「邑輝!カラダ貸してね!」
「え…?」
――――ゴンッ…
それからしばらく…記憶が途絶えた。
「うーん…いてて…頭ズキズキしちゃうよ、頭突きなんかでほんとに大丈夫なのかよ?」
「いよっしゃぁ〜成功やぁ!!(えっへん)」
「亘理?…どう?俺…」
亘理が手鏡持ってきた。鏡に映る自分の姿は…アッシュブロンドに銀の瞳の端正な男ぶり。
「ほらほら、都筑!バッチリや!邑輝の旦那と入れ替われたでぇ〜!」
「うわ、ほんとだ!やったぁ、さっそく巽んとこ行って手伝ってこよぉ〜っと!」
「ああ、待て待て都筑、わかっとるな…今ちょうど昼飯時やさかい、え〜っと」
「わかってるよ、夜中の12時頃までだろ?それまで俺のその身体あずかっといてね〜夕方には戻ってこれるよ〜」
ソファーに眠る都筑の身体には…邑輝の魂が眠っている。
「巽ィ〜おかえりィ〜(抱き抱き)」
「…!!!」
課長の臨時の代理として総会から戻って来た所を、邑輝に抱き締められた。
邑輝の姿で無邪気に抱き着く都筑…
信じられない、という蒼白な顔して都筑をべりっと剥しにかかった。けどふりほどけない。
じたばたしている巽。
「は、離してくださいよ!なんなんですか、あんたは!(ゾクゾク)」
「出張ご苦労様〜3日ぶりだね〜!ね、いつものキス」
「ちょっとドクター…?!(なんだこの口調は…?)」
おかえりなさいのキスを都筑がした。
「…!」
口を塞がれて荷物とコートがドサドサ床に落ちた。
なんだか体中の力が抜けていった巽…
「あれぇ、巽ってけっこう細いんだね。あ、そっか俺がこんなカラダだからかなぁ〜(すりすりさわさわ)」
「…(この喋り方…よもや…)」
黙って…眉間に皺を寄せている巽の心中にようやく気付いた都筑が説明にかかった。
「ああ、俺だよ、俺!」
「都筑さん…なんでまたドクターなんかになってんですか!!?」
「へへ〜、お手伝いしようと思ってさ〜、これから残業なんだろ?」
「ビックリするじゃないですか!!あんたはいっつもいっつもロクな事しないで!どうせまた亘理さんとつるんで」
「まあまあ、さっき課長に聞いてさぁ。毒物事件での鑑識結果の書類、いきなり回されて一日じゃさばききれないんだろ?邑輝だったら…」
巽がじっと見つめてる。
はしゃいでた都筑がはっと我に返った。
「それで?」
「邑輝だったら……」
「だから?」
「……あの、その(ごにょごにょ)」
「アナタに何ができるんですか?(うんざり)」
「……(そうだよ…見た目が邑輝でも中身が俺だったら…難しい仕事なんてできるわけないじゃん)」
「ドクター自身が来たほうがよっぽど能率があがると思いますがね(何にも考えずにしたんでしょうねぇ…)」
「…ぅ」
都筑がシュンとなった。
溜め息ついた後に巽が微笑む。
自分のために都筑が来てくれたのだ。その優しさを無駄にはしたくなかったのだ。
「まあ、…お手伝いして下さるんなら歓迎しますよ。せっかくの心遣いは有り難いですし…」
「お、お茶くらいなら入れる事できるよ…」
「じゃあ、お願いしますね。喉が乾いてるし…お土産のお饅頭も一緒に食べましょう。(クス)」
「うん!」
――――能率が下がる一方でしょうね…(苦笑)
残業は夜遅くまでかかった。
お茶を入れてお弁当を買ってきたりして…他に大して役に立たないから退屈になった都筑。
弁当食べて、早々にして8時過ぎには眠りこけてしまった。
ぐーすか眠る都筑は置いといて巽はさっさと仕事をこなす。
「ふぅ…」
やっと終えた。
もう日もどっぷり暮れていた。
コピー機を途中で都筑がぶっ壊してくれたため巽がそれを修理した。
ちょっとした紙詰まりだったのでさほど面倒な事はなかった。
