コツコツコツ・・・
リノリウムを叩く音が一定のリズムを刻む
コツコツコツ・・・
「ふぅ・・・」
キィッ・・・
サードは溜息をつきながら自分の部屋の扉を開けそしてすぐにベッドに倒れ込む
ベッドといっても刑務所で使うような簡単な作りだ
「あ〜疲れた〜」
なんとも情けない声だ
目を閉じれば5秒で眠れそうだ
「今日はホント疲れる仕事だったな・・・」
コンコン
不意に扉を叩く音がする
音がする扉のほうを向くと男がもう扉を開きその扉をノックしていた
「なんだ、ケビィンか・・・」
「なんだはないだろう?ダークレッド」
男はしかめっ面をしてみせる」
『ダークレッド』それは組織の者達がサードの呪蛇紋を見て付けたあだ名のようなモノだ。今では通り名にもなっている」
今では、サードのことを皆ダークレッドと呼ぶ」
「で?何の用だ?」
「頭領がお呼びだ」
「リカルドが?」
「ああ、早く行け」
「ちっ、めんどくせぇな」
しぶしぶサードは起きながら愚痴をこぼす
「ところで、どんな用件なんだ?」
「知るか。俺は呼んでこいと言われただけだしな」
「そうか・・・」
サードはケビィンに手を振りながら長い廊下を歩き出す
「ちっ、気に入らねぇ奴だ」
サードが見えなくなってからポツリとケビィンが呟いた
注意して聞かないと聞こえないほどだ
ズキッと右腕が痛む
前にサードに斬られた箇所だ
今ではもう機械になっているため痛むわけがないのだが・・・
(力ガ欲シイカ?)
心の中に直接声がする
心の中というより脳に話しかけられているようだ
「ああ、欲しい・・・サードよりも強い力が・・・!」
(ナラバ我ニソノ身ヲ委ネヨ・・・)
「・・・・・」
ケビィンの意識は強制的に遠のいていった・・・
「ククク、見ツケタゾ・・・現人神・・・」
ケビィンの声よりもずっと低い声
唸り声のようにも聞こえる
だが、発しているのは紛れもなくケビィンだ
コツコツコツ・・・
リノリウムが再び音を発している
自分が歩くのと同じリズムで一定の音を保ちながら
コンコン・・・
「誰だ?」
中から男の声がする
サードの声よりも低い重圧感のある声だ
「俺だ・・・」
「ああ、サードか。入れ」
そう言われてからゆっくりと扉を開ける
部屋の中は案外広く百人入ってもかなり空きがあるだろう
「なんの用だ?」
入ってすぐ用件を聞く
どうやら、かなり眠いようだ。意識が朦朧とする
「ああ、実は・・・ソニアのことでな」
今まで朦朧としていた意識が覚醒する
「なんだと!?」
「まあ、座れ・・・話は長いからな」
サードは勧められた席へ座る
心地よい革の感触が伝わってくる
「で・・・ソニアは今何処にいる?」
「ああ、言いにくいんだが・・・ソニアはもう死んでいたよ・・・」
「何!?」
「原因不明の病だったそうだ・・・」
「何時だ!?何時死んだ・・・」
「8年前・・・俺達の組織を抜けて最初に立ち寄った街「アルバーク」という街でだそうだ・・・」
(8年前!?俺が生まれた年じゃないか!?どういうことだ)
「リカルド・・・そういえばお前が俺の前に現れたときにはまだ、ソニアは生きてたのか?」
「ああ、村で集めた情報でソニアと思しき人物が6歳くらいの子供を連れていたと連絡があったからな」
(人に見えるということは幽霊・・・ではなさそうだな)
サードの頭の中は混乱していた
自分が生まれたときにはもう死んでいた叔母・・・ソニア
しかし、確かにサードに生きる術、生きる目的を与えたのはソニアである・・・
(じゃあ、どうやって俺の前に現れた?)
