魔術士オーフェンはぐれ旅

第弐話「光差す庭」

<其の参>

俺は、やっとのことで、目的地であるアルカディア邸を視界に入れるところまでやって来た。
 いい加減、太陽の光も西日になってきた時間だ。
 
 「あ、お師様!見えてきましたよ!」
 「やっと、着いたのね〜!」
 マジクとクリーオウが、アルカディア邸を目の前にして、嬉しそうに走り出す。
 「おい!お前ら!」
 俺の言うことも聞かないで・・・
 「また、はぐれても知らんぞ!」
 いくら「はぐれ旅」だからって・・・
 ・・・
 ちっ!俺としたことが・・・
 「どうしたんですか?お師様?」
 「なんでもない!」

 兎にも角にも、俺達は目的地に着いたわけだ・・・
 とっとと依頼を済まして、がっぽりと報酬を頂くとしよう。
 俺達は門をくぐろうとした。
 そのとき・・・
 「お、お師様・・・あの人・・・」
 マジクがそう云って、門の奥を指差す。
 俺とクリーオウがマジクの指差す方に目を向ける。
 
 そこには、邸宅の前に大きく広がる庭の中で、芝生の上に腰を下ろし
美しいさえずりを奏でる小鳥たちと戯れている、一人の女性の姿があった。
 長い髪を一本のバンドで無造作に束ね、少し薄手の衣装をやわらかく纏っていた。
 
 「ああ!あの人、森で見かけた人だわ!」
 クリーオウは彼女を見て、叫んだ。
 
 ほう、もしかするとココの関係者かなんかだな・・・
 俺はちょっと話を聞こうと思って、彼女に話しかけた。
 
 しかし、彼女は一つも口を聞いてはくれなかった。
 なんなんだ?こいつは・・・
 愛想の無いやつだな・・・

 「はははははっ!」
 その時、後ろ側から俺の耳に、大変耳障りな笑い声が聞こえてきた。
 ・・・
 いい加減、聞き飽きたというものだ。
 やつらが関わると、ろくなことにならん。
 折角、がっぽりと稼ぐチャンスだっていうのに・・・
 俺はしぶしぶと後ろを振り返った。
 やはり、何度やられてもこりない地人兄弟のボルカン(兄)とドーチン(弟)か・・・
 「はぁ・・・」
 俺はため息を一つついた。
 「極悪魔術士!俺様の前に、戦う前から疲れたようだな・・・ふははははっ・・・」
 ・・・
 相変わらず、どうしようもないやつだ。
 煮ても焼いても喰えんというのは、まさにこのこと・・・
 俺は、無視することにした。

 「おい、二人とも、とっとと依頼主のやつに会おうぜ・・・」
 「でも、あの二人はどうするの、オーフェン?」
 「ほっとけばいいんだよ、そのうち自分達の存在価値の無さに気が付いて何処かへ行くだろうよ」
 「そうかしら・・・」
 俺はマジクにも声をかけて屋敷へと入ろうとした。
 「おい、マジクとっとと行くぞ」
 ・・・
 しかし、マジクは返事をしない。
 「どうした?」
 俺は不思議に思って、マジクの方を見る。
 すると、マジクは少し離れた一点を見つめいてる。
 ・・・?
 「どうしたんだ、マジク?おい!」
 しかし、一向に反応が無い。
 「・・・う、うつくしい・・・」
 「は?」
 「なんと可憐で美しい人なんでしょう」
 「あのな・・・寝ぼけたこと云うなよ、マジク、なにがそんなに・・・」
 俺はマジクの見つめる先に目線を合わせた。
 そこには、あの無口で愛想の無い女がいた。
 ・・・
 「ま、まさか、お前・・・」

 「こらぁ!極悪魔術士!俺様をほったらかしにして話を進めるな!」
 「に、にいさん、僕もいるんだけど・・・」
 「よく聞けよ、今回の俺様は強力な武器を手に入れたのだ!
  この”くーぴいどう”の弓矢でお前らを射抜き殺してくれる!!」
 俺は、こざかしい地人どもが、なにやら武器を手に入れたと言うので、
しかたなしにもう一度ふり向いてやった。
 ・・・
 そこには弓矢とは言い難いほど小さな弓矢をボルカンが持っていた。
 「・・・どこが強力なんだ?まるで玩具ではないか!
  いいかげんにしろよ、てめぇら、吹き飛ばすぞ!」
 「ふっ、やっとやる気になったか・・・しかし、もう遅いのだ!」
 ボルカンはそう云うと、矢を放った。
 「なめるな!」
 俺は、大したスピードも出ていない矢を手で捕まえにようとした。
 しかし、
 「くっ!地人ごときが二本撃ちだと!!」
 俺はすかさず音声魔術を唱え、輝く光の壁を作り出した。
 俺は二本の矢を完全に防いだつもりでいた。
 しかし、それは一瞬にして否定された。
 矢は光の壁を難なくすり抜けてきたのだ。
 「ば、ばかな!」
 俺はすかさず、身を翻した。
 ひゅっと、二本の矢は俺のわき腹すれすれを通過した。
 ふぅ、と思うのつかの間、流れた矢は運悪くマジクの方へ・・・
 「マジク!よけろ!」
 俺はとっさに叫んだが、無口の女に見とれていたマジクは、矢を避けることが出来ず、
矢はマジクの胸へと突き刺さった。
 「う・・・」
 そのまま、マジクはその場にどさりと倒れた。
 そして、もう一本の矢は、無口の女の方へ飛んでいき、やはり避けることが出来ずに、
胸へと突き刺さった。
 そして、そのまま芝生の上に身を伏せた。
 「マ、マジク!!」
 「いやぁー!」
 俺とクリーオウの叫びが、大きな庭や深い森に響き渡った。
 そして、その声に驚いて鳥達が何処かへ飛び立って行ってしまった・・・

其の四へ