藍色の流れ




藍色の流れ

 藍色の輝きが、流れゆく。
 柔らかな、優しき流れ。
 静かに、静かに。
 止まっていた全てが、流れゆく。

「……ぁ……」

 声が出る。
 音が聞こえる。
 何十年ぶりのことだろう。
 凍てつき、揺らめきを止めていた灯火が、勢いよく燃え始める。
 床に描かれた文様が、力ある光を放つ。

 誰かが来たのだ。

「目覚めて、しまったのか……」

 己が手で砕いた砂時計。
 堰き止めた流れ。
 もう一度、愚かな選択を繰り返さねばならぬのか。

「何故……」

 指の隙間からすり抜ける砂粒の感触が、まだ右手に残っている。
 忘れようとしても忘れられない、苦い記憶と共に。

『……ィ……』

 聞き慣れた声。
 名を呼ぶ声。
 最期の声。

 強大な力を持つが故、
 失ってしまったもの。

 私は流れに逆らった。
 喪失の悲しみより。
 無力な自分への怒りより。
 流れの中で、忘却してしまうことが怖かったから。
 彼の人の存在の証を、せめて己にだけは刻んでおきたかったから。
 流れに負けぬ強さを得るまで、流れを止めようとした。

「それとも、その時なのか……?」

 わからないことが多すぎる。
 堰き止めていた流れの勢いに、混乱する。

 もう、流れに逆らうことは出来ないだろう。
 呑まれ、ただ翻弄し、選択を繰り返すのだろう。
 これからどうなるのか、誰にもわからないのだろう。

「……それもまた、一興、か」

 笑みが浮かんだ。
 時が来たのだ。
 迷い、苦しみ、新しい流れに挑むときが。

 もう、忘れはしまい。
 彼の人の心を。
 もう、堰き止めはしまい。
 自然な時の流れを。

 扉が音を立てて開く。
 流れに負けぬ強さの瞳が見える。
 あれが、私の新たな流れなのだろうか。

「何故、私の時を動かした……?」

 藍色の輝きが、流れゆく。
 柔らかな、優しき流れ。
 静かに、静かに。
 止まっていた全てが、流れゆく。


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羽柴清香様からいただきました♪
この私に時の君なんて・・・弱点を知っとるね♪
美しいです・・・♪


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