(いや、自分で確かめるか・・・)
サードは混乱している思考を強制的に中断しある決意を固める
それは、組織の脱退・・・
「わかった・・・・じゃあな」
「組織を抜けるのか?」
「ああ、そのつもりだ・・・」
「決心は揺るがない・・・な。わかった、だがお前もここの掟は知ってるだろうな?」
リカルドは葉巻に火をつけながら尋ねる
「ああ」
『神鬼衆』の掟・・・それは脱退する場合には組織の者を全員抹殺すること・・・
ソニアの時は全員峰打ちで倒したがサードにそのような手加減をする技術はない
「じゃあ・・・行くぞ。来い!野郎ども!!」
ありがちなセリフをリカルドが叫ぶとバンッと勢いよく扉が開き、そしてワラワラと組織の者達が入ってくる
外で待ち伏せていたのだろうか・・・行動が速い
組織の者全員とあって百人は楽にいるだろう
「抜けるのだな?ダークレッド・・・」
槍を持った屈強そうな男が言う
「・・・お前とはもう一度手合わせしたかったんだ・・・」
ケビィンが口元に笑みを浮かべながら嬉しそうに言う
左目が紅くなっている気がする
「ここにいる奴ら全員のタマ取れると思ってんのか?」
両手にダガーを携えたいかにも軽そうな男が尋ねる
「当たり前だ。お前らにはまだ俺の本気ってヤツを見せてねぇからな」
そう言って両手にはめたグローブを外すと無造作にポケットへ突っ込む
ほのかに、呪蛇紋が紅い光を放っている
「大した余裕じゃねぇか・・・テメェ一人でこの数殺れると思ってんのか!!」
男が疾る
かなり速い・・・男が残像を残しながらこちらへ猛然と突っ込んでくる
だが、それはフェイントで本命は上だろう・・・
サードは直感的にそう思った
(やっぱ、身体が軽いな)
サードは刀を一閃する。いつもの居合いとは比べ物にならないほど速い
刃には魔力が籠もっているのだろうか?刀身から魔力がにじみ出ている
ズバッ
鈍い音がして男の両腕が吹き飛ぶ・・・。
もう、武器を持つどころか箸も持てないだろう・・・
「ぐ・・・がぁぁぁぁ!痛ぇ!痛ぇよぉ!!」
男があまりの痛さにのたうち回る
「く・・・う、うぉぉぉ!」
今度は全員で襲いかかる
どこへ行ってもかわすことはできないだろう
「はぁっ!」
気合いと共にサードは両手を突き出す
目の前の空間が歪み小型のブラックホールのようなものがあたりにあるものすべてを吸い込み。そして、吐き出す・・・。あたりを白煙が包んだ
白煙が引くとそこには人に山ができていた・・・
まだ、最初の男が襲ってきてから2分とたっていない・・・
荒れ果てた組織の本拠地の屋根は吹き飛び、星の輝きが辺りを照らしていた
その、荒れ果てた本拠地の中に3人の男がいる
1人はサード
もう1人はリカルド
そして、ケビィンもいる
「さぁ、ここからが本番だダークレッド・・・本当の殺し合いをしようぜぇ」
ケビィンが嬉しそうに両刃の剣を構える
「いいぜ・・・だが殺すつもりはない」
まだ、組員には辛うじて息がある
「・・・甘ちゃんだな。俺は殺さないとしつこいぜ!!」
ケビィンが疾る。前に闘ったときとは速さが格段に上がっている
機械に変わった利き腕はサードを刀ごと切り落とすだろう
サードはケビィンの斬撃をかわしながらそう思う
「どうしたぁ?かわしてばっかじゃ俺には勝てないぜ!」
ケビィンが後ろへ飛び退き、そして印を組む
「ギャラクシーバーニング!」
ケビィンの放った合成魔法がサードめがけて飛んでくる
初めて見るケビィンの魔術・・・その威力は一般の魔術師も舌を巻くくらいだろう
ケビィンの生家は魔術師の家系だったが組織に入った時に剣士に転職したのだそうだ
ケビィン曰わく「男はやっぱ拳・・・だろ?」らしい
サードは身じろぎもせず、その合成魔法を・・・斬った
元来、魔法と剣は相対するものとされていて斬ることはできないはずである
だが、呪蛇紋を解放したサードは刀に魔力を込めているため斬ることができる
いわば、魔力を魔力で相殺したのだ
魔術を放ったケビィンはスキだらけだった
ドンッ
斬った時とは違う音がした
サードは斬りつけるときに込めていた魔力を暴発させたのだ
斬っていないため、死にはしないだろうが肋は7〜8本折れているだろう
「ぐぁ・・・」
ケビィンは低いうめき声を上げながら吹き飛ぶ
10mあたり吹き飛んだあたりで地面に叩き付けられた後、それ以後動かなくなった
「お前で最後だ・・・」
今まで沈黙を守っていたリカルドに向けて言い放つ
「速いな・・・だが、俺はそうはいかん」
リカルドは得物・・・ハルバートを構え疾る
ギィィィィィン!
