Kiss Kiss Kiss1
 

 

<#1 SALVATION>
 
 


「…ねぇ、どうしてそんなに上手いの?」
腕の中で都筑が呟いた。うとうとしながら巽に囁く。
「はぁ?…上手いって、それは…」
「どぅしてぇ…?」
直後にこんな事聞かれたって、率直には答えづらい…それに、これは誉め言葉なのかどうか迷って巽がたじろぐ。
「あの…ですからそれは…(何て言ったら…)」
「すごく気持ちいいんだよ…巽のキス…」
むにゃむにゃしながら都筑が眠りに就いた。
なんだ、その事か…と巽が安堵する。上手いなんて言うからあの事かと勘違いして、飛躍的な考えに到達した自分を省みてしまった。
「お褒めいただき有り難うございます…」
思わず苦笑してしまう。
すかぁーっと眠る都筑を抱き寄せた。今夜はけっこう冷え込んでる。
相変わらず天使みたいな寝顔だ。幸福感に浸りながら巽が見惚れる。
―――――ずっとずっと側に居ますよ…
時々、にへーっとしている都筑を見て巽の口元が緩む。楽しい夢でも見てるのだろう。
「ぅー…ん、…今度は…チョコレートケーキがいいなぁ…(ごにょごにょ)」
「はいはい」
寝言に相づち打ってしまう…
「レーズン…入れてね…」
「判りましたよ…」
面白い寝言に巽がくすくす笑ってしまう。夕食後にあれだけアップルパイを食べて食べて…食べ過ぎて、本人ももう当分ケーキもパイも
いいとか言ってたくせに、もうケーキの夢などを見るとはなんと切り替えの早いことか、と思ってしまう。
都筑の唇に指を這わせた。
「愛してますよ、私の…」
眠ってるんだから聞こえやしないだろうと思って巽が名を言った。
「私の…麻斗…」
抱いてる時だってお互いにこの名で、呼応する呪文のように呼び合っているのに、そうじゃない時に口にするのはなかなか不慣れで気
恥ずかしいものだった。
もっともっと親密に、これからも永遠に互いを呼び合える事を願って巽も眠りに就いた。
甘い時間に酔える事に幸せを感じながら…
 

―――――――今日こそ言葉に出したい…
「トカイワインって初めて飲むよ、すっごく美味しい!!」
「喜んで頂けましたか?」
「うん、甘くてコロコロとろける味がたまんないね〜」
巽がデザートを取りに行った。
「わぁ、アップルパイだぁ!!」
「さっき焼きあがったばかりなんです。どうですか?」
「むちゃくちゃおいしい!ありがとー」
ぱくぱくと食する都筑を見て巽はくすっとわらう。
――――――…もう喉まで出てきそうだ…伝えないと…
「…都筑さん…私のアップルパイずっと食べていってくれますか?」
「うん、おいしいもんね、最高だよ」
「…私の料理、私の全て…何もかも受け止めてくれますか?」
「巽…?」
「ずっと貴方と時間を重ねていきたい…」
「…」
「この場で言っていいのかどうかわかりません…もっと雰囲気考えるべきだとはおもったんですけど、我ながら不器用で…」
巽がポケットから箱を出した。蓋を開けて都筑に差し出す。指輪だった。
食べるのを止めて都筑がフォークを置いた。
「愛してます。結婚してください」
やや唐突かと思ったが言わずにいられなかった。ここ最近ずっと持っていていつ切り出そうかと悩んでいた。
「あ…たつみ…」
突然のプロポーズ…だが、胸の内から嬉しさがだんだんこみ上げてくるのは確実だった。
ぽろっと涙が出てきた。
「都筑…さん…(いきなりすぎてびっくりさせたかな…)」
「え…と…あの」
「…(なんだか私達ってどうしてこう展開が極端なんだろ…)」
「あ…あの…俺、借金山ほどあって、やっぱお前に養ってもらう事になっちゃうけど…」
涙を拭いながら都筑が皿を見て喋る。瞬きを何度もして瞳いっぱいに艶がかかってきた。
「…しゃ、借金?」
「それに、…今のアパートひきはらうんだったら…早めに大家さんに言わなきゃ…」
「あの…」
「家賃…滞納してていつおん出されてもおかしくないのに……だから、せめてこつこつかえす事もしなきゃなんないし…」
「あの…都筑さん…」
「伯爵にも払えってこないだも言われて…」
「…」
「あ…あれ?…何言ってんだろ…ごめっ…なんか混乱して…(そうだ、返事しなきゃ…返事も言わずに何言ってんだろう俺…)」
巽の目を都筑が見返した。
「巽、ありがとう、すごくうれしい…俺もお前とずっと居たい…一緒に時間を歩みたい」
「…私と…結婚してくれますか?」
「はい…」
頬を赤めて都筑が答えた。
 

