズケーキにチョコレートケーキ、フルーツケーキ。名前も覚えられないような沢山の種類のケーキを歓声をあげながら食べる人たちの中で、自分たちも同 じようにケーキを頬張る。どれもこれも美味しくて、程よく甘くて幸せだった。 「ん〜〜〜しあわせ〜〜〜!」 「む、見た目に反して面白い味だ…」 「わぁあんこれも美味しい〜〜〜」 舌がとろけそうな程のおいしさに、顔もゆるんでくる。おかわりを重ねる毎におなかは苦しくなってきたが、ご飯よりもきっと胃袋は量を受け付けてくれてい るのだと感謝した。 「明神さん!次あっちのコーナー行ってみない?」 「あー…うー…俺はもう、いいかも…ごめ、きつくなってきた」 「へ?だって明神さん、私の半分くらいしか食べてないよ?」 「なんか…思ったより…甘さが堪えて………」 「ま、待っててお茶貰ってくるから!」 慌てて紅茶を取りに走る。さっきまで美味しそうに食べていたケーキなのに、突然明神さんはフォークを止めて固まってしまっていた。それほど量は食べてい ないハズなのにと、不思議に思いながら心配で顔をのぞき込む。 「大丈夫?食べ過ぎた?」 「いや、…腹はまだ入るけど、なんだろ、口っつーか舌がもうギブアップ…」 「えー!」 「………俺、自分で思ってたよりも甘党じゃなかったみたい」 そんな台詞と共に、ぐったりと机に伏せる明神さん。まだまだ食べたりなさを感じながらも、ちょっと申し訳なくなってきたので次のケーキを取りに行くのは 止めにした。 とても残念だったけど、多分明神さんはもうケーキそのものを見るのもツライだろう。 「ごめんね、明神さん」 「いや、俺も自分でびっくりしてるから…ごめん」 「やっぱり兄妹なんかじゃなかったねぇ…あははは。私全然まだ食べられそうだもん」 好みは近くとも、甘さに対する耐性は近く無かったらしい。紅茶を飲みながら笑った私に、ふと顔を上げた明神さんが呟いた。 「…ひめのんと兄妹なんか、ご免だよ」 「え?何?」 「兄妹じゃ、困るっていったの」 ぽすっとまた腕に頭を乗せて伏せてしまう。しばらくその後頭部を見ていたが、また私は紅茶に口をつけた。 (どういう意味だろ…) せめてもう少し、この甘い香りの漂う部屋に居るくらいの贅沢は許してくれるだろうと、耳を赤くしている明神さんの隣で未だ味のわからぬケーキ達を眺める ことにした。 終
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