「――腹へったぁ」
視界を埋め尽くす広大な森。その中に少年はいた。
「空腹で死ぬのは俺が初かな?」
「いやいや、マイナス思考ではいかんな」
少年はだれに言うのでもなくブツブツという
「はぁ・・・そこら辺の野草やら山菜でも食うか・・・」
少年――サードは諦めたように辺りの草に手をのばす
長めの銀髪。同じような灰色の双眸。両手にはめた紅い宝石のついたグローブが時折、妖しい光を放つ
「ふう、これだけあればいいだろう」
腕一杯の草を抱えサードは投げやり気味につぶやいた
「えーと、鍋はどこかな」
ガサガサと袋を探る
「あった」
「まず、水を入れて・・・後は米にさっき採った野草だろ・・・あと、そこら辺に生えているキノコでもいれるか・・・」
レシピのようなものを繰り返しながらサードは料理を作りだす
しばらくして、グツグツとなんともいえない匂いが森の中に漂う
「う・・・作ったはいいが食えるのか?これ・・・」
サードは自分でヤバイものを作ってしまったと心の中で悔やむ
「まあ・・・食えばわかるか」
サードが料理を口へ運ぼうとした瞬間・・・
ガサッ
「!?」
サードの背後で草のかすれる音がする
サードが背後を見るとそこには男が立っていた。顔は薄暗くてよく見えない
「・・・サード・・・か?」
抑揚のない声で男が言った
「だったら?」
応える表情にはなんの感情もない
「・・・手合わせ願おう」
刹那、男の手がかすんだ
ギィィィィィィン!!
男の刃がサードの抜きはなった刃に触れあい、凄まじい絶叫が森の中を駆け抜けた
「いきなりかよ・・・」
近くでは男の顔がよく見える
その男はサードより頭一つ半ほど高く。黒のシャツに革製のグローブとブーツという平均的な服装。少し日焼けした平凡な顔立ち。
ただ、瞳だけが異様な殺気を放っていた
サードは大きく跳び退き間合いをとる
男はサードが間合いをとったと同時に仕掛けた
振りかざした両刃の剣は、サードの得物より長い
相手に勝るリーチで間合いの外から斬りつける
(速い)
サードは前へ出た。リーチの長い相手は接近戦に弱い。懐へ入れば相手の得物が仇になることがわかっていたからだ
「!?ちっ」
サードは突然強引に上体を捻りとっさに後方へ跳ぶ
白銀の斬線がサードがいた場所を斜めに断ち切る
「ふぅ」
再び距離を開けサードは溜めていた息を吐き出す
切り返しのスピードが予想より何倍も速い・・・
反応が遅れたら肩口から腰まで切り裂かれていただろう
「なにが目的だ」
「・・・俺の目的はお前との手合わせだ」
男は同じ体勢で疾る
どの方向によけてもあれだけのリーチとスピードならかわすこともできないだろう
だからサードは再び前へ出た
同じ踏み込みに男の剣もまた同じ軌跡を描く
なにかが宙を舞った
垂直に跳ね上がったそれは元あったであろう場所にドサリと落ちる
――剣を握りしめた男の右腕だ
「誰に頼まれた?」
男の背後でサードがいう。二人はいつの間にか位置を入れ替えていた
男の喉元に自分の刃の切っ先を当て再び尋ねる
「誰に頼まれた?」
「ぐ・・・あ・・・」
男は必死に失った右腕の痛みに耐えているようだ
「俺だよ・・・」
男が現れた場所から突如声がする
サードがそちらを向くとそこには男が立っている
歳は30〜40歳あたり、瞳の色は茶色、髪は炎のように赤い
眉間に刻まれたしわは、なんともいえない重圧感がある
「お前がか?なんのようだ・・・」
「なに、ソニアの甥であるお前を試そうと思ってな」
(ソニアを知っている!?)