一息いれてお茶を飲んで一服してたら、…横で眠る都筑の眠気に誘われてそのまま巽も寝入ってしまった。
―――…
(…いけない、一安心したせいかうたた寝してしまった。さっさと帰ろう)
帰り支度をしてから、巽はゆさゆさと都筑を起こしにかかった。
「都筑さん、起きて下さいよ!帰りましょう」
「…う…ん」
「都筑さん、起きなさい!!ほら!」
その時フッと部屋の明かりが消えた。
「…停電?…また亘理さんか…全く、変な実験ばかりして!(この前も庁舎中の電気を落としてくれたし…始末書ものですね、あの人は!)」
「た…つ…」
手を握られた。都筑が起きたのだろうと巽は思った。
「暗い…ここは…」
「ああ、大丈夫ですよ。すぐに予備電力が働きますから」
「……」
「しかし、復旧までには時間かかるかもしれませんね…部屋のロックまでかかってしまいましたがなんとかこじ開ければ大丈夫でしょう(亘理さん、あんたはロクな事しませんねぇ…)」
「停電…そう…(クス)」
「都筑さん?…!」
握られた手でぐいっと引っ張られた。
巽が下のカーペットに不意に押し倒された。
凄い力だった。
「ちょっと、都筑さん…何を寝ぼけ…っ…」
唇を塞がれた。
昼みたいに、また都筑がふざけてるんだろうと巽は思った。
しかし、長いキスで…昼間と全然違う感覚で…
酔いも頂点に達して気が遠くなりそうな口付けだった。
巽は自分のほうがなんだかついていけなくなりそうなのを感じて被さる都筑をバッと離した。
でも力づくでねじ伏せられた。抗いも意味がなかった。
自分のシャツを慣れた手つきで脱がされて…
「つ、都筑さん…なんだか…ちょっと…これじゃ…っ…!」
これじゃいつもドクターや自分がアンタにしてる事じゃないですか…って言いたかったが声が甘い喘ぎに変わっていって…
「あ…ちょっ…やめっ…」
首筋に噛み付いて愛撫を施されて…巽がぞくぞくしと奇妙な感度に狂わされ始める。
露にされて、躰を下まで舐めて吸い取られて…
慣れた手つきで擦られて放ってしまった巽…
「…っ…都筑さん…いい加減に!…もう帰りま…」
「そのまま…黙ってなさい」
「…!」
闇に紛れて行うには、この停電は絶好の機会だったらしい…
巽の淡く美しい瞳を見るには少々不便だったが…
停電は90分後に復旧した。
深夜、疲れ果てて気を失ってた巽が目覚めた。
それを見て、邑輝がコーヒーを飲みながらクスクス笑ってた。
あのくせのある微笑みは…都筑はあんな笑い方しない。
「…そんな、まさか…」
脱ぎ捨てられた服をもそもそと集めて着て…へたりこんで脱力している巽を見て邑輝は満足ぎみな顔で話しかけた。
「コーヒーいかがです?」
「…」
「ああ、でも貴方のほうがこのコーヒーよりもよっぽど美味しかったですよ。(クス)」
あの時、起こした時…都筑の魂は元の体に戻ってた。
寝た相手は…邑輝…
途中から変だとは思っていたが…
巽が真っ青になって硬直してる。
その時、バタンとドアを開けて本来の姿の都筑が入ってきた。
「ねえ、停電直ったんだよ。帰ろうよ、二人とも…巽、どうしたの?」
「…い、いいえ…別に(ふるふる)」
邑輝が失笑している。そして、煙草を消して上着を着てから立ち上がった。
「さ、皆さん帰りましょうか。帰って3人で新たに仲良くしましょう。」
「邑輝、どういう意味?いっつも3人でいるじゃん、俺ら」
「もっともっと仲良くするんですよ…ね、巽さん?」
邑輝が座り込んで動けない巽の手を取って、さくさくと帰り支度を始めさせた。
よく意味が分かってない都筑に、巽がぽつりと答えてあげた。
「…もっと幸せになるって意味ですよ。(信じられない…こんなの)」
「うん、そだね」
Fin