ここは牙の塔の裏庭。
ひとけの無いこの場所に今、一人の女が立っていた。アザリー。
そしてちょうど彼女の視線の先から、二つの人影が近づいてきた。
キリランシェロとハーティアである。
「遅かったわね。」
アザリーはハーティアに向かって言った。
「キリランシェロはジャッジ役?一対一で勝てると思ってるの?」
(たしかに)
キリランシェロは胸中で考えていた。
(一対一なら間違いなくアザリーの勝ちだろう。 味方がいるなら話は別かもしれないけど・・・味方?)
だがそれをキリランシェロがハーティアに聞くより速く、ハーティアが口開いた。
「一対一なら僕が負けるだろう・・・一対一だったらな。」
言ってキリランシェロの肩にほ゜ん、と手を置く。
「行け、キリランシェロ。」
「・・・やっぱり僕にやらせるつもりだったな」
「ほら、どうしたの?」
アザリーが急かしてくる。
「・・・ハーティア、あとで覚えてろよ・・・・」
「銅貨5枚。」
「・・・いいだろう。」
(まあ、途中で抜けちゃえばいいか)
「商談は成立したの?」
「ああ、覚悟しろ!魔女!」
「上等!」
キリランシェロはハーティアに気付かれないようにこっそりとため息をついた。
もっとも、彼らはもう2人だけの世界に入り込んでいるので余計な心配だったが。そもそも、ことの原因はこんなわけである。
その日もチャイルドマン教室はいつものように時間が過ぎていった。
フォルテはいつものように書類にペンを走らせ、コルゴンはいつものように塔を離れている。
そしてあの宿命の姉妹はいつものように破壊の限りを尽くし、
コミクロンは歯車様とやらのもとで人造人間作りに励んでいる。
ハーティアはいつものように女の子に惚れ、振られる。
今回ハーティアは、あのキャロル=スターシア以来初告白した女の子とデートにまでこぎつけた。
そのことをハーティアは教室内の人間‐‐‐‐‐特にレティシャやアザリーには秘密にしていたつもりだった。だが、この姉妹がちょっと本気になれば、秘密を持つ事など無理に等しい。
ちなみにお相手はリプトン教室のマーシー。
サド女などと言っていたのはどうやら照れ隠しだったようだ。
そんなわけで今回、レティシャとアザリーの暇つぶし・・・・もとい、『可愛い後輩のための橋渡し』は始動した・・・。「ふっ、なかなかやるようになったじゃない。これも『恋する男の底力』ってやつかしら?」
(何言ってんだよ・・・)
キリランシェロは、二人とは離れた場所でポップコーンなどつまみながら成り行きを見守っていた。
うっすらと焦げていたりする。
「そうさ、人のささやかな恋心を食いつぶす魔女が・・・。今日はいつものやられっぱなしの僕じゃない!」
(何だよ、それ)
向こうでは、それぞれ同じように焦げた二人がなにやら言い合っている。
それはどうでもいいのだが・・・。
(あれ?そういやティッシは?)
確かハーティアはティッシとアザリーに挑戦状を出したと言っていた。
そういえばティッシは女子寮B館に行ったのを見た。
ティッシの部屋はA館。マーシーの部屋はB館。
これらの情報を並べ、不意にキリランシェロは気付いた。
「ハーティア!ティッシはマーシーの所にいる!!」
それを聞いたとたん、ハーティあの顔から血の気がうせた。
アザリーは肩をこきざみに震わせ、笑うのを必死にこらえているようだ。
どうやら当たりらしい。
それにしてもこの姉妹がこんな連携を見せるとは・・・・・。
「ふ、ふふ、ふ」
ようやく笑いが納まったらしいアザリーは、いまだ放心しているハーティアに右手を向け、
「光よ。」
直後、何の前触れも無くハーティアは炎に包まれた。
炎が消え、炭と化したハーティアに、とどめの一言。
「次も楽しませてね♪」
そしてアザリーは去っていった。
ハーティアの恋も去っていった。