「何故ソニアを知っているという顔だな・・・昔、ソニアは俺達の組織『鬼神衆』にいた・・・」
『鬼神衆』・・・この大陸では知らない者のいない暗殺組織、依頼とあらばどんなに汚い仕事もする・・・
「その、『鬼神衆』がなんの用だ」
「俺達の組織に入らねぇか?」
「・・・いいぜ」
サードはあっけらかんと答える
男はその態度に拍子抜けしたようだ。断ったら始末するつもりだったのだろう
「随分、簡単に答えるじゃないか」
「ただし条件がある」
「なんだ?」
「ソニア探せ」
サードの出した条件・・・それは2年前に姿を消した叔母『ソニア』の捜索だった
「わかった・・・いいだろう。俺はこの鬼神衆の頭領リカルド・クレメンテだ。よろしく頼む」
「おい!誰かこいつを連れて行け」
リカルドはサードの斬った相手を指差し叫んだ
すると茂みの中から2人の男が現れた
「ケビィンさん大丈夫ですか?」
ひょろ長い魔導師風の男がサードの斬った相手『ケビィン』に心配そうに尋ねる
「ちっ、イテェ・・・」
「それにしても組織で1,2を争うケビィンさんを斬るとは恐ろしい奴だな・・・」
もう一人の重戦士であろう男がボソリと呟いた
それからしばらくの間サードはこの組織『神鬼衆』に身を置くことになる
サードが神鬼衆に身を置いて数ヶ月後・・・
サードはある屋敷にいた
組織の依頼でここの屋敷に保管されている『ブルーダイヤモンド』を強奪しに来たのだ
(ちっ、奪うのは結構面倒なんだよなぁ・・・)
そう、屋敷では万全の警備体制が敷かれているだろう
しかも、雇われている奴らは皆かなりの手練のはずだ
心の中でぼやきながら目的の物を探していると案の定、3人の男達に道を塞がれる
戦士の男と魔導師の男・・・あとは服装から見ると盗賊の男だろう
「・・・お前が侵入者か・・・?」
戦士が静かに尋ねる
「違う・・・と言ったら見逃してくれるのか?」
「こんな所でそんな格好でいれば侵入者としか言えませんが・・・」
物腰の柔らかそうな男が呆れたようにツッコミを入れる
「・・・!?・・・が・・・ぁ」
いきなり盗賊の男が宙を舞った。まるで車にはねられたような勢いだ
もちろんやったのはサードである。居合いの一閃が確実に相手の命を刈り取った
「・・・見つかったならしょうがない・・・死んでもらおう」
「「!?」」
一瞬なにが起こったかわからないように男達は絶句し、そして恐怖を覚える。まだ、年端も幼い少年一人に・・・?
しかし、彼らもプロだ。仕事に感情は挟まない
彼らは仕事に私情を挟まない。
彼らは仕事で自らの死を厭わない。
彼らは昔からそう言う風に黙々と仕事をこなしてきた
「はぁ!!」
張りつめた緊張の糸を断ち切るような気合いを発し男が疾った
得物はバスタードソードだろうか。ゴォッ!という重圧感のある音がハッキリと耳に伝わる
サードは男の一撃をかいくぐりながら一撃を与えようとした
「火龍砲!」
サードめがけて強力な炎の渦が放たれる
「ちっ」
サードは舌打ちし後ろへ跳躍してかわす
もう一人相手がいることを忘れていた
(彼奴のほうが厄介か・・・)
サードは標的を魔導師の男に変え、そちらへ疾る
「く・・・フリーズミスト!」
男の放った合成魔法は確実にサードの足を止める・・・はずだった
しかし、サードには当たらない・・・変幻自在の動きでフリーズミストをかわしていく
その、動きはまるで舞を踊っているかのように美しい
「はぁぁぁぁぁぁ!」
ザシュ!
サードの居合いは魔導師の肩口から腰をバッサリと引き裂いていた
サードが男達に見つかってから数分しかたってない
「さ、あと一人だな」
「くっ、う、うぉぉぉぉ!」
恐怖・・・男は用心棒としてトップクラスの自分達相手を赤子を捻るように手にかけるサードに恐怖していた
生まれて初めての恐怖・・・それは男の冷静な判断力を鈍らせていた
「遅い・・・」
サードの居合いの一閃が男の人生を強制的に終了させた
「見つけなければ死なずにすんだのに・・・」
サードは命の尽きた肉の塊を見てポツリと呟いた
奥へ進むとそこに依頼の品『ブルーダイヤモンド』が妖しい光を放っていた
「任務・・・完了か」
サードはブルーダイヤモンドを手に取り組織へと向かった
そのころ組織では・・・
男は走っていた・・・長い廊下をただひたすら・・・そしてバンッと勢いよく扉を開ける
「頭領っ!」
「なんだ?騒々しい」
頭領・・・リカルドは葉巻をくわえながら嫌そうな顔をしてみせる
「ソニアの・・・ソニアの情報が見つかりました!!」
「何!?今・・・今何処にいる!」
「実は・・・」
男は辺りに誰もいないことを確認するとリカルドに密かに耳打ちする
「・・・なんだと!?それは確かかっ!」
「は、はい確かな情報です・・・」
リカルドは男の襟首をつかみながら睨み付ける
どうやら衝撃的な内容らしい
「サードはどこだ!」
「ま、まだ任務から帰ってきてません」
「ちっ、速く戻らせろ!」
部屋の中にはリカルドの怒号が響きわたっていた・・・
まだ、夏の始めの曇り空のことだった・・・