2つの鋼がぶつかり合う音が響きわたる
「はぁ!!!」
リカルドは鋭い突きを3発放つ
足元、武器を持っている右手、喉元を正確に突いてくる
(ちっ、速いな・・・)
サードは紙一重でかわしながら居合いを放つ
だが、それも虚しく空を切る
サードは一旦、後ろへ飛び退き距離をとる
「なかなかだな・・・だが、まだだ!」
リカルドはそう言いながら尚も前進する
「はぁ!!」
リカルドは気合いを放ち、得物を横へ薙ぐ
ガギィン!!
サードの刀は宙を舞い、そしてリカルドの背後の地面に突き刺さる
「もう、終わりか?」
「そう、易々と死ねるかよ!」
今度はサードが疾る、しかし右手には刀が握られていない
「ふっ」
鋭く呼気をつきながら肘撃から裏拳へと繋いでいく
ドガッ!
サードの肘撃がわき腹に、裏拳がリカルドの顎にキレイにきまる
「ぐぅ・・・」
リカルドはよろめきながら得物で尚もサードを突く
サードはしなやかにそれをかわす
刀を持っていたときよりも動きが速い
攻撃を放ったリカルドにスキができる
(スキありっ!)
「ふっ」
再び鋭く呼気をつきながら今度は掌底、下段蹴り、そしてハルバートを持っている右手に踵を落とす
カランッという金属音と共に得物を落としてしまう
「ちっ、ステゴロか・・・」
リカルドは呟きながら構える
どこの流派かはわからない
突如、重い空気があたりを包む・・・。重いというよりどす黒いという感じだろうか
(この感じは・・・!?)
殺気・・・とも違う。あらゆるものを恐怖に陥れるような感覚・・・
リカルド・・・からではない
サードは反射的に後ろを振り向く
肋が折れて気絶しているはずのケビィンがそこに立っていた
「ぐ・・・なんだ・・・この感覚・・・」
どうやら、リカルドもケビィンの異変に気がついたようだ
さっきまで、片目だったケビィンの両目は紅く染まっている
(ケビィンからなのか?この感覚・・・)
サードは直感的にそう思った
「ミ、見ツ・・・ケタ・・・ゾ。ア、現人・・・神」
ケビィンがブツブツとなにか言っているが途切れ途切れにしか聞こえない
「ケビィン!?どうしたんだ!?」
リカルドが驚いたように言う
「ケ、ケビィンデハナイ・・・我ハ、禍神・・・」
(禍神!?そういえば昔、ソニアから聞いたことがあるな)
「どうしちまったんだ!ケビィン!」
「あれはもうケビィンじゃない・・・」
「何!?じゃあ、ケビィンは・・・」
「どうやら、支配されているようだな」
「助ける方法はないのか?」
「すまん・・・そこまでは知らないんだ」
「そうか・・・」
リカルドは悲しげに答える・・・
組織の者は皆家族も同然・・・悲しくないわけがない
「ならば、俺の手で引導を渡してやる!」
リカルドは足元に落ちている拾い上げ疾る
「うぉぉぉぉ!」
激しい気合いを発しながら得物を薙ぐ
「貴様ニ用ハナイ・・・死ネ」
ドスッ
ケビィンの突きがリカルドの腹部に深々と突き刺さる
「ぐ・・・あ・・・」
「ククク、弱キ者ニ用ハナイ」
リカルドはその場に崩れるように倒れる
サードはなぜか怒りを覚えた
他人なのに何故・・・
「やっぱ、用があるのは俺か・・・」
「現人神ノ末裔デアル貴様ヲ殺セバ我ノ呪イモハタセル・・・」
「だが俺もお前を殺せばこの忌々しい呪いも解ける」
「我ヲ殺ス?ククク、アハハハ、ソレハ無理ダナ」
「やってみなきゃ、分かんねぇだろ!」
サードは地面に刺さっている刀を抜き疾る
ギィィィン
サードの一撃は簡単にケビィンに止められる
「まだだぁ!」
二撃目を放つ
ドスッ
「なっ・・・!?」
ケビィンは直接、身体で受け止める
「ハハハ」
ケビィンは笑いながら剣を一閃する
ザシュ!
