「うがー、やっと着いたー」
サードの咆哮が辺りにこだまする
ここは「アルバーク」サードが現在いる大陸では最も発展しているであろう都市である
そして、ソニアが昔行方を断った場所でもある
サードはこの街にたどり着くまでに5年…現在、サードは15歳である
此処に至るまでサードは色々な街を旅してきた
時には、税関で金が払えず大道芸を税関の門番に見せ無理矢理通ったり
食料を捕獲中に崖から転落し、生と死の境を彷徨ったりと波瀾万丈の旅をしてきたようだ
「さて、飯だな。飯♪」
どうやら、どんなことより食事が重要らしい
「お、あそこの酒場にしよう」
そう言ってふらふらと酒場の中へ消えていった
既に夜中になっていたのでやっているのは酒場くらいのものだろう
「…いらっしゃい…」
中へはいると無愛想な店主が出迎えた
酒場には無愛想な店主というのが定番らしい
「親父!飯だ。飯をくれ」
「…分かった…」
店主はサードに水を差し出すと厨房へ入っていった
店内は殺伐としていていかにも酒場と言ったところだろうか
客はサードも含めて3人居る
1人は、盗賊だろうか。額に巻いた赤いバンダナが印象的だ
もう一人はサードの隣に座って特大のパフェを食べている。
(夜中だというのによく喰う娘だ)
身なりからすると魔導師だろうか
「…お待たせした…」
厨房に入っていた店主が両手に大盛りの料理が盛ってある皿を持ってやって来た
「お、待ってました♪」
料理を受け取ると次々と口へ運ぶ
店主は相変わらず無愛想だが内心よく喰うヤツだと思っていることだろう
10分後には皿は空になっていた
「ふう、ごちそうさん」
「ごちそうさまでした」
サードの隣で特大パフェを食べていた女性と声が重なった
「アンタに一つ聞きたいことがあるんだが?」
サードは徐に女性に声をかける
「何ですか?」
女性はきょとんとした顔で答える
「あのな…ソニア=エクリプスってヤツ知ってるか?」
そうサードが訪ねると一瞬にして女性の目の色が変わった
「ソニア!?そりゃあもう!」
女性の目は宝石を見るようにキラキラと輝いている
「ソニアお姉さまといえばこの街の自警団団長ですよ」
(自警団ねぇ…アイツらしいと言えばアイツらしいな)
「で?ソニアは今も自警団をやってるのか?」
「ふふ、私はソニアお姉さまファンクラブ会員NO.4なんですよ〜」
そういって女性は会員証を見せる
会員証には「アルバーク公認ソニアファンクラブ」と書かれていた
(…公認なのか?)
「あなたもファンクラブに入りたいんですか〜?」
「いや…入りたくない…。ソニアはまだこの街に居るのか?」
「お姉さまは…今、行方不明なんです…」
(行方不明…やっぱりな)
「でもでも!お姉さまはきっと生きてますよ!私には分かります!」
気休めなのは分かっていたがそれでもサードは嬉しかった
「そうだな…えーと…」
「あ、私リィムっていいます〜」
「そうか…さんきゅな、リィム」
「いえいえ、ファンクラブに入りたい時は私に言って下さいね〜」
「…ああ…」
サードは苦笑しながら酒場を出ようとした
「…待て…」
出ようとした瞬間に店主に引き留められた
「…勘定がまだだ…」
「ああ、そうか悪いな」
サードは財布を取りだし中を確認する
「…」
足りなかった。むしろ中には何も入っていない
「…すまん。表で稼ぐから待っててくれ」
「…逃げるなよ…」
店主の目には殺気がこもっていた
(…逃げられねぇ…)
どうやら逃げる気だったらしい
渋々サードは表に出て大道芸を始めた
夜中に大道芸なんぞ見る人が一体何人いるのだろう
「さあ、お立ち会い。楽しい大道芸の始まり始まり〜」
そう言って手始めにナイフ7本でジャグリングしてみせる
「おぉ〜!!」
いつの間にか大勢の人に囲まれていた。夜でこんなにも集まるのは珍しい
(ふふふ、今日の俺はキレてるぞ)