バタバタと廊下を走る音が近づいてくる。血相を変えて慌てる意外なその人物に、通り縋る皆々がびっくりしている。
「都筑さんっ!!!」
「アホっ!静かにせぇや!」
ガラっとノックもせずにドアを開けて入って来た巽を亘理がどなる。
「すいません…あの、倒れたって…都筑さんは?」
巽がゼハゼハ息を切らしている。
「熱高いんや、今眠っとるわ…まあちょっと体弱ってるな」
「職員の間で風邪、はやってますからね…昨日も彼、あんまり食欲なかったみたいですし…」
亘理が窓際に座って手招きした。 巽が寄っていった。
「…何ですか?」
小声で亘理が囁く。
「おまえら、どないな夫婦生活しとんねん…ちったぁ加減せえや」
「…」
巽がよろっとデスクにもたれた。顔がひきつった。
「あ、…そのせいで…都筑さん…」
「相思相愛も結構やけどなぁ壊すなよ」
「……反省します」
「あまりおすすめできへんな、しばらくは…判ったな?」
「はい…」
「大事にせぇや…めでたくゴールインしたのはええけどはりきりすぎて度が過ぎるのはなぁ…夢中になるのも判るけどさぁ」
「…あんまりにもその…つい…いろいろ…(…我を忘れてそりゃもう凄いんです…)」
「カルテ、うまいこと誤魔化しとくさかい…伯爵にばれたらあかんやろ?お前の風当たりまた強なるしな」
「…ありがとうございます」
巽がほぉっと溜め息をついた。 その時、ちょうど都筑の声がした。
「亘理ぃ…のどかわいたよぉ…水くれ…あれ、巽来てくれたの…」
「はい、都筑さん、お水」
飲み干してから都筑が謝る。
「仕事…途中で放っておいたまんまなんだけど…どうしよ」
「そんなのいいですよ、私がやりますから気にしないで休んで下さい」
「でもあれくらい自分でやれって課長にきつく言われてるし…」
熱っぽい頬を撫でながら巽が微笑む。
「いいですから、私に全部まかせて!今の貴方にそんな事させたくないんです」
「巽…」
「体の方が大事です。安月給の仕事なんかよりも何万倍も貴方のほうが大切なんです」
「たつみ…」
「貴方の辛さは私の痛みでもあるんです。貴方に辛い思いをさせているのに、…配慮の足りない私が馬鹿だったんです…すいません」
「そ、そんな…そんな事ないよ!俺、全然…い、嫌じゃないんだから…」
「でも、都筑さん…」
「いいって、いいって…気にすんなって…」
「麻斗…」
抱き寄せた新妻のなんと可愛いことか、と巽がじーんとする。
「ね…気にしなくていいから…」
「…麻斗」
互いに見詰め合う二人… 亘理が咳払いする。 はっと二人が甘い世界から戻った。
「…もう就業時間やさかいお前ら帰る仕度したら?…その続きはここじゃないとこで頼むわ(あ〜、あっつぅ…燃えるわ…)」
 

