FUGUE4
「…もぅ…そろそろ答えを!」
早くしないと2ヶ月が過ぎてしまう。
自分の手におえなければ…都筑は抹殺されてしまう…
とりあえず冥府にだけでも戻してあげなければ…
「答え?まだ、ボーダーにも乗っていないのに…おかしな事を…」
わざと訝し気にそう言って…舌を転がして遊んでいる邑輝…
「…くぅっ!」
これで何度目の…枯死させられそうなほどに遊ばれている。
もう意識も朦朧としている。
指を立てて邑輝が突然肋骨の真ん中を突いてきた。
「何を!」
一点の痛みに巽が意識を引き戻される。
「ここと…ここをこうして押さえると…」
「ウア…ッ…」
「ほお、なかなか落ちないとは…これならどうです?」
ググッと力を入れて下へ指を突き刺しながら這わせる。内臓を皮膚の上から抉り出すような仕種である。
「腹式呼吸してご覧なさい…そのほうが楽ですよ…酸素が無くなってけだるくなって…。クックック…」
完全に玩具にされている。
巽が息絶え絶えにも言葉を綴る…
「…つ…都筑さんは?…ほんとう…に…無事なんでしょうね!?」
邑輝は無視して巽を貪る。
「聞いてる…んですか?…っ…」
「昨日、久しぶりに都筑さんと寝ましてね…」
「な…!」
巽ががばっと起き上がった。激痛が胸を走ったがそれでも構わず…
「邑輝!貴様…!」
「寝た、だけですよ…貴方も昨日はひさしぶりの『お休み』でゆっくりできたでしょう?」
「いつになったら治すんですか!!?もう気が済んだでしょう!お遊びなんてこれくらいで…何です、それ?」
邑輝が脱ぎ捨てられた上着から手帳を出した。
「キーワードがあるんですよ…ここにね。」
「…?」
ページをピッと破いて拳の中でぐしゃっと潰した。
「都筑さんを蘇生させるある言葉がふたつ…言霊でしょうか……催眠療法、とは違った類のものですが、私のオリジナル…」
巽がそれをもぎ取ろうとした。
「おっと、いけませんよ。そう簡単にはお渡ししてあげませんよ。」
「…どうすればいいんですか…?」
今度はどこまで楽しませろというのだ…
「昨日、お休みした分を取り戻しましょうか…その手厳しい口で始めてご覧なさい。上手くできたらひとつめの御褒美をあげますよ…」
「…」
「返事は?」
「判りました…」
…巽が従順な傀儡になった。
どんな屈辱にだって耐える事…それが彼のためになるなら…と
―――――徹底的に堕として叩き潰してやる。これこそ私の本懐だ…貴方は実によく踊ってくれる。…おかしくて笑いがとまりませんよ…
熟れた駒と堕ちた駒が揃った。
ジャッジを下すのはゲームの達人…
昼になって邑輝が都内の老舗の古書店へ行って注文していた本を取ってこい、と巽に命じた。
さんざん人の躯を弄んで酷使しておいた後でも構わず、こういうことをさせられる。使い走りのような事も時々させられているのだ。
疲労した身を叱咤して巽が徒歩で行った。
店主に二階の奥に置いてあると言われたので進んだ。疲れがどっときたのか階段を昇るのもだるい。
ぼうっと足元に並ぶ本を見ながら歩いていたら棚の曲がり角で、脚立にぶつかった。
うっかりしていた。
とっさの出来事…
「危なっ…!」
足元がおぼつかなくて青年が落ちて来た。慌てて受け止めようとした巽が彼の身を抱き寄せたがバランスを崩してドスンっと…
ふたり共埃まみれの床に寝転ぶ。上から本も数冊落ちてきた。
「…っとこれは失礼しました…お怪我は?」
胸の上に重なる青年を見て巽が驚く。驚きの余りに言葉につまった。
「え…都筑…さん…?」
「…ったぁ……そっちこそ大丈夫だった?」
バサバサと頭上に落ちてきた本を払いのけて都筑の腕をがしっと掴み顔を覗き込む。
本当に彼だ。
いきなり強く両腕を掴まれてしまって、都筑がきょんとする。
「都筑さん、どうしてここにいるんです!!?」
「……えっと…?」
「私ですよ、巽です!」
「ああ、こないだのお客さんだ。久しぶりだねぇ。」
「今までどこに!!?さんざん探し回って…私は…」
巽がはっと我に返った。
再会の感激なんてしてる場合じゃない。
わざわざ、古書店なんかに自分を行かせたあの男の意図は?
都筑が居る事を判っていながら自分を接触させる。
何か意味…
それに今は、この人はただの人間だ。記憶も失って、術も能力も何一つ使えない体なのだ。
自分が連れ去る事なんてたやすい。
「あのね、俺今日からここで本の整理の仕事するんだよ。家にいてもつまんない…って言ったら邑輝がここを紹介してくれたんだ…」
「…家?」
「今は大きな桜の木がある屋敷に居てるんだよ。もう散ってしまってお花見はできないけど。ここからそう遠くないよ。巽も遊びにおいでよ。」
その時、巽の携帯電話が鳴った。
邑輝に持たされていた携帯である。
「巽さん?本はありましたか?」
「…」
「急用ができましてね、ホテルに戻って来なくていいですよ。その本、次の時に持って来てください。それでは、急ぎますのでこれでお開きです。お疲れ様でした。」
プッ…――――
電話なのに一言も話さない巽を見て都筑が首を傾げていた。
しばらく考え込んでた巽…ようやくこっちを見た。
目があったのでにっこりと微笑んであどけない顔をかざす都筑…
―――――連れ去るのは今しかない…
奴が何を企んでいようとも…期限がせまっているのだ。
躊躇してる余裕がない…
「…都筑さん、私と来てくれませんか?」
「来てって…どこへ?」
「貴方が本来居るべき場所へ…」