一閃した刃はサードの腹部を斬りつける
ドクドクと血が溢れる
冷や汗が止まらない
「我ハ、精神ノミノ存在ダカラ、ソノ様ナ攻撃ナド効カヌワ・・・
突如サードの視界がふっと暗くなる・・・・
『ブラックアウト』・・・下半身に血液が急激に移動するために起こる視力喪失状態・・・
すなわち、サードには今、何も見えていない
(そういえば、昔ソニアが言ってたな)
(「いい?サード、呪蛇紋の力を長い間使うと視力が一時的に失われるわ。それ以上使うと呪蛇紋に精神を支配されることになる・・・。大体、5分が限度ってとこかな」)
(ちっ、こんなときに)
「ソロソロ、死ンデモラオウカ・・・」
サードは死を覚悟した
だが、不安や恐怖という現実感がない
『怖いか?』
『ああ、怖いな・・・』
『らしくねぇな』
『だよな』
不思議と笑いが止まらない
「・・・じゃあ、肉体が滅んだら・・・どうなんだ?」
リカルドがケビィンの背後に立っている
声の調子からかなりの出血をしているようだ
リカルドはケビィンの肩を掴みなにかの呪文を唱える
「一緒に・・・成仏しようや・・・」
「何ヲスルキダ!?離セ!」
「グランモール!」
リカルドは禁術を唱えた
しかし、この距離ならばリカルドの命もない
玉砕覚悟だったようだ
「・・・じゃあな・・・サード・・・生き残れよ」
それがリカルドの最後の言葉だった
ケビィンの四肢は吹き飛びあたりは暗黒に包まれた
「ク・・・油断シタ・・・コノ肉体ハモウ使エナイヨウダナ・・・」
「ああ・・・お前の負けだな・・・」
目の見えないサードがケビィン・・・であった物の声がする方へ話しかける
「負ケ?ククク、我ハ肉体ガ無イト言ッタダロウ?次ノ器ヲ探セバイイコトダ」
「今度は俺がお前を殺してこの呪いを解いてもらうからな」
「ククク、楽シミニシテイヨウ・・・現人神・・・マタ会オウ」
そう言い残しケビィンだった物から黒い霧が空へ向かって吹き出る
殺すのは簡単だ。いつでも殺れる。だから、生かしておくと最後の言葉は言っていたのだとサードは確信した
「ひとまず終わった・・・かな?」
サードは自分の腹の止血をしながら呟く
「ふぅ・・・流石に今回は死ぬかと思ったな・・・」
溜息をつきながら呟く。やっと、視界が晴れてくる
(生き残れ・・・か)
リカルドの言葉を思い出しながら空を見上げる
もういつの間にか夜明けだった
(昔、同じこと言われたな・・・)
相手を恐れること恐怖することそれが生き残る手段・・・
昔言われたことを思い出す
昼になりサードは、ケビィンの墓とリカルドの墓の前にいた
あれだけ、暴れて死者が2人だけとはある意味奇跡にに近い
「ありがとう・・・ごめんなさい」
2人の墓の前で今までの感謝とこんな結果になったことを謝罪した
「絶対にリカルドに言われたことは忘れない・・・必ず生き残ってまた来るからな・・・」
そう言って墓を後にする
その背中は陽光に照らされて一段と大きく見えた