新居に二人が戻った。都筑を寝室へ運んでから巽が夕食の準備をし始めた。
 

就寝前
「寒くないですか?毛布もう一枚持ってきましょうか?」
「大丈夫、巽がいるもん、十分あったかいよ」
ぴたぁっとくっついて都筑が巽に話し掛ける。
「すっごく抱き心地のいい枕があるから寒くないよ」
額に手を当てて巽が言う。
「まだ熱いですね…もう上がらなければいいんですけど…」
「ね、いつもの」
ごちそうを期待する小犬みたいな瞳で、お休みのキスを都筑がせがむ。 伴侶の身の心配で一日を過ごしていた巽の心を都筑がくすぐ
る。甘ったるいきょろんとした大きな瞳が大丈夫だよって言って気をそらしてくれてるみたいだった。
大好きな人、大切な人…側にいられるこの瞬間に巽が幸福感で満たされる。一緒に居られるだけでなにもかもが清新されるのだろう…
ゆっくりと優しい口付けが始まった。
「…んっ…ンゥ…」
都筑が重なる巽を引き寄せて舌を絡める。巽の丁寧なご指導のせいかもう手慣れたものである。 この甘みに酔いしれる自らに火がつき
二人とも熱くなる。 深くて濃厚な口付けになっていった。
(ああ…本当に貴方にどれほど私は救われたか…)
「…麻斗…愛してますよ…(何度言っても尽きないこの言葉…真っ直ぐ言い切ることのできるこの自分を貴方が受け入れてくれたなんて
ほんとに未だ信じられない…)」
「…んぅ…ぁ…っ」
だんだん都筑を甘噛みし始めて…
「…」
…巽がガバッと身を引いた。
「…(いけない…!これ以上は駄目だって言われてるのに)」
「…んっ…巽?」
「…もう、寝ましょう…」
様子を伺う都筑が了解しようとする。
「あ…大丈夫だよ…続…けても…俺…平気だから」
あがった息を整えて甘い瞳をしている都筑が言う。だけど、どこかまだ顔色は悪そうだ…
「いいえ、きつく言われてるんです。駄目です、貴方の身のほうが大切なんですから!」
「…ど、どれくらい…駄目なの?」
「しばらくは…ですね…亘理さんにちゃんと聞いときます…私ほんとに反省してますし…」
「そ、そう…何てことないんだけどね…(なんか恥ずかしいないぁ…こういうシチュエーション)」
都筑がもじもじしてしまった。桜色の頬に巽は守護的な慈しみでいっぱいになる。うすい顎に触れて巽が額に口付けする。
「おやすみなさい、麻斗」
「おやすみ、巽」
「巽じゃないでしょう?(クスクス)」
二人の時に呼び合うファーストネームを巽が求める。
「せ…征一…郎……やっぱ…まだ慣れてなくって」
「わたしはもう慣れましたよ、麻斗」
「順応はやいよな…お前って…」
「そうでもありませんよ、さっきだって…踏み込み禁止令を危うく破る所だったんですから」
「…もっかいキスして…そしたら寝る」
寝る前のグルメに都筑が満たされた。その夜とても幸せな夢を見た。
 

