99/08/01
   BANG DOLL
   PROLOGUE #00xx1
 
 被検体
Code Number00957
"Redδ" .......................................................
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―――――――はじめまして、私は邑輝一貴
――――――貴方の名前は都筑麻斗
―――――私は貴方の義兄にあたる者です。貴方を迎えに来ました。
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お義兄さん?
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ひとつめは失敗した
我ながらどうかしている
 
 
 
 
 
 

「ふじ…あやめ…ききょう、たんぽぽ。これは…さくら?」

キラキラ光るお菓子の中で踊る花々。
一階のリビングに、たどたどしい声で花の“なまえ”を読み上げる“義弟”の姿があった。
「えーっと…さくら、あじさい…こっちは…うめ!」
「ただいま…都筑さん」
「あ、おかえり。早かったね」
「何をしてるんです?楽しそうですね」
執事が夕飯の支度をしたので一緒に食べましょう、と告げる間も与えず都筑がにこやかに話し始めた。
「ほぅ、羊羹ですか…」
「うん、水羊羹!早くお義兄さんに食べて貰いたくて!!買って来たんだ。ほら、綺麗でしょ?中に」
「外に…出たんですか?」
「あ…」
都筑がしまった、というような顔をして青くなる。
毛羽立った義兄の表情に、心臓を掴まれたような心持ちになった。
この義兄は自分が外出する事を極端に嫌うのだ。以前は庭に出るのさえ許さなかった程である。この家の執事を使いに走らせ取り寄せた和菓子なのだ、とでも言えば良かったと思慮の浅い自分を深く省みる。
「あ、あの…」
義兄と言ってもそう告げられてからまだ3週間の俄兄弟。
病室で目覚めた時、自分は両親を無くして身寄りのない記憶障害の患者だと告げられた。
その後直に、腹違いの義兄が現れて都筑麻斗を引き取りに来た。
何より、事故によるショックで記憶をなくしたためにくる得体の知れない心細さを義兄は暖かく迎えて入れてくれた。現在…一番身近で、頼れる人はこの人だけなのだ。
それに…ときおり見せる綺麗な顔立ちに惚れ惚れするほどの凛々しさを傍らで感じる。仕事における周囲からの評価も高く、都筑にとっては自慢の義兄なのだ。
あと数年たったらこんな風に落ち着きをもてる流麗な紳士になれたら…と密かな憧れの対象…
いろいろ詰まる想いはあっても、この人だけには嫌われたくないという一途な義弟としての感情が義兄に向かう。義兄にだけは何があっても点がいい。家族という繋がりに今は感じた事のない嬉しさも隠しきれないのだし…
ばつの悪そうな表情を見てから、邑輝が笑顔を作ってやる。彼の曇った顔を食前に見るのも興ざめだからだ。それになにより彼は自分の笑顔を見ると真実、安心するらしい。
これも何かの役得と言った所だろうか。
「…別に怒ってはいませんよ。でも、判ってますね?」
「は、はい…ご、ごめんなさい」
いけない事をしたら都筑は罰を受ける事になっていた。罰といっても邑輝の書斎の本の整理を手伝ったり、美味しいコーヒーを部屋まで持って来るといった程度のものだが…
「お義兄さん…ごめんなさい…気を付けるから…赦して。ごめん…ごめんね」
だが、義兄を困らせる事をしたと認める事自体、都筑にとっては苦痛である。
にっこり微笑み、構わずいつも赦してくれる所にこんな時ばかりは気後れする。
「いいですよ。そんなに謝ることもありません…水羊羹を買って来てくれたのにどうして?」
「もう…しない…から」
「美味しそうなお菓子ですね、透明で光を吸い込んでとても綺麗な…」
都筑はさっきまで夢中になって読み上げていたお菓子の話を義兄が振ってくれたのでほっとした。そして、顔をあげて買って来た羊羹の話を続けた。
「…あのね、中に花びらがはいってるんだよ。これがウメ…これがキキョウ、タンポポにサクラでしょ」
「ああ、花を模した小さな砂糖菓子が羊羹の中にありますね」
都筑がウメの羊羹を取り上げて窓の上に照らした。
「もう陽は沈んじゃったんだけど、こうやってね、…お陽様に当てたらキラキラ光って凄くきれえなんだ…宝石みたい」
――――――それは貴方も同じでしょうに…
「こんなに綺麗なのにお菓子なんだよ…食べちゃうの勿体無いくらい」
――――この世の生きた原石なんですからね…
「一緒に食べよう、後で食べてね。夕飯の後、お部屋にお茶とお菓子を持っていくね」
「雅ですね」
それが此度の罰だと、義兄は仄めかす事をしなかった。

お義兄さんが美味しそうに食べて、喜んでくれる顔が見たいんだ…
きっと凄く美味しいから
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