ザクッ

「ぎぃぃぃやぁぁあ!」
本当にキレていた
キレたと言っても親指を少し切ったくらいだが
「なんだ…行こ行こ」
大勢居た人の群はバラバラと思い思いの方向へ散っていく
「うぅ…今日は日が悪いな…まぁ、飯代は稼げたかな?」
籠の中を覗いてみる
(後、少し足りないな…)
というか全然足りない
再び、サードは大道芸を始めた
「なかなか、楽しい芸じゃったぞ」
いつから居たのだろう…老人がサードの目の前にいた
「見てたのか?じゃあ、払うモノを払え…」
そう言って右手を差し出す
「しょうがないのう…ほれ」
ズシリと重い物が右手にかかる
右手には一太刀の刀が載せられていた
黒光りした鞘が妖しい雰囲気を醸し出している
「何だコレは?金出せ、金!」
「そう言うでない。かなりの業物じゃぞ」
サードは太刀を抜いてみる
刀を普段から扱う者にはすぐにわかった
その太刀には刃が無かった…ナマクラだ
「おい、刃が無ぇぞ。斬れないだろうが」
「斬れるじゃろう?お主なら…なんならコレも付けるぞ」
そう言って一冊の本を渡す
『十二神帰神法覚書』それが本の題名らしい
「だから金を出せって言ってるん…だ?」
そこには、老人の姿どころか居た痕跡すらなかった
「なんだ?あのじいさんは…」
そう言って本をパラパラと捲ってみる
その中には十二神帰神法という武術について事細かに記されていた
そして最後にはこう締めくくられていた
『この業、現人神のみが使える業…禍神を屠る神の禁技…」と
その文を読んだとき、突然サードは睡魔に襲われた
(あれ?眠ぃ…)

時が流れている
いや、時が巻き戻っていると言った方が正しいだろう
(ん?あれは…俺か?)
子供の頃のサードの記憶だろうか
しかし、時はすぐ巻き戻る
ソニアの記憶、知らない男の記憶、そして初代現人神の記憶まであった
(なんか、見た顔だな…最後のヤツ)
そして、サードの精神は森の中へとやって来た
「やっ、久しぶり♪」
見たことのある顔だ…いや、忘れもしない
「ソニア!お前どこ行ってやがったこの野郎!」
「この野郎?」
心なしかソニアの顔に青筋が浮かび上がっている
「誰がこの野郎じゃ!ボケっ!」
ギリギリとサードを締め上げる
「いててててて、すいませんお姉さま」
「よろしい」
なんとかサードは呪縛から解放される
「で、どこにいたんだ?」
「どこってずっと此処にいたけど?」
「は?というか此処はどこだ?」
「此処は…サードの心の中だよ」
ソニアの最後に残した言葉『死んだ人は、その人のことを思ってくれる人たちの心に散って行く』の通りということか
「じゃあ、ずっと俺の心の中にいたのか…」
「そういうこと… じゃ、やろうか」
そう言ってソニアは腰にぶら下げてある刀に手を伸ばす
「おいおい、やるって何を…」
「勿論、死合だよ…サードがどれくらい成長したか見てあげる…」
力量を計ると言ってるわりには殺気が迸っている
「まったく…」
ぼやきながらサードも刀に手をかける
ソニアとまったく同じ構え、同じ呼吸法…
最初の一太刀で全てが決まる…
2人ともそれは十分知っている
殺す気でやらなければ此方が殺される

どれだけ時が経っただろう…
2人ともまったく動かない…いや、動けない
先に動けば居合いの一閃が切り裂くだろう

カラ…

どこかで石の転がる音がした

「「はっ!」」

同時に仕掛けた
けたたましい鋼の絶叫が響きわたった…