―――――…づきさん…つづきさん?
「…ぅーん…あ、おかえりぃ…早かったね…まだ眠ぃや…」
―――――寝ぼけていらっしゃるんですね。相変わらず可愛らしい方だ…それこそ奪いがいのあるというもの…クスクス
「…?…何?…なんか重たいよ…って…!!?」
「こんにちは、都筑さん」
「げぇ!!邑輝っ!!」
「午後3時…こんな時間までお休みとは今日はサボりですか?」
眠ってる間に邑輝が侵入してきたのだ。
「ちょっ…どけよ!!お前、人ン家に、何勝手に上がり込んでんだよ!!」
横たわる身に圧し掛かるように邑輝が都筑の両腕を押さえ込んでいる。
「いえいえ、貴方のアパートに行ったら引っ越しなさったっていうじゃありませんか…しかも…彼との新居に移っただなんて聞いて私はそ
らもうビックリしましたよ」
一人で勝手にサクサク喋り始める邑輝…
「俺が何しようが勝手だろうが!!しばらく来ないからもうあきらめたんだと安心してたらオマエはまた!!」
「結婚とはねぇ…先手を打たれましたよ…私がちょっと仕事で忙しくて貴方の元へ通い夫できなくなった矢先にここまで急展開とは…」
しみじみと悔やみを語る邑輝に都筑が言い返す。
「あのなぁ!!ありもしない事を口走るんじゃねぇよ!お前と俺はなんの関係もねぇんだよ!!な、何が通い夫だ…」
「口付けまでした仲じゃないですか…その先だって…(クスクス)」
「違う違う!!(てめぇが一方的に)(泣)」
「そうですよねぇ…邪魔なあの坊やさえ来なかったら全てやり遂げたというのに」
「貴様、いつまでも乗っかってんじゃねぇよ!どけって、重たいんだよ!」
「ああ、久しぶりの都筑さんだ…」
感慨ひとおし…ぎゅぅぅっっと邑輝が都筑を抱きしめる。
「やだっ!離せよ、…なっ、何処触ってんだよ!!ヤメロってぇ!!(もぉ今、俺、調子悪いんだから…)」
邑輝が少し都筑の変化に気付く。
「…おや、少しやせましたね…抱き心地が変わっています。苦労してるんですか?」
さわさわと都筑の身体を両手で物色し始める邑輝が平然と話す。
―――ゾクゾクッ…
「触んなって言ってんだろ!このへんた…ンッ」
唇を奪われてしまった。満身の力も出ずに強く組み敷かれてしまった都筑…
ガリガリッ…
「っ…!」
邑輝が離れた。予想していたとはいえさすがに手強い。 しかしこれだからゲームは楽しみがいがあるというもの… 自
らの血をぺろっと舐めて無敵に微笑む邑輝…
「ずいぶん仕込まれてんでしょうね…貴方、前より反応が過激だ…」
「うるさいっ!!(怒)」
「さっきだって寝ぼけて私を誘い込む手口の艶やかなことこの上なく…」
「うるさいうるさい!!」
「私が奪うつもりだったのに…あの御仁、なかなか手が早い…見くびってましたよ…てっきり見てるだけのサイドに徹するかと思いきや
…」
「…頼むからどいてくれ…熱のせえで頭痛いんだよ…(巽ぃ…帰ってきてよぉ…電話して知らせたい…)」
「…まあ…いいでしょう…様子見に来ただけですしね。それに場所も分かった事ですし一応敵情視察はこんな所でしょぉか」
思いのほか邑輝があっさり退いた。重みからようやく解放されて都筑が安心する。
「…しかし、本当に顔色悪いですね。このやつれよう…私が来たせいだけじゃないみたいで…(クスッ)」
かぁっと都筑が赤くなっていく。 こいつには判るのだろう…
「帰れ…」
「でもぐっと色っぽくなりましたねぇ…そこらの女の変化よりも煽られます」
「2度と来ンなって!!」
「早く元気になってくださいね。そしたら続きを遂行できますし…私とて弱ってる貴方を虫食みたくはないですから」
にっこりと邑輝が話す。相手の都合おかまいなしのこの強引さ…
いい加減頭に来て都筑が枕を投げつけた。
「ふざけんなっ!!続きなんて誰がやるか!!」
立ち去らない邑輝にぽいぽいと都筑がそこらのモノを手当たり次第投げる。 この可愛い反応を見て、ひょこっとかわしながら邑輝が言
う。
「また…お会いしましょう…養生してくださいね。加減というものを自覚させてあげなさいね、彼に。」
「出てけ!!」
茶々いれるのが面白いらしい…
踵を返して邑輝は去ろうとする。
「そうそう、あまり無茶しないでください…イロイロと…大変でしょう?」
都筑が電気スタンドを投げつけた。同時に邑輝は扉を閉めた。ドアにがしゃんと当たって傷が付く。
(…ああもう、サイテーだよ!!あいつに居場所バレルわ、抱き着かれるわ、変な勘繰りされるわ…)
シーツに一点、血が滲んでる。さっき噛み付いた時に流れた邑輝の血液だ。
自分の唇にも少しこびりついていた。
ごしごしとそれを拭ってふきとろうとする都筑…
「…やだな…とれない…気持ち悪い」
舌でぺろぺろ舐めて落とした。
ふと思う…鉄の味なんて…何かに似てた。
不本意に束ねられたあの時に流した傷に少し似てるな…という記憶が頭をよぎった。
――――巽に初めて抱かれた夜だったっけ…

To be continued,,